台湾問題の大きな論点は、米国の武力支援の意志があるのかと、さらに中国侵攻の大義名分であり、「台湾が民主的なプロセスで独立を決めた場合」の対応
3氏の問題提起に関しては、参加者から様々な意見や質問が出されました。
イタリアの国際問題研究所(IAI)副理事長のエットーレ・グレコ氏は、ウクライナと台湾は類似性よりも違いの方が大きいということは分かったとしつつも、二つの疑問があるとし、一つは「米国に台湾で武力行使する意思があるのか」であり、ウクライナでの米国の行動は中国にとっても検討する機会を与えたと語りました。
さらに台湾海峡では、偶発的な事態から紛争になる危険性があること、さらに中国の武力侵攻するための「大義名分」とは何か、と問いました。
インドのORF理事長のサンジョイ・ジョシ氏からは、米国が武力行使ではなく、経済制裁をした場合、中国の行動にどのような影響があるかと中国側に質問が出ました。
これに対して宮本氏は、「中国にとっての大義名分は台湾が独立することで、例えば台湾が国民投票で独立を決めた場合、中国は軍事的に動くしかない」とし、しかも「それが民主的なプロセスによって独立が選ばれた場合、それを見捨てる国がどれくらいあるか、極めて難しい問題を我々に突きつける」とし、台湾側には冷静な判断を期待しました。
周波氏は、中国は10年以内に世界最大の経済国になるとし、「世界最大の国への経済制裁は全ての国が一致しないと効果はない」と述べました。
フランスIFRIのトマ・ゴマール所長は、ウクライナ戦争では市民の抵抗力がかなり強く、それを過小評価していたこと、さらにNATOの東方拡大もそれぞれの国家が意思決定を行っており、NATOや台湾でもそれを軽視すべきではないと語りました。その上で今後の展開では中国とロシアとインドの関係をどう考えるのか、と質問を投げかけました。
これに対して、周波氏はインドの立ち位置は、「米国よりも中国に近い」と語り、インド太平洋のキープレイヤーであるインドについて言及。日米豪にインドが加わってクアッドを形成したインパクトは大きいとしつつ、インド軍兵器の約6割はロシア製であるなど印露軍事関係の強固さを指摘。同時に、「実は海洋法の理解に関しては、インドと中国はよく似ている」とした上で、昨年、米海軍がインドのEEZ内で「航行の自由作戦」を実施したのに対し、インド側が自国法に違反しているとして反発した事例を紹介。ウクライナ問題で沈黙を続けるその態度と相まって、インドは必ずしも米国側に立っているとは限らないことを示唆しました。
まず、台湾有事が起こる可能性については、台湾が独立に向けた具体的行動を起こさない限り可能性は低いという点では各氏の認識は概ね一致しましたが、全くリスクがないわけではないとの意見も寄せられました。
シンガポール・ラジャラトナム国際研究院(RSIS)シニアフェローのローレンス・アンダーソン氏は、習近平政権と中国国内の懸念材料について言及。まず、習近平氏の失敗として、台湾統一のタイムスケジュールを2049年と明確にしてしまったことを指摘。こうした具体化が台湾側の警戒感を高めているとの見方を示しました。また、ロシア政権内部ではプーチン大統領に都合の悪い情報が伝わっていないとの見方を示した上で、「習近平氏周辺でもこれと同じことが起こっているかもしれない」と推測。誤った情報に基づき、誤った行動に出るリスクを指摘しました。
さらに、中国国内のSNSをモニタリングした結果として、「政府よりもむしろ国民の方が好戦的なのではないか」とし、過激な国内世論によって政権が突き上げられて行動に出ることも懸念要素としました。
台湾海峡における緊張を低減させるため、中国側が米国や同盟国に何を望んでいるのか、という質問に対して周波氏は、「台湾に独立を促すなど誤ったシグナルを送らないことを望む」と回答。また、バイデン政権はトランプ政権の台湾政策を引き継いでいるとの見方を示した上で、「中国がインド太平洋から米国を追い出して、影響力を拡大しようとしている、などという過度に警戒する見方をやめるべきだ。中国が関心を抱いているのは西太平洋だけだ」などと主張しました。
台湾有事の際に、米国の台湾に関する軍事支援が本当にあるのか、という点についてはこの日の議論の大きな論点でした。
シンガポールのアンダーソン氏も「米国は介入する」と回答。米国にとっての半導体供給網としての台湾は、米中対立が深刻化する中では戦略的不可欠であることがその理由だ、としました。
また、アフガニスタンから撤退し、ウクライナにも介入しなかった米国が、さらに台湾まで見捨てるとなれば、世界における米国の地位の失墜は著しいものになることも理由であると語りました。
工藤は、河野前統合幕僚長にウクライナでの教訓から、中国が台湾への軍事行動をした時に、米国が軍事行動を取ることを疑っていないか、を問いかけました。河野氏は、「間違いなく軍事介入する」と断言。その理由としては「沖縄に海兵隊の主力があり、横須賀に米海軍最大の艦隊である第7艦隊がある。目の前の台湾で火が吹いているときに、全くアクションを取らないという状況は、米国が米国であることを捨てるという意味に等しくなる」と語りました。
ただ、ウクライナ戦争の学習として中国は、米国は核戦争のリスクから軍事行動に踏み切らないと考えた可能性もあり、「そうした疑念を起こさせないためにも曖昧戦略ではなく明確な介入方針を打ち立てるべき」と注文を付けました。
これに対して、米国の外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントであるジェームズ・リンゼイ氏も、工藤の質問に答える形で、「米国は軍事的に台湾を支援すると思う」と発言。その理由として「そうしなければ、米国の東アジアのコミットメントに壊滅的な影響をある」とし、その上で、ウクライナへ米国が介入しないのは、核戦争の危機だけではなく、米国がこれまでウクライナ防衛にコミットメントしたことはなく、ウクライナはNATOの加盟国ではないとし、「台湾へのコミットメントはウクライナよりも大きく、二国間の同盟関係が日本、韓国、豪州にあり、それを考慮する必要がある」と答えました。
さらにリンゼイ氏は、曖昧戦略に関しては不変のものではないとし、「台湾がアメリカの望みに反して独立宣言をする、あるいはバイデン氏の次の大統領は台湾を支持しないかも知れない、あるいは他の地域で勃発した戦争に関わる場合、台湾に関しては別の見方をする可能性もある」と語りました。