私たちは3月24日、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本の G7加盟国に、インド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国のシンクタンクからの参加者が東京に集まり、今回で7回目の「東京会議2023」を開催した。その他のゲストにも参加いただいた。
自由と民主主義の価値を共有する10カ国の参加者が、東京で対面の会議に参加するのは、コロナ禍でオンライン会議となった過去二回を経て、3年ぶりである。
ロシアのウクライナ侵略で始まった戦争は一年を経過しても収まらず、世界の平和秩序は依然、壊れたままである。その影響は世界経済の一層の不安定化や資源エネルギーの高騰などに波及し、多くの国際課題への多国間協力が暗礁に乗り上げている。
また、米中の競争激化は、世界が分断に向かう危険性をさらに高めている。全てを安全保障の側面から考える傾向が強まっており、21世紀は民主主義国と権威主義体制との対立の時代となるとの見方が広がっている。
この歴史的に重大な局面で、10ヵ国の参加者のリーダーが東京に集まったのは、今がまさに、世界の対立をこれ以上悪化させず、世界の課題で多くの国が力を合わせる、その局面だと考えるからである。この点について、私たちは議論を行い、今年のG7議長である日本政府に提案しようと考えた。そして、日本の岸田文雄首相は、2017年の「東京会議」の設立時に参加・協力した政治リーダーの一人である。
この二日間、私たちは7つのセッションで議論を深め、特に二つの点で共通の理解を得た。
まず、私たちが目指すべきことは、世界の分断をこれ以上悪化させないことであり、法の支配や自由、領土の一体性と人権を基本とするルールに基づく世界を守るために多くの国が結束することである。そして、より強靭性と持続性のある世界に発展させる努力を始める、ことである。
そのためにも、世界は、ロシアのウクライナ侵略に基づく戦争を領土の一体性の原則を維持する形で正当かつ公平に一刻も早く終結させ、混乱した国際秩序を修復させると同時に、国際課題への協力に向けこれまで以上の努力を行わなくてはならない。
二点目は、私たち民主主義国に問われた特別の責任である。自由や平等、基本的人権は、先人の長い努力で獲得した人類の共通の財産である。民主主義の国際社会での正統性をより高めるためには、民主主義国自体が国際政治の場や市民の強い信頼に支えられる必要がある。
そのためにも民主主義国は自国の民主制度を鍛え直し、その有用性を高めないといけない。過度に対立を拡大するのではなく、世界課題の解決のため率先して努力し、国内の政治体制の如何に関わらず、世界が抱える問題を解決しようとする国々と連携しなくてはならない。
この問題意識から、私たちは以下の5点に焦点をあてた。
- 1.国際社会にとっての最優先課題は、ロシアのウクライナ侵略に基づく戦争を正当かつ公平な形での終結を可能な限り早く実現し、平和の秩序を再建することである。侵略を受けているウクライナへの軍事や人道支援、さらに国際経済への影響は配慮しながらも実効性のあるロシア制裁により多くの国が参加する努力は今後も必要である。しかし、一刻も早く和平交渉に持ち込むためには、より多くの国が力を合わせなくてはいけない。その目的の達成のためにも、G7各国は関係国との対話を急ぐべきである。
- 2.世界経済は厳しい状況にあり、米中のデカップリングも進んでいるが、経済のイノベーションと世界経済の成長のためには、健全で公平な競争に基づく開かれた自由貿易こそ、守らなくてはならない。私たちは法の支配、自由、人権を守るために結束するべきであり、今後も自由経済の発展のために力を合わせ続けなくてはならない。私たちが取り組むべきことは、グローバルあるいは地域における自由貿易の再構築であり、そのためのルール作りに取り組むことである。分断の先鋭化や保護主義に陥ることは避けなくてはならない。G7各国は、気候変動の危機的状況に高い優先順位を持ち、公平な方法で緊急にこの問題に対処しなければならない。
- 3 世界的なインフレによる利上げや資源価格の高騰は世界の経済や金融を不安定化させ、新興国や途上国の経済悪化から、途上国の債務問題を拡大させている。G7各国は世界経済で懸念される危機を管理すると同時に、債務問題の解決のためのコモン・フレームワークが実効的に稼働できるように一層の努力を行う。この債務問題では、債権国中国にも貸し手としての責任を遂行し、国際協力の姿勢を世界に示すことを求める。
- 4.ウクライナ侵略を受けて発動されたロシア制裁を受け、石油、天然ガスなどの資源価格の高騰から、資源ナショナリズムの傾向が世界的に強まり、資源争奪や生活に必要な資源を確保できない国が出ている。G7各国は、途上国などへの省エネ技術、調達先の紹介や、代替資源の開発に向けた一体的な支援など、需要・供給両面からの取り組みをさらに強化するべきである。また、G7国間でも新しい技術の共同開発や情報共有、緊急時の資金供与など資源外交を拡大すべきである。
- 5.民主主義の修復のためには、G7各国で中間層を再構築し、民主主義の社会基盤を安定化させることが必要である。そのためには賃上げだけではなく、新しい変化や多様な価値に対応する人的投資を行い、民主主義国自体の強靭性を高めなくてはならない。また、民主主義国は、共通の基盤を持つ多くの国と、民主的な政治制度における違いを認めたうえで連携する必要がある。こうした連携こそが、私たちが信じる民主主義、自由と法の支配を守るための砦となるからである。