「東京会議2024」議長メッセージ

2024年3月14日

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 私たちは3月13日からの2日間、「東京会議2024」を開催した。東京に集まったのはアメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本の G7にインド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国のシンクタンク代表だけではなく、10の国際機関の関係者、世界の要人等38名のまさに世界の困難に最前線で取り組む当事者である。

 「東京会議」は8年前、自由と民主主義の価値を共有する10カ国のシンクタンク代表との協働で始まった。今年、この会議に多くの世界のゲストが加わったのは、不思議なことではない。共有された強い危機感が、世界に広がっているからである。

  今現在、数多くの戦争が衰えることなく世界中で続いている。ロシアの侵略で始まったウクライナ戦争は2年を経過しても収まらず、イスラエル・ハマス戦争を終結させようとする挑戦もまだ成功していない。世界はその悲劇を知りながら、それを未だに止められないでいる。持続的な平和秩序の修復の方向を描けないからである。

 その影響は世界経済のリスクと不確実性を限りなく高め、今や気候変動危機は常態化し、その被害は多くの途上国を直撃し、生活の場を失われる人が続出している。

 本来、こうした困難な局面で必要なのが国際協力である。しかし、協力は後退し、世界は力を合わせるどころか、むしろ対立と分断に向かっている。この状況がこのまま進んだ場合、世界の対立の力学は管理不能な状況になりかねない。

 今年、会議の全体テーマを「国際協力の回復」としたのは、今がまさにその岐路だと考えたからである。これまでの会議と今回が大きく異なるのは、戦争の終結や多くの課題での協力だけではなく、民主主義国自身の責任に目を向けたことである。

 私たちが問題としたのは、先進民主主義国とそれ以外の世界との間で溝が大きく広がり、危険且つ不安定な状況を招きかねないからである。イスラエル・ハマス戦争とウクライナ戦争への対応を比較し、ダブルスタンダードだと批判する声は世界で強まり、国際課題の取り組みの遅れにグローバルサウスと言われる多くの国の苛立ちが高まっている。避けるべきなのは、この溝が今後も拡大することである。この溝は巨大なグローバルリスクへの対応や世界の今後の在り方に向け、決定的な障害になりかねない。


 この2日間、私たち民主主義国の10か国のシンクタンクが6つのセッションで行った議論の大部分は、まさに今、国際協力を促進しながら紛争に対処するために、民主主義国に何が問われているのかである。その中で、私たちの理解となったのは、次の2点である。

 まず、私たちが目指すべきは法の支配に基づく国際秩序を構築することであり、この原則はどのような国・地域や局面でも実施され、守られなくてはならない、ということである。領土と主権は一体的に守られるべきであり、どんな状況でも人命と基本的人権を保護することが基本で、明らかな人権原則の違反などの行為は国際人道法からも許されるものではない。

 2つ目は、世界の課題解決や平和秩序の修復に率先して取り組むのはこれからも民主主義国の役割だということである。民主主義の正統性を守るためには、民主主義国が国際社会や幅広い市民の信頼に支えられる必要がある。今年行われる民主主義国の選挙の結果が社会の分断を深刻化し、民主主義の後退につながりかねないとの懸念がある。また、各国の民主統治の制度の修復は急務である。

 民主主義国が自国の制度をグローバル化した世界に適応させるためには内向きにならず、戦略的に経済競争力を向上させ、恩恵を公平に市民に分配し、民主主義の有用性を高める必要がある。

こうした問題意識から私たちは以下4つの行動するべき分野に焦点をあてた。

    • 1.国際社会の最優先課題はロシアの侵略に伴うウクライナの戦争とイスラエル・ハマス戦争の終結である。必要なのは正当かつ持続的な紛争の解決と新しい平和ガバナンスの構築を促進することである。G7はガザでの戦争を止め、ガザから発するテロの脅威に対処するとともに、イスラエルと独立したパレスティナの平和共存を図る「二国家解決」を主導すべきである。
       停戦や停戦後の統治のための国際社会の支援は不可欠であり、暫定統治や自治政府の改革、さらには国連の平和維持軍の派遣も検討すべきである。

  • 2.国際社会の安定のためには、ルールや制度、法の支配が不可欠である。この点からも、世界の紛争解決で機能を果たせない国連改革を避けることは難しい。
     安全保障理事会はすでにマヒ状態であるため、明白な国際法違反にある常任理事国の権利の制限は追求し続けるべきだが、同時に、国連総会の役割をより強化し、国連は総会決議に伴う国際社会の意志を代表して行動する体制を整えなくてはならない。G7は国連の立て直しを主導すべきであり、法の支配を支える様々な制度やコミュニティの力強い擁護者でなくてはならない。
     こうした国連機能や国際機関のガバナンスの改革は、来年の「東京会議」でさらに議論を深め、我々の考えをまとめるつもりである。

  • 3.ウクライナ戦争では見事な結束を示した民主主義国家が、「その他の世界」との亀裂に直面している。戦争対応でのダブルスタンダードだけでなく、持続可能な世界に向けた取り組みは不十分で矛盾していることも多く、経済格差や貧困に悩む多くの国の信頼を失い始めた。世界はすでに紛争の長期化や債務危機、気候変動で圧倒的な数の人が戦火や災害から故郷を離れ、人道援助を必要としている。
     こうした複合危機に民主主義国が率先して取り組むことが、世界との連帯を示すことになる。深刻な影響が始まった気候変動では、特に貧困国の脱炭素化や気候変動危機への適応コストでも途上国の実情に合わせた支援を構築する、必要がある。
     米国の政権交代は国際協力のこれからに影響を与える可能性がある。この状況で世界の国々が自国主義や保護主義に走り始めるとしたら、亀裂は修復不能なものになるリスクがある。

  • 4.世界では安全保障ですべてを考える傾向が強まり、世界経済はブロック経済への傾向も見え始めている。しかし、グローバル化は終わったわけではなく、自由な貿易への期待もなくなったわけではない。世界の将来に向けて、ルールを柔軟に再設計することは必要である。特定国への過度な依存を伴わない、分散化、多様化されたグローバルなバリューチェーンの再構築も不可能ではない。
     大国間の戦略的な競争が世界の現実だが、戦略的な協力がなければ、世界が現在の危機を乗り越えられず、すでに私たちが合意した持続的で包摂的な世界を目指すことも困難となる。対立を乗り越えるべきだと、私たちが主張するのはそのためである。そのためにもG7は、法の支配と協力に基づく世界を目指し、政治的な制度や実情が異なる国とも連携する必要がある。
     国際協力の回復こそが、世界の危機と世界の未来に向けた唯一の防御策、なのである。
2024年3月14日、東京会議