「中国で広がる巨大企業への統制は何を意味するか~中国ではむしろ第二のジャック・マーが誕生する可能性も~」

2021年9月22日

 中国の習近平政権が、巨大なIT大手など民間企業に対する統制を強めていることが、各種報道で伝えられ、改革・開放から約四十年間、市場経済の道を歩んできた路線の転換点となる可能性もあることから、中国経済の先行きを懸念する声が出ています。
 しかし、こうした統制は「国家安全」や「共同富裕」など政策上の観点から必要な企業に対してのみ及ぶものであることや、「国進民退」も一部の傾向にとどまり、今後も民間企業によるイノベーションが期待できると日本の中国経済専門家は考えていることが、言論NPOの座談会で分かりました。
all.jpg この座談会は、「中国の企業経済と国家管理の未来」をテーマに9月6日までに行われたもので、伊藤信悟氏(国際経済研究所主席研究員)、西村友作氏(中国対外経済貿易大学教授)、福本智之(大阪経済大学経済学部教授、元日銀国際局長)の三氏が出席し、司会は言論NPO代表の工藤泰志が務めました。

 座談会では、中国当局による民間企業の統制がITの巨大なプラットフォームから教育など様々な産業に及び始めている現状について議論展開しましたが、3氏はこれらの規制は全ての民間企業に対して行われているものではなく、巨大なプラットフォーマーの政治的な影響力の抑制や金融やデータセキュリティというような、国家の安全に関わる部分に行われているものとの認識で一致しています。
 この中で伊藤氏は、膨大な個人情報を保有する企業を「国家安全」のリスクとみなしていることや、経済成長から格差を是正し、国民全体で豊かになるという「共同富裕」に政策の軸足が移ったことなどが背景にあると解説。また西村氏は、こうした政策上の観点から規制が必要な民間企業だけが規制の対象になっているのであって、すべての民間企業が対象になっているわけではないと指摘しました。
 福本氏も、そもそもこれまで民間企業に対して寛容でありすぎた面もあるとし、あくまでそこから生じた弊害(独占など)の是正が目的であり、あらゆる民間を広範に統制しようとする意図は中国当局にもないことを強調しました。  ITプラットフォームの国際的な競争力向上も打ち出す習政権の方針は、こうした規制の強化と相容れないのではないかという点については、西村氏は「イノベーションを削がない程度の規制にとどめるはず」とし、中国政府もバランスを取っていくと予測しました。

 また「共同富裕」の背景にある格差への国民の不満の声は大きいため、共産党としてもこれを無視できず、今後も規制は続くとの見方でも3氏は意見が一致しています。
 ただ、これらの規制が急速で、どこまで規制をしていくのか、市場から見れば予測可能性が乏しいため、チャイナリスクへの不安は高まるのではないかとの工藤に質問に対しては、「確かにどこまで規制し、どこまでが自由なのか、その線引きはクリアではない」との指摘もありましたが、「規制が行き過ぎて萎縮が生じたら修正するという繰り返しになるのではないか」(福本氏)、「巨大ITプラットフォームにすぐに買収されてしまっていた中小企業にとっては、適正な成長環境の整備になる」(西村氏)などの見方も出されました。
 最後に、習近平体制発足以降、「国進民退」の傾向が強まっているのではないかと工藤が問うと、福本氏は製造業における国有企業のウエイトがここ数年は横ばいであることなどを挙げつつ、「一部には国進民退の傾向はあるものの、全体的にはそうでもない」と回答。習近平氏も折に触れて民間企業の果たす役割の重要性を語っているとし、今後も権威的な政府と活発な民間経済の暗黙の「共犯関係」は続いていくとの見方を示しました。

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