海外ジャーナリスト会議「非公開対話」

2016年3月16日

 3月16日、東京都内のホテルオークラ東京にて、海外ジャーナリスト会議「アメリカ大統領選の行方とアジアの将来」の開催に先立ち、非公開対話が行われました。

 冒頭で、言論NPO代表の工藤泰志が、海外からのゲストに対して、政策評価や民間外交をはじめとする言論NPOの活動紹介を行いました。まず、政策評価については、「市民や有権者が強くならない限り、政治も強いものにはならない」と述べ、民主主義を機能させるためにきわめて重要な取り組みであることを強調しました。

 一方、民間外交の取り組みについては、まず中国との対話について、世論調査をベースとした議論によって両国世論の構造を浮き彫りにしてきたことや、2006年の電撃的な安倍首相(第1次政権)訪中に道を開いたこと、さらには2013年の「不戦の誓い」の締結と、その翌日に習近平国家主席が「民間外交」の重要性を認めたことなどこれまでの成果を紹介しました。また、中国以外にも日韓、日米中、日米中韓などのマルチの対話や世論調査の実績を紹介しながら、「輿論」形成をしつつ北東アジアに平和秩序をつくり出すための確かな動きが民間の中に存在していることをアピールしました。

 最後に工藤は、日本と海外のジャーナリストを対象に行ったアンケート結果について説明し、「今日は日本に対する意識の問題を皆さん議論したい」と語りました。

 その後、行われた意見交換では、今秋のアメリカ大統領選に向けた共和党の候補者指名争いで、旋風を巻き起こしているドナルド・トランプ氏に話題が集中しました。


有権者を巧妙に煽るトランプ氏

 まず、工藤がトランプ氏大躍進の背景を尋ねると、アメリカのジャーナリストたちからは、「オバマ政権8年間の失政」とそれに対する国民の不満と怒りがあり、それをトランプ氏が巧妙に煽っているとの指摘が相次ぎました。そして、その「失政」としては特に、貧富の格差拡大が続いていることや、イスラム国(IS)への対応が後手に回っていること、移民やTPPによって雇用が奪われることへの懸念などが例示されました。ただ、このような有権者の不満をダイレクトに受け止める政治家の出現については、民主党候補者指名争いで健闘を続けるバーニー・サンダース氏も同様であるし、ロブ・フォード氏(前トロント市長)など他国にも類似の例は見られるため、トランプ氏個人の特異なキャラクターに起因する問題ではなく、各国社会に内在する構造的な問題であるとの意見が出されました。


トランプ政権は北東アジアの平和にコミットメントするのか

 続いて日本側パネリストから、仮にトランプ政権が誕生したとして、日本と中国が対立した場合にどうコミットするのか、また、今後もアメリカは世界の紛争に対してリーダーシップを発揮し続けるのかなどの質問が投げかけられました。

 これに対して、アメリカのジャーナリストの一人は、トランプ氏が選挙戦を通じてアメリカの世界におけるプレゼンスのあり方や、南シナ海問題における「航行の自由」についても何ら言及していないことを紹介した上で、アメリカが国際主義を放棄し、中国に対しても誤ったメッセージを送ってしまうことになることを懸念する意見が出されました。一方で、別のアメリカ人ジャーナリストからは、アメリカが主体となって東アジアを守るのではなく、日本などの同盟国がもっと安全保障上の自助努力をすべきと考えているアメリカ人は多いと指摘し、トランプ氏はこうした声も受け止めているとの指摘がなされました。


支持者の記憶に残る「1980年代の強い日本」を反映したトランプの対日方針

 その他、アメリカ以外のジャーナリストからは、日本との関係について、「トランプ氏は政策を主張しているのではなく、支持者の意見を映しているだけだ」とした上で、トランプ氏の支持者が高齢で、1980年代の日米貿易摩擦を鮮明に覚えている人たちが多いため、いまだに日本を脅威として捉えているとの分析が出されました。

 意見交換を受けて工藤は、トランプ旋風が出てきた背景にある格差や安全保障上の構造的な問題を掘り下げて議論した上で、アメリカ大統領選挙の結果が北東アジアの平和な秩序形成にどう影響するのか、午後の対話で議論していきたいと抱負を述べました。さらに、トランプ氏のように国民の不安を煽って支持を取り付ける手法について、「これはまさしくポピュリズムそのものであり、デモクラシーにとって危険だが、こうした動きに対してジャーナリズムには何ができるのか」と問題提起して非公開対話を締めくくりました。