ウクライナ問題や民主主義、世界経済に関して世界10カ国のシンクタンク代表が活発な意見交換~「東京会議2023」が開幕しました~

2023年3月23日

 世界のトップシンクタンク代表者や各国政府代表が集まる「東京会議 2023 ~世界の分断と対立をどう乗り越えるか~」が23日、東京・芝のホテルで議論がスタートしました。


ウクライナから1年、世界の協力と自由経済に活路はあるのか

 「世界の協力と自由経済に活路はあるのか」と題する非公開会議①には10カ国のシンクタンク代表者が参加。ウクライナ戦争から1年が過ぎ、日米欧など民主主義陣営と中露など権威主義陣営の対立が進む中、多国間協力と自由経済の活路をどう見出してゆくのかを論点として、活発な意見が交わされました。

 国家安全保障の観点から経済・貿易関係を考える傾向が強まっていることについて、政治と経済のパラドックスが強まっているとの見方が、出席者から幾度も示されました。その上で、第二次世界大戦後につくられたWTOなどの国際機関が従来の役割を果たせなくなってきており、ブロック化が進んでいるとの指摘も相次ぎました。この点に関して、現状では打開策を見出すことができず、しばらくは国際環境の風向きを見なければならないとの声も聞かれました。さらに2024年の次期米大統領選でドナルド・トランプ前大統領が再選された場合、現状が一層不安定化するとの懸念も示されました。

 米中間のデカップリングについては、米国の輸出データなどを通じて、デカップリングが一定程度生じているという分析が披露されると同時に、完全なデカップリングは困難との認識で一致しました。改革の必要性が求められているサプライチェーンにおいても依然として中国が大きな位置を占めており、リスクの集中を避けるための方策実現が重要であるとの発言もありました。

 また、近年指摘されるG20の政策遂行能力の脆弱さについては、改めてG7のリーダーシップの推進が求められるとの指摘がありました。国際社会で台頭しつつある「グローバルサウス」諸国との関係性については、まとまりに欠けるために、引き続きG7を中心に政策を示す必要があるとの見方が示されました。これに対し、「グローバルサウス」の国々の意見を排除すべきではない、という反論する意見も出されました。気候変動問題など国際社会が直面する喫緊の課題に対処するためにも、できるだけ多くの各国のコンセンサスを取り付ける必要がある、との考えで一致し、会議は終了しました。

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民主主義が壊れ始める中、「新しい資本主義」で何を実現するのか

 続く次の非公開会議では、「壊れ始めた自由と民主主義の修復は可能か」が行われました。このセッションには、ゲストスピーカーとして木原誠二内閣官房副長官が登壇。日本の首相が戦後初めて戦地に入るという、岸田文雄首相による歴史的なウクライナへの電撃訪問に同行した木原氏は、まさにこの日の朝に帰国。異例の強行軍の中でこの「東京会議2023」に駆けつけ、世界10カ国のシンクタンクの代表と率直な意見交換を行いました。


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 木原氏は、岸田政権が推進する「新しい資本主義」について講演しました。その中で木原氏は、中国やロシアのような権威主義国家の場合、国民の不満を強権的に抑え込めることができるが、自由民主主義国家の場合はそうではないと指摘。だからこそ恒常的に不満を解消するような取り組みを続けていかないと、民主主義陣営は「自滅することになる」との問題意識を示しました。

 それを踏まえて、こうした不満を解消するために日本政府が進めていく取り組みについて説明した木原氏はまず、この30年間で日本は「"高い"国から"安い"国になってしまった」と賃金低迷を問題視。これが格差を広げるとともに、「国民が未来への希望を失った」としつつ、少子化などの課題にもつながっているとの見方を示し、投資の促進とともに賃上げを政策の軸として取り組んでいくと説明しました。

 一方で木原氏は、投資も賃上げも「企業任せではなく、官民が連携してやっていく必要がある」と指摘。投資についてはデジタル・トランスフォーメーションやグリーン・イノベーション、半導体、AI(人工知能)、量子技術といった分野を挙げながら、「政府が先行して投資していく」としながら、様々な政策について具体的に解説しました。

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 木原氏は最後に、これまでの規制改革や構造改革がデフレ脱却とは真逆の結果を生じさせるとともに、「国民に安心をもたらすことができなかった」と回顧。「新しい資本主義」による政策のキーワードは「安心・安定」であるとしつつ、それが「中産階級を生み出す"心の土台"をつくり、ひいては少子化解消など日本の将来的な持続性にもつながっていく」とし、講演を締めくくり、参加者間で意見交換が行われました。


米中対立下での日本経済の立ち位置とは

 一連の非公開会議に続いて23日夕から行われた「東京会議2023」ワーキングディナーには、西村康稔経済産業相が出席し、世界で強まる経済安全保障の観点など「新しい国際経済秩序」を踏まえ、特別スピーチをしました。

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 西村氏は「通商貿易によって得られた隣国の府が平和の時は利益を与えるが、戦争の時には危険を与えるものである」としたアダム・スミスの『国富論』を引用して、①経済成長が権威主義国家の正当性を高め、ウクライナ侵略のような国際秩序への挑戦に繋がった。②経済成長の収入やテクノロジーの進展が覇権国家の軍事力強化と近代化に使用された。③経済的な相互依存を逆手に取り、経済的な威圧など外交・安全保障上の武器として利用された──という三つの教訓を元に、日本が率先して「新しい世界」を構築するために努力を惜しまないと訴えました。さらに、覇権競争が繰り広げられているサイバーやドローン、宇宙、AI、半導体など安全保障に直結する技術分野に対し、4ビリオンドル規模の育成投資に尽力していることも報告されました。


 出席した10カ国のシンクタンク代表者からは、昨年末に日本政府が改訂した安全保障関連3文書に関連して「防衛装備品の共同開発などは考えているか」などの質問が出ました。

 西村氏は「イギリス、イタリアと次期戦闘機の共同開発を進めている。防衛産業から撤退する国内企業が多かったが、コストを下げることにも繋がる」と述べ、同志国との連携強化が重要になるとの認識を示しました。さらに米中間のデカップリング問題への認識を問われた西村氏は「これだけ相互依存が進んでいるので、デカップリングは難しいのではないか。ブロック化が懸念されているが、自由貿易が進展するようにいかに管理、マネージしてゆくかが重要になる」と語りました。同時に、岸田文雄首相が電撃的なウクライナ訪問を果たしたことを踏まえて、世界が直面する多くの課題に向かって、日本が「大きな責任を果たす」決意を示しました。

 西村氏が退席した後も元日本政府高官らと、シンクタンク代表者のディスカッションは継続しました。特にグローバル・サウスとの関係性を問われて、日本側は「よく欧米は『我々と考えが一緒なのか、異なるのか』と問われるが、グローバル・サウス諸国はついてゆけないだろう。その間を取って弾力的措置を講じることが、日本の役割だ」との姿勢を示しました。また、G7、G20のパートナー拡大についても「幾つかの国際社会のルールを、確信的に怖そうとしている狂気な国が一つ、二つある。それは許さないとまとまって主張するしかない」「機能不全が指摘されている国連安保理改革が必要ではないか」などの意見が出て、翌日のセッションで再び議論することで一致。2時間余りにわたったワーキングディナーは閉会しました。

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