ワールド・アジェンダ・カウンシル発足記念フォーラム「世界秩序の不安定化と今後の世界の行方」

2016年2月11日

第3話:中国の台頭と中国経済への期待

工藤:次のテーマは、中国の問題です。今の国際的な秩序に大きな変化があるとすれば、中国を含めた新興国の台頭によるものです。少なくともリーマン・ショック以降、新興国による経済の牽引がかなり期待されたところがありました。しかし、その中国が今、経済的に非常に大きく失速しています。中国の失速が今度は世界に波及し、他の新興国や脆弱国家などの取り残されたところに影響するとすれば、それと連動して安全保障上の大きな課題にもなります。中国の経済問題が連鎖、連動して世界は不安定化している、という問題です。こうした中国の台頭と中国経済への期待を、今の時点でどう考えればいいのか、という点からまず、議論したいと思います。

中国経済とインド経済の行方が、今後の世界経済に影響を与える

田中:今、中国が世界の経済に及ぼす力は非常に強くなっていると思います。中国経済が少し失速するだけで、かなり大きな影響があります。また、中国経済の減速は、原油価格の大きな低下にも影響しています。ただ、全体として経済がどちらの方向に向かっているかというのは、なかなか言いにくいところがあります。

 確かに、この10年くらい、アフリカや東アジアの開発途上国の経済は非常に調子が良く、アフリカの経済成長率は、脆弱国家も含めて年率5%以上あります。この成長のかなりの部分は、原油価格の上昇と中国の貿易が影響しています。ですから、中国経済の減速によって開発途上国全般が影響を受けるのは、可能性として否定できません。また、新興国の中でも、ブラジル、南アフリカ、トルコなども経済の調子が良くありません。その面では、開発途上国にとってはなかなか難しい面があります。

 一方、インド経済が今後の世界にどういう影響を及ぼすか、ということは、考えていかなければいけません。インド経済にとっては、原油価格がこれだけ下がることはプラス以外の何物でもありません。中国はしばらく、7%以下の成長が続くと言われていますが、インドは、今後の見通しでは7%以上の経済成長が見込まれます。したがって、今後はインド経済も見ていかなければいけないと思っています。

工藤:古城さん、今までのG7や欧米先進国を中心としたグローバル秩序に対して、新興国の台頭があり、中国やブラジル、インド、南アフリカなどを巻き込んだG20というフォーラムができてきました。ただ、成長が期待されていた新興国が脆弱性も持っているとなると、新興国を含めた大きな枠組みの中で今後の国際的な議論をするという方向には、そこまで大きく期待すべきではないと判断していいのでしょうか。それとも、新興国の減速は一時的な現象なのでしょうか。

G20で協調できるよう、先進国がリーダーシップを発揮することが重要に

古城:非常に難しい質問だと思います。世界の経済的相互依存はかなり進んでいます。その中で成長を牽引していた新興国の減速によって、多くの国が相互依存の関係を通じて影響を受ける、というのが今の姿だと思います。その中で注意しなければいけないのは、せっかく経済的な相互依存関係ができていたのが、新興国の減速によって対立的な関係に変わってしまう、例えば保護主義に陥ってしまうというようなことです。国際秩序の点からは、そこが最も問題になるところだと思います。

 では、どうすればいいかというと、G7のような先進国だけの枠組みではもう問題に対処できません。G20にどれくらいの効果があるかはいまだに分かりませんが、少なくともそのフォーラムを崩さないかたちで、協調を曲がりなりにも取り付けていかざるをえません。そこがフォーラムとして決裂してしまうと、それに代わるフォーラムはなかなか見当たらないわけです。ですので、経済的な失速が政治的な対立に転化しないようにするためのフォーラムとして、G20において協調できるように先進国がリーダーシップを発揮していくということがかなり重要ではないかと思います。

藤崎:中国がものすごく成長しているときには、「世界市場を席巻するのではないか」とみんなで不安になり、失速すると「どうしたんだ」と言って不安がる傾向があります。実は、中国の問題点は何かというと、社会主義という建前のもとで、まったく逆の格差社会を実現させてしまったこと、その中で社会保障が十分にできていないまま減速してしまったことです。この状況は政治的な体制の維持にどういう問題があるか、本当にこのままいけるかどうか。直截に言えばそういう問題なのでしょう。どれくらいの期間がどうなのか、といったことはまだよく分かりませんが、それをうまく乗り切るために、今の指導者はおそらく、国内における腐敗の退治、また国外に対しては強硬な外交をしながら、何とか泳ぎ切ろうとしているのではないかと思います。

問題解決の努力を国内外のどちらに向けるかで、国際政治が大きく変わる

細谷:『国際秩序』という本の中で私が書いたのは、安定した国際秩序のためには「価値の共有」と「利益の共有」が重要であるということです。冷戦時代の米ソ関係は、価値も利益もある意味では共有していませんでした。イデオロギー対立があり、利益の点でもゼロサムの関係でした。

 ところが、今の米中関係は、価値については政治体制、イデオロギーが異なるわけですが、利益は不可分に結びついています。価値と利益のねじれが、おそらく今の国際社会の難しさということになります。つまり、国際社会は利益の共有という点では、共通して経済成長を求めています。しかし、価値や規範であまりにも対立がみられる中、どうしたらいいのか。例えば、G7とG20のどちらを使う方がより効果的に問題を解決できるのか、という問題が出てきています。

 ここ数年間の動きは、特に中国の経済の失速に伴って、外に悪者をつくるという方向になっています。つまり、うまくいかないときに、自分が悪いから自分を直さなくてはいけない、というのではなく、自分は頑張っているけれど外に悪い人がいるからダメなのだ、という考えです。すると、外に敵を見つけることになります。これはどの国でも行われていて、今のアメリカ大統領選挙でトランプ氏も同じことを言っていますし、イギリスではEUを自分たちの問題の根源として批判しています。もちろん日本にも、自分たちの問題の原因を国外に求める声があります。したがって、経済が失速してくると、大きな問題として、外に問題を見つけて批判することで、国内的な支持を獲得しようとしています。これが、まさに1930年代の世界で起きたことです。

 そうではなくて、それぞれの国が困難に直面したときに、いかに自分たちの国内で問題を解決する努力をするか、とりわけ中国がこれから努力を内側に向けるのか、外に向けるのかによって、国際政治も大きく変わってくると思います。

報告
第1話:現在の世界秩序をどう考えればいいのか
第2話:アメリカの力の現状
第3話:中国の台頭と中国経済への期待
第4話:グローバルガバナンスの在り方
第5話:世界は今後どうなっていくのか
第6話:2016年、日本に求められるリーダーシップ

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