「東京会議2025」の開催にあたり、「東京会議」の最高顧問の立場から一言、ご挨拶を申し上げます。
まず、私たちの会議に世界から駆けつけていただいた各国を代表する有識者の皆様方、国際機関の関係者の皆様方、そして、日本の各分野から多くの方々にお集まり頂いたことに、お礼を申し上げたいと思います。
本会議は、主催者である「言論NPO」が、自由と民主主義の価値を共有する世界10カ国のシンクタンクの代表者とともに立ち上げた、日本発の「世界会議」です。
その目的は、世界の困難に世界が力を合わせて取り組むこと、そして、法の支配による世界と、世界の平和のために知恵を集め、この日本から世界に、私たちの考えを伝えることです。
今回は9回目の開催であり、私も総理や外務大臣として第一回目から参加をさせていただいておりますが、この間、一貫として国際協調の旗を掲げ続け、真剣に国際社会の在り方を問い続けるこの「東京会議」の意義は年々大きなものになっていると感じています。
今年は第二次世界大戦が終結し、国連が誕生して80年の節目の年にあたります。
国際社会が長きにわたる懸命な努力と多くの犠牲の上に築き上げた法の支配による国際秩序と多国間主義は、どんなことがあっても守り抜かなくてはなりません。
今がまさに、その覚悟を私たち全員が問われる局面であり、それこそが、今年の「東京会議2025」に期待される役割だと私は考えます。
その点で私は本日、会場に集まった皆さんの英知と有意義な議論を心から期待するものであります。
さて、本日のテーマは、「国連創設80周年に問われる国際協調と平和の修復」です。
このテーマが、現下の世界において最も大事な本質的な課題を明らかにしていることを、多くの人が感じているはずです。
私の友人でもあるアントニオ・グテーレス国連事務総長が、この会議にメッセージを寄せたのも、「東京会議」が多国間主義を未来につなぐ、数少ない世界のプラットフォームの一つであると考えたからだと私は思います。
国連を中核としたグローバル・ガバナンスの立て直しは、昨年の「未来サミット」で世界が合意したことです。
私も、昨年の「未来サミット」で、日本の総理大臣としてお話しさせていただきましたが、分断と対立が深まる世界で国際社会をつなぎ、世界の課題に対応し、包摂性ある国際社会を築くためにも、世界が責任を共有して、力を合わせていかなければならないのです。
国連には二つの意味での改革が問われています。
一つは、国連憲章に定められた「法の支配」と平和のための安保理改革であり、もう一つは、新しい時代に向けた共通の責任に支えられた包摂性あるガバナンスの強化です。
国連に対する日本のコミットメントは揺らぐことはありません。
戦後80周年という、この歴史的な節目で世界を揺るがしているのは、多国間主義や国連などの国際機関の価値を認めず、自国利益を優先する声が世界で強まっていることです。
私は、課題に真正面から取り組む動き自体を否定するものではありません。
しかし、自国利益のための取引が支配する世界は、これまで米国が主導してきた自由で開かれた国際秩序や、これからの国際社会のあり方を変えてしまう可能性があることを、私は懸念します。
それが戦後の80年、私たちが目指した世界の姿だとは私は考えていません。
本日の会議に向けた議論の材料として二つだけ、私の考えを述べさせていただきます。
第一に、今ほど「法の支配」の貫徹や多国間主義を守るために、世界の「結束」が必要な時はないということです。
私がこの「結束」という言葉を使うときにまず、念頭にあるのは自由と民主主義の価値を共有するG7の連携です。
これからの国際社会を考える場合もG7の結束はすべての前提であるべきだと私は考えています。
ところが最近、この結束に不安が見られます。
欧米が対立し、お互い共有した価値を尊重せず、一方的な価値を押し付けるとしたならば、不幸なことです。
こうした対立は、結果的に価値観の異なる他の権威主義国を勝ち組にしてしまうことを、私は懸念します。
しかし、同時に私たちが理解すべきなのは、G7が結束するだけでは、多国間主義を守ることは難しいということです。この輪をさらに他の新興国やグローバルサウスの国々に広げる必要があります。
「東京会議」に参加する10カ国には現在、BRICSに参加する国のシンクタンクもあります。
こうした国が一堂に会し、どのような世界秩序や民主主義の何を守るか、そうした議論が今回の会議で始まることは極めて意味あることだと私は考えます。
第二に申し上げたいのは、現在、世界は歴史の転換点にあるということです。
法の支配と多国間主義に基づく国際社会を修復できるのか、それとも世界の分断と対立が深まるのかは、私たちの努力にかかっていると私は考えます。
私が、「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と言い続けるのは、国際法に違反し、他国を侵略し、現状を変更しても、それを世界が止められないということが、アジアでの間違った行動を誘発する可能性があるからです。
この立ち位置から現在、行われているウクライナ停戦への動きに私も一言、発言したいと思います。
トランプ米大統領は、ウクライナでの戦争を直ちに終わらせ、ガザの復興を動かそうとしています。
ウクライナ戦争は3年目に入り、莫大な損失を重ねています。戦争終結に向けて世界が力を合わせるのは、当然のことです。
問題は、その終わらせ方にあります。世界が求めているのは公正で永続的な和平です。
ウクライナの停戦交渉に、侵略されたウクライナの声が反映されず、侵略した側の言い分に同調するだけでは、この地域の平和は不安定なままです。
私は停戦とこの地域の平和の保証は、欧州だけに任せるのではなく、国連をはじめとする国際社会の関与も検討すべきだと考えます。
日本もこの地域の復興の立ち位置から、和平への働きかけを国際社会に強めるタイミングだと考えます。
これは、ガザの戦後処理でも同じです。私たちはイスラエルとパレスチナが平和共存する2国家解決の可能性を捨て去るべきではないと考えるからです。
「東京会議2025」は、法の支配と多国間主義のあり方を、この戦後80周年に問う、貴重なタイミングで開催されます。
明日には、トランプ大統領が施政方針演説を行い、中国では全国人民代表大会(全人代)が開幕すると聞いています。
瀬戸際に立つ国際秩序を、どのように立て直すのか、平和をどう実現するのか。これは私たち全員に問われた課題なのです。
本会議で活発な議論が始まることを祈念し、私の開会の挨拶といたします。
ご清聴、誠にありがとうございました。