グローバルガバナンスと国際機関が最大の危機に陥る中、その役割とは何か、活発な議論が展開されましたー「東京会議2025」非公開会議3 報告

2025年3月05日

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 3月3日に開幕した「東京会議2025」。プログラム2日目(3月4日)午後の公開セッションに先立ち、「対立と亀裂が広がる世界でグローバルガバナンスと国際機関の役割を考える」と題する非公式会議③が行われ、10カ国のシンクタンク代表者と国際機関の関係者、元大使ら23人が出席しました。トランプ米大統領が打ち出したWHOなど特定の国連組織からの離脱や資金拠出停止といった国際機関への関与見直し方針により、戦後80年近く続いてきたグローバルガバナンスと国際機関が最大の危機に直面しています。米ソ冷戦やキューバ危機、湾岸戦争など大きな危機を乗り越えながらも、今の国際社会においては国連創設当初には想定されなかった事態が噴出し、「制度疲労を起こしている」のは否定できません。米国が去った後、主要先進国をはじめBRICS、グローバルサウス諸国が当面どう対処すべきなのか、遅々として進まない国連安全保障理事会改革のあり方を含めて、活発な議論を展開しました。

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国際機関をどのように再定義し、修復すべきか

 まず司会者が「グローバルガバナンスシステムが急速に瓦解しつつある。もしくは瓦解している印象だ。それはなぜなのかを論じたい」と述べ、第二次世界大戦後の原則に立ち返る必要があるとの考えを示しました。具体的には「経済・政治的な統合を通して平和と繁栄の達成を目指し、金融や貿易、関税などのグローバル化や工業・産業化が進展した。しかしガバナンスシステムに不均衡が生じ、それへの抵抗が起きている」と指摘。さらに80年前には想定できなかった気候変動やテクノロジーの問題も露見し、「現在のシステムが不十分であることが明らかだ」として、国際機関を「どのように再定義し修復すべきなのか」と、英知の結集を呼び掛けました。
問題提起者はいずれも国際機関幹部としての経験が豊富で、それぞれの立場から意見を表明しました。「トランプ2.0」発足後1カ月で、米国内の各種経済指標が悪化していることが報告される一方で、関税や金融サービス、知的財産など幅広い分野をカバーする「CPTTP/TPPなどの経済連携協定や有志国連合の役割が益々増えている」と指摘。さらに国際通貨基金(IMF)が重要な役割を果たすことが期待されると同時に、2026年に米国が議長国に就くG20の動向にも注目する必要があるとの認識が示されました。

 気候変動問題に関しては「バランスが重要」とし、持続可能で回復力のある資金の確保と施策が重要になるとの意見が出されました。こうした点を実現するためには、ハイレベル対話に加えて、実際に対応するマンパワーとして「有志国連合と地域化が一つの可能性として挙げられる。IMFや世界銀行の再活性化、デジタル化の促進も意義がある」との見解が表明されました。この点に関して「現在のロシアの基盤をつくったのはIMFだ」と批判の声が上がると同時に、別の出席者から「弱肉強食のロジックが勝っている世界において、国際組織が自ら改革できることに期待はできない」と悲観的な意見も出されました。

 一方、グローバルガバナンスが機能不全に陥っている点について「GATTから進化してWTOが生まれた。中堅国の力や国連専門機関の役割についても、我々は十分に検討してこなかった」として、議論の余地が十分にあると楽観視する意見もありました。その一つとして中国の習近平国家主席が提唱創設したアジアインフラ投資銀行(AIIB)を例に「既存の国際的な金融機関を統合し、BRICSが新しい開発金庫を創設する」ことも提案されました。

 国際社会の「対立・亀裂」は歴史的に珍しいものではない、ということが繰り返し指摘されました。過去80年間には多くの危機に直面しつつも「国際規範に基づく秩序をつくり、常に調整してきた歴史がある」と分析。コロナ禍への対応など国際的な教訓を共通化すると共に、平和維持や貧困解決にこだわらない金融資金調達のイノベーションを確立するべきだとの声も上がりました。

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課題ごとに特化した小さな多国間組織にフォーカスすべきだとの意見に多くの賛同

 「国際秩序に亀裂が一部生じている」ことについて、日本の果たすべき役割は大きいとの意見が出されると同時に、新たな多国間主義=マルチラテラリズムの強化を目指すためにも「従来型のバイ、マルチで取り組むだけでなく、民間を参画させて取り組みを強化しなければならない」との見解が示されました。安保理改革が進まない原因については、「P5」と呼ばれる5大国に拒否権を与えていることにあり、「多国間主義の精神」を共有し、「政治屋ではない、真のリーダーが求められている」という切実な声も聞かれました。

 またWTOが地政学的な紛争や経済制度同士の衝突で課題が山積していることについても「世界が変わったことでガバナンスも変えなくてはならない点には異論の余地はないが、地政学的な影響が大国間の競争を熾烈化させ、改革を難しくしている」と指摘。同様のことが「安保理改革を不可能にしている」と批判の声が出ました。

 そうした観点から、どこに光を見出せば良いのか、という問題提起については、FTAなど経済分野の成功事例を挙げて「テーマごとに特化した小さな多国間組織にフォーカスすべきだ」とのアイデアが出され、多くの賛同意見が表明されました。

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米国経済の今後1年半の行方が鍵を握る
各国際機関は米国政治の行方を見守りながら最善の手立てを講じるべき

 終盤、一連の議論を踏まえて、「改革は必要だが、どこが資金を負担するのか」という根本的な疑問が投げ掛けられました。BRICSの関係者は「負担したがっている国はあるのか。何か見返りがあるのであれば、資金を出そうとなる。唯一の準備通貨は米ドルであり、ユーロはその代わりを務めることはできない」と述べ、2008年の金融危機を経て財政に余裕のある国はないとの見解を重ねて示しました。さらに、頼りの米国が中国との関税競争の深みにはまることで、世界の貿易体制が不利益を被るとの見方も表明されました。

 トランプ米政権が目論むとされる「EU分断」に対しては「欧州は協力して、米国にきちんと対処していく。成熟した意思決定プロセスは可能だ」と懸念を払拭する姿勢も打ち出されました。
トランプ氏の再登場で加速する「世界の対立と亀裂」について「米国経済の今後1年半の行方が鍵を握る。2年以内に中間選挙も行われる」として、各国際機関は米国政治の行方を見守りながら最善の手立てを講じるべきだとの意見に集約され、2時間超に及んだ重いテーマの議論を終えました。

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