3日間にわたって開催されている「東京会議2024」。2日目の14日に開催された公開フォーラム終了後、歓迎夕食会が行われました。
まず、國部毅氏(株式会社三井住友フィナンシャルグループ取締役会長)が開会挨拶に登壇。その中で國部氏は、「協力なしには世界の未来を切り拓けないにもかかわらず国際協力が停滞している中で、日本の果たす役割に期待が集まっている」とした上で、「東京会議」が年々その規模を拡大し、世界の叡智が集まってきているのはまさにその証左であると評価しました。
國部氏は今回の会議でも「深い議論ができた」と手応えを口にしましたが、それは前回の「東京会議2023」に寄せた岸田総理のメッセージが強く影響していると指摘。それを受けて、この「東京会議」の生みの親の一人でもある岸田文雄・内閣総理大臣が登壇。発出されたばかりの「議長メッセージ」が言論NPO代表の工藤泰志から手渡され、これを受けた岸田総理は挨拶を行いました。(岸田総理の挨拶全文はこちら)
人類共通の未来に向け、分断・対立ではなく協調に導く首脳外交に積極的に取り組む
岸田総理はその冒頭、世界やアジア、そして日本を取り巻く厳しい情勢を指摘した上で、「そのような状況にあるからこそ、我々にとって大切なことは、『法の支配』の下で、多様な国家が共存共栄していく世界を目指すことだ」と発言。さらに、「私は、日本の総理大臣、そして国際社会を担うリーダーの一人として、同盟国や同志国はもちろん、グローバル・サウスとも連携しながら、『人間の尊厳』を中心に据え、世界を分断・対立ではなく協調に向け、導いていく」と強い意気込みを語りました。
こうした強い決意の背景にあるものとして、岸田総理は「法の支配」に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化や、人間の安全保障の理念に基づく「人間中心の国際協力」の推進、唯一の戦争被爆国としての「核兵器のない世界」に向けたたゆまぬ努力といった戦後80年近くに渡る様々な日本外交の取り組みを概観。昨年のG7広島サミットは、「まさにこのような道のりの象徴として、結実したものだった」と振り返りました。
その上で「我が国は、どのような場所や局面でも『法の支配』や『人間の尊厳』を中心に据え、その姿勢を緩めることなく、協調に導くための歩みを一貫して進めていく」と改めて語った岸田総理でしたが、同時に「本年、世界の行方を左右する重要な選挙が各地で控え、ウクライナや中東の情勢も重要な局面を迎える」とその先行きを憂慮。そうした中での自身の今後の外交方針を示しました。
まず、4月に国賓としての訪問を控える米国については、「法の支配」に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化のため、日米間で連携を強化していくことをバイデン米大統領と改めて確認するとともに、日米で共に世界の経済成長を牽引していく方策についても議論する考えを示しました。
ロシアに対しては、ウクライナ侵略を強く非難し、対露制裁とウクライナ支援を強力に推進していくとしました。このウクライナ支援については、先月の日・ウクライナ経済復興推進会議では、「G7議長としての昨年3月の私の訪問を踏まえ、ウクライナ、日本、そして世界の『未来への投資』として、ウクライナ復興に『日本ならではの貢献』をすべく、官民一体の強力なウクライナ支援を打ち出した」としつつ、「この成果をしっかりとフォローし、また、G7を始めとする各国及び国際機関を含むパートナーと協力していく」と強力なサポート継続への覚悟を示しました。
近隣諸国との関係については、まず中国とは、「戦略的互恵関係」の包括的推進とともに、「主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案を含め対話をしっかりと重ね、共通の諸課題については協力する、『建設的かつ安定的な関係』を双方の努力で構築していく」と説明。岸田総理のリーダーシップの下で大きく関係改善した韓国とは、さらに協力を拡大するとともに、「昨年8月のキャンプ・デービッドでの日米韓首脳会合を踏まえ、3か国の連携も一層強化していく」と語りました。
国際社会で存在感を増し続けるグローバル・サウスとの連携についても、ASEAN、インド、ブラジルといったすでに世界の主要プレーヤーとなっている国・地域のみならず、アフリカ諸国や太平洋島嶼国とも「日本らしい、きめ細かな協力を推進していく」と語りました。
自身の政治家としてのライフワークだと公言してきた「核兵器のない世界」については、G7広島サミットで発出した「広島ビジョン」を踏まえつつ、昨年の国連総会において表明した「核兵器のない世界に向けたジャパン・チェア」を、米国・欧州・アジアの研究機関に設置し、「核兵器のない世界」に向けた国際的な議論を加速化させていくと意気込みを語りました。
そして、今回の「東京会議2024」のテーマにも関連する「国連を中核とする多国間主義」については、人間の尊厳に光を当て、国際協力を推進する場としての国連の重要性はむしろ高まっていると指摘。9月に予定されている「未来サミット」では、「将来世代のため、多国間主義が機能するという展望を示す」と説明。また、来年の国連創設80周年を迎えるにあたり、「国際社会全体でのSDGs達成に向けて、更にはポストSDGsも見据えながら、人間の安全保障の理念に基づき、将来世代を念頭に置いた議論に貢献していく」と語りました。
岸田総理は最後に、「本日述べたような取組を通じて、国際社会を担う他のリーダーたちとともに、人類共通の未来に向け、責任感を持って、世界を分断・対立ではなく協調に導く首脳外交に積極的に取り組んでいく」と改めて決意を表明し、挨拶を締めくくりました。
公務のために岸田総理が途中退席した後、兵頭誠之氏(住友商事株式会社代表取締役 社長執行役員 CEO)が、「自由と民主主義の修復、そして何よりも世界の協力が必要な局面だ。岸田総理からはその決意をお示しいただいた。我々も決意を共にしたい」と乾杯の音頭を取りました。
その後、今回のパネリストの中からまず、ステファン・ロヴェーン氏(スウェーデン元首相、 国連効果的な多国間主義に関するハイレベル諮問委員会議長、ストックホルム平和研究所(SIPRI)理事会議長)が登壇。今回の「東京会議2024」が多極化、分断化する世界の中での国際協力の回復をテーマとしたことは時宜を得たものと高く評価しつつ、自身が共同議長を務める「効果的な多国間主義に関するハイレベル諮問委員会」が2023年4月に公表した報告書『A Breakthrough for People and Planet: Effective and Inclusive Global Governance for Today and the Future(人々と地球のための新機軸:今と未来のための効果的で包摂的なグローバル・ガバナンス』を紐解きながら、包摂性のあるガバナンス構築の必要性を強調しました。
続いて、マリ・エルカ・パンゲストゥ氏(前世界銀行専務理事、元インドネシア貿易大臣)は、岸田総理のスピーチがASEANに言及したことを受けて、「日本とASEANの間には複雑な歴史もあったが、アジア金融危機の時は日本が強くサポートしてくれた」と回顧。その上で「今後もオープンマインド、オープンハートで対話しながら、協力を深めていきたい」と語りました。
「東京会議」評議会からはまず、國分文也氏(丸紅株式会社取締役会長)が登壇。「健全な楽観主義は、分断化・分極化が進む世界において、自由で包摂的な国際社会を築く原動力になる。過度な悲観主義は恐怖を呼び、排外主義や保護主義を生み出してしまう」との見方を示しつつ、意見の違う相手とも根気よく議論し、地道に一致点を見出す「東京会議」のようなオープンな会議の重要性を強調。「我々日本企業がこのようなグローバルな知的交流のフォーラムを支援しているのも、まさに自由で開かれた国際秩序の重要性を信じ、その維持・強化に貢献するためだ」と語りました。
久保田政一氏(一般社団法人日本経済団体連合会副会長兼事務総長、21世紀政策研究所所長)は、世界で分断の嵐が吹き荒れる中、日本の役割は多極間の橋渡しだと発言。「自由で開かれた世界」の実現はしばらく難しいとの見方を示しつつ、「それでも目指さなければならない。CPTPPを基軸としながら経済連携の拡大を目指すべき」とし、今後の「東京会議」にもそうした方向を後押しするような議論の展開を求めました。
原典之氏(三井住友海上火災保険株式会社取締役会長 会長執行役員)は、岸田総理の発言にもあったSDGsでは、その目標17に「パートナーシップで目標を達成しよう」を掲げていることに言及しつつ、「この精神で国際協力を推進すべき」と発言。その観点での今回の「東京会議2024」の評価としては「聞く人の行動を促すような議論だった」と評価しました。
最後に閉会の挨拶に登壇した東原敏昭氏(株式会社日立製作所取締役会長兼代表執行役)は、共通の認識の下で本音の議論ができたと今回の会議を振り返りつつ、今後の課題としては「議論にとどまらず、グローバルな社会実装を目指すべきだ。Think TankからDoタンクへ」と工藤を見据えながら今後の課題を提示しつつ、夕食会を締めくくりました。