３月27日、言論ＮＰＯは東京都内の国連大学において、主要８ヵ国の有力シンクタンクのトップらを招聘し、国際シンポジウム「ワールド・アジェンダ2016」を開催しました。午後からの公開対話に先立ち、午前は非公開対話が行われました。

　冒頭、言論ＮＰＯ代表の工藤泰志が、来日した海外パネリストへの謝意が示されると共に、今回のシンポジウムに先駆けて行われた国際秩序の不安定化、世界経済のリスクの高まりについて実施された有識者アンケート結果が紹介されました。

　その後、第一セッション「国際秩序の不安定化と平和構築への努力」の司会を務める近藤誠一氏 （近藤文化・外交研究所代表、前文化庁長官）より、セッションの進め方についての説明がなされました。そして、どのような観点から議論をしていくべきか、について意見交換が始まりました。

現実的で共有可能な課題にフォーカスした議論を行うべき

　まず、日本側パネリストが、問題の所在は既にはっきりしているため、そこには深入りせず、「何をすべきか」に主眼を置いて話し合い、５月のＧ７伊勢志摩サミットに対する明確なメッセージになるような議論を行うことを呼びかけると、各国の参加者もこれに同調。「世界に漂う不透明感を逆にチャンスととらえるべきだ」、「新たに登場してきたプレーヤの意見も反映させながら、新しいリベラルな国際秩序やシステムを模索するような、中核的な議論をすべき」などのポジティブな意見が相次ぎました。

　さらに、昨年のＣＯＰ21における「パリ協定」のように、真にグローバルな課題であれば政治体制が異なる国同士でも課題解決に向かって国際協調することが可能だとの指摘がなされ、「そのためには理念的な議論だけでなく、より現実的で共有可能な課題にフォーカスした議論が必要だ」との意見も提示されました。

国際秩序の不安定化としての「ロシア」に着目し、日本に積極的な役割を求める声も

　次に、海外のパネリストから国際秩序の不安定化の大きな要因として、「ロシア」に着目すべきとの提案が出されました。その中では、「世界のＧＤＰに対する割合が３％程度のロシアに世界がここまで攪乱されるのはなぜなのか」と本質を問うような問題提起や、プーチン大統領との首脳会談を重ねる安倍首相に対し、「そのチャネルを活用し、ロシアを対話の場に引き出す積極的なリーダーシップを発揮してほしい」と積極的な役割を求める声も寄せられました。

「リベラル・デモクラシー」の危機が叫ばれる中、市民社会が果たす重要性

　続いて、海外のパネリストから、世界各国において政府と市民社会の間に「断層」が生じ、それがポピュリズムの台頭を促すなど、「リベラル・デモクラシー」の危機を生じさせているとの指摘がなされると、参加者は相次いで「リベラル・デモクラシー」の危機に対する懸念を表明。市民社会が果たすべき役割についての議論を深めることの必要性で各参加者の認識が一致しました。

　その他にも現在、民主、共和両党の予備選挙が白熱しているアメリカ大統領選挙に見られるアメリカの孤立主義的傾向をどう考えるか、「アメリカの力の低下」を受けて各同盟国はどうすべきなのか、など様々な論点が提示されました。

中国主導のルールと既存の国際経済秩序のせめぎ合い

　一方、第二セッション「世界経済のシステムリスクと不安定化にどう対応するか」に関してはまず、３月の全国人民代表大会（全人代）で示された経済構造の改革が本当にうまくいくのかなど、中国経済に話題が集中しました。同時に、ここでも既存のルールによる規制が厳しいため、（融資基準が比較的緩いとみられる）中国主導のアジアインフラ投資銀行（ＡＩＩＢ）に注目が集まっているとの指摘がなされるなど、現行の国際秩序のせめぎ合いを指摘する意見が寄せられました。

保護主義の台頭にどう向かい合うか

　また、第１セッションに関しての議論でも指摘された「ポピュリズム的傾向」が、各国の通商政策における保護主義的傾向につながり、第二次世界大戦後の世界経済の発展に寄与してきた開かれた自由貿易体制への打撃につながりかねないとの懸念の声も相次ぎ、「これに対してG７がどう向かい合うか」などの論点も提示されました。

　その他にも、午後の本番を見据えた有意義な意見交換が展開された後、非公開対話は終了しました。