今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、米外交問題評議会主催の国際諮問会議(CoC)の第1回地域会合である「アジアリージョナル会議」に出席した工藤が感じた、アジアと日本、そして世界をめぐる課題について議論しました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年11月7日に放送されたものです)
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工藤 おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティーが自分たちの視点で世の中を語るON THE WAYジャーナル、今日は「言論のNPO」と題して、私、工藤泰志が担当します。
シンガポールから昨日の夜、日本に帰ってきました。あちらはすごく暑くて30度近くあったのですが、それからすると東京は本当に寒いですね。もう冬なのだな、と感じているのですが、皆さんはどうでしょうか。風邪などひかないようにしていただきたいと思います。
アジア・リージョナル会議に出席して
今日は、そのシンガポールの話を、皆さんに報告したいと思います。シンガポールに行ったのは、10月29~31日だったのですが、「アジア・リージョナル会議」というのが発足して、それに出席してきたのです。世界20ヶ国のトップ・シンクタンクのトップがみんな集まって、アジアの問題を議論しようという会議です。これは、今年の3月にワシントンで、CoC(国際諮問会議)という20ヶ国の(シンクタンクの)チームが"結成"されて、私どもの「言論NPO」がその日本代表としてボードメンバーに入っているのですが、そのアジア版が今回、行われたわけです。12月にはそのロシア版が開かれます。世界ですごく大きな変化が始まっているのですが、私は尖閣問題を、この場で世界20か国に話さないといけないということで、かなり気合を入れて行ってきたのですが、ただ、行ってみると、やはり東南アジアを中心にして、アジアや世界に、今、何が問われているのか、ということを非常に感じました。今日はそういうことを皆さんに報告しながら、私の考えを説明してみたいと思います。ということで、「ON THE WAYジャーナル 言論のNPO」今日のテーマは「アジア・リージョナル会議で見えてきたアジアや世界の課題とは何か」ということでお送りしたいと思います。
シンガポールには30年前にも行ったことがあります。率直に言って、東京よりも国際都市でした。口から噴水を出している、お馴染みのマーライオン、その向かい側に、巨大ビルが三つ並んでいて、天井に煎餅があって三つのビルがつながっているのですね。その煎餅の上にプールがあるような感じで、地震があったら落ちてしまうな、と思ったのですが、すごくカッコいいのですね。TPPの提唱国の1つですし、自由化とか、経済の最先端にいるのだなと非常に感じました。
ASEANで高まる中国の経済的、政治的影響
私はその会議に出る一方で、シンガポール政府の要人にいろいろ誘われて、食事をしたりしながら話をしてきました。 経済的外観は非常に美しかったのですが、内実は非常に悩んでいまして...中国の問題なのですね。ASEANは今、10ヶ国で団結して、2015年には域内で関税を撤廃するなど共同体の動きがどんどん進んでいます。アジアの様々なコミュニケーションをする会議もいっぱいあって、アジア太平洋の経済的な自由化を目指す上で拠点になっているのですが、最近いろんなことがあるようなのですね。一番気にしていたのは、二つあるのですが、一つは、EU危機の問題がアジアに浸透している状況の中で、東南アジアに関しては内需の拡大もあってそんなに深刻な影響にはなっていないのですが、それを今後どう考えていけばいいか、というのを心配していました。ただ、その心配は、ASEANとして考えるだけではなくて、EU危機の影響が中国を直撃しています。中国は経済成長がグーンと下がって減速し始めているわけです。あまり減速してしまうと、中国は失業問題が出てしまって内政が厳しくなるのですが、その中国との経済的なリンケージが、ASEANはすごく強いのですね。ですから、中国がEUの経済によって非常に大きなダメージを受け始めている中で、東南アジアがそういうことをどう考えていけばいいかというのが一つあるのですよ。これは日本も無関心でいられる話ではありません。というのは、日本の貿易依存度は中国が圧倒的です。今の日本にとっては、中国が経済的に減速してしまうと、日本に対する影響が出てしまう。この問題をどう考えればいいか。
ただ、何と言っても皆さんが一番、気にしているのが、中国の安全保障上の懸念だったのです。今年7月にASEAN外相会議がありました。ASEAN10ヶ国の中でも、中国との経済の結びつきが強いところと弱いところがあって、結びつきが特に強いところの人たちが中国の影響をかなり受け始めています。それで、ASEAN外相会議で初めて一つの見解をまとめることができませんでした。今回、カンボジアのプノンペンでやったのですが、カンボジアは中国との関係が非常に強いということでまとめられなかった。それでASEANはすごくショックを受けたのです。つまり、ASEANは基本的には共同体なのですが、それがまとまるためには大国、超大国との良い関係がなければいけません。ただ、実際には、ASEANに対する中国の経済的な影響が非常に強い状況の中で、例えば安全保障上の問題に関してもいろんな話をし始めているのですね。
海洋進出する中国への危機感――法秩序の維持を
地図を見れば分かるのですが、南シナ海には何百もの島とかサンゴ礁があります。その何百という島などの領有権とか、特定の海域の管轄権を巡って、まさに激突してしまっているのです。今年4月に、フィリピンのスカボロー礁で中国とフィリピンが軍事紛争になってしまい、はっきり言って中国に取られてしまいました。そういうことが起こっているのです。そうしたことで軍事的な対立にならないように、危機管理的に秩序を守ろうと、2002年くらいに行動宣言を出したり、それを行動規範という実効力のあるものにしたいと思っているですが、なかなかうまくいかない、中国が強くて。南シナ海はそれぞれが領有権を主張して、台湾を入れると6つの国・地域が激突している状況です。海洋法では、島があると、島(の周辺)が領海で、その隣に接続水域があって、その外に排他的経済水域があって、島さえ押さえてしまうと経済的な権益がいっぱい広がってしまうので、その争いがいっぱい重複してしまっているわけです。糸がくっついているような感じなのですね。その問題を、国際法上で解決するのが難しいので、基本的にはバイでやっていると中国がどんどん紛争を起こしてしまうのです。ただ、中国だけがダメというわけではないのですが、日本の尖閣諸島も同じだけれど、ナショナリズムがすごく高まってしまうので、お互いに(紛争を)やってしまうわけです。さっきのスカボロー問題は、冷静に考えるとフィリピンが良くなくて、軍を出してしまったのです。こういう問題は軍を出すと紛争になってしまうので、今、尖閣でもそうだけれど巡視船のようなものを出すじゃないですか、あれは法秩序を維持するための仕組みなのです。そういうことでやればいいのですが、東南アジアの国々はそういう巡視船などをあまり持っていないのです。
日本も最近(船を)あげたりしていろいろ協力しているのですが、そういう紛争が起こり、それからアメリカが、南シナ海は中東などとの貿易のシーレーンとして決定的に大事なので、その航行の自由を主張して、中国と時たま争うことになります。例えば、海南島に中国の軍の基地があるのでアメリカがその近海で測量したりすると、中国がそこに来てケーブルを切ってしまったり、アメリカの偵察機が不時着してしまうとか、この領海を巡ってかなり冷たい状況になっています。それで、アメリカ大統領選では、オバマもロムニーも、中国に対して「敵だ」とかすごく厳しい言い方をしてきたのです。日本は中国に、2010年に経済的に抜かれましたが、中国はこのままアメリカにも追いついてしまうんじゃないのか、という緊張感があります。それが南シナ海の領土問題に向けて、非常に大きなみんなの関心になっているのです。
ですから、私はみんなから言われましたよ。「尖閣をどうするんだ」って。つまり、紛争を起こしてほしくない、あんなところで巨大な国同士が戦ってしまうと、こっち(東南アジア)にも影響するし、やはりASEANは小さな国が多くて、そのチームを守りたいので、どちらかに与するのは非常に嫌なのですね。
ASEAN統合への道は
EUが抱える問題では、統一がかなり厳しい状況になっていて、ギリシャのプログラムを延長できるかとか、スペインの国債を買ってもらう対応ができているかを市場がずっと見ています。それまでの通貨統合や経済的な統合が、財政的な問題を含めて、いろんな問題を起こしたので、ASEANはそれに対して非常に慎重です。私は、「EUの危機に対して、ASEANが何かあった場合にどう対応するのか」と質問してみました。今あるのはチェンマイ・イニシアチブというドルの融通の仕組みだけなのですね。あと、中央銀行間でのスワップという外貨融通の仕組み、あとはIMFがあるので大丈夫かもしれないと思っているのですが、将来的にどうなるか分からないし、ひょっとしたら中国の経済が非常に強くなっているので人民元がかなり力をもってしまうかもしれない。いろんなことがあるのでどういうふうに考えるのか、と聞いたら、「通貨統合なんて絶対に言わないでください」ということでした。ASEANの経済的な連携は始まっているのですが、統合そのものに関してはいろんなことで悩んでいるというのが勉強になりました。
国家資本主義・中国の行き着く先は?
トミー・コウさんという、外交問題に詳しいシンガポールの無任所の大使との話を食事をしながら聞いたのですが、海洋における米中の緊張とか、領土問題をどうすればいいかなど非常に気にしていました。中国そのものが経済的に台頭していることは認めざるを得ない。しかし、中国そのものに矛盾があるわけです。統治体制問題とか、いろんな法的なルールの問題がある。つまり、領土問題に対して国際的に解決するような意思を持っていないのです。南シナ海を覆う形で九つの点があるのですが、これが何なのか、領有権なのか管轄権なのか、ただ中国からはすごく遠いところまで線が引かれていて、それに対して領海航行の管轄まで主張するということになると、これは絶対にどこかで衝突が起きます。アメリカは、国際法でそんなことは認めていないじゃないか、と。ただ、国際法そのものに書いていないのですよ。海の運航はあくまで自由でなければいけないのだけれど、それを自由でいいじゃないかという人たちと、中国のように単純に自由ではない、そんなところで軍事演習をされたら困る、了解を得るべきだという解釈とで、つばぜり合いが起こっている。この国際法上の解決をどうすればいいかということに非常に困っていて、その中で領土問題があるという状況なのですね。このアジア・リージョナル会議の話は内容がほとんどオフレコなのですが、私はびっくりしました。米中はかなり本気ですね。中国は「なぜ、アメリカがアジアに来るんだ」と言ってました。アジアが経済エンジンになるのは分かるけれど、運転手はアメリカじゃないぞ、と。こういう南シナ海の問題が、中国の経済的な台頭の一つの局面になってきているということを、私たちは知らなければいけない。それを地図上で見ると、まさに尖閣があり、東南アジアの人たちはその動向を、かたずをのんで見守っているわけです。
誰がつくる、平和的解決のルール
また、この状況で日中が争ってしまうとアジアの時代は終わってしまう、それくらいの深刻な危機感を持っていました。何とか、紛争ではない形で納めることはできないんだろうか、それを非常に気にしている、何とか平和的な動きにならないか、と。もう海洋の問題の答えは、平和的な解決しかありません。誰かの力でそれを奪ってしまうという昔の海賊のような議論はないわけだから、平和的な解決のルールを誰がつくるのか。私は、それは政府だけではなくて、民間のトラック2、トラック1.5、言論NPOもそうなのですが、その役割が非常に重要になるのではないかと思っていまして、それを私は主張してきました。この話に関しては、次週しっかり伝えたいと思います。
今日は欲求不満になるかもしれないのですが、皆さんにアジアで今、何が起こっているのか、その上で、こういう民間の動きが解決に向かって動き始めているということを、ぜひ知ってもらいたいということで、少し話をさせていただきました。ということで、今日の「ON THE WAYジャーナル 言論のNPO アジア・リージョナル会議で見えてきたアジア・世界の課題」をお送りさせていただきました。ありがとうございます。