各論
(新たにイランなどの国が核兵器を保有するようになることを阻止すること、法的・基準枠的組みの強化、核兵器廃絶への進歩)
2015年における国際的な対応の評価
新たな核兵器保有国を出現させない、という点でイランと米国等が核問題での最終合意に至ったことは2015年の歴史的な成果である。イランがあのまま核開発を続ければ、中東での核拡散に歯止めがかからなくなる可能性があった。その後、2016年1月には、イランの核合意の履行を確認し、欧米は経済制裁の解除に踏み切っており、核保有の大きな懸念となったイランの核問題がひとまず終息することになった意味は大きい。残された懸念は北朝鮮の核保有だが、水爆実験に踏み切ったのは2016年1月のことであり、評価該当から外す。ただ、核軍縮や核拡散の全体的な動きで見れば、2015年は核保有国に協調的な歩み寄りを期待する状況ではなく、米ロの関係悪化から核軍縮も進んでいない。
2015年4月に行われたNPTの運用検討会議は、中東の非核化を巡り最終文章を採択できないまま閉幕に追い込まれた。今後の5年間では合意された活動指針が不在となり、それらが減点要因となっている。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
日本が議長国として行うG7では、外相会合が2016年4月に被爆地の広島で行われる。この会合がきっかけになって、G7の首脳会合で核なき社会に向けた核軍縮で足並みを揃え、さらにジュネーブでのオープンエンドの作業グループによる討議に連動すれば、修復に向けた環境作りが動き出すことになる。このG7の会合に前後して、東京で日中韓の外相会談や首脳会議も開催される予定になっている。北朝鮮への制裁強化が国連を軸に動いている中で、周辺3ヶ国が議論を行い、足並みを揃えることの意味は大きい。
(活発なテロリストグループの抑止、テロリスト財源への対策、テロ防止・過激派抑制に関するサポート、人権に配慮したテロ対策)
2015年における国際的な対応の評価
欧米を中心とした軍事攻撃でISの領域支配地域は一部減少したが、ジハード勢力の影響力はむしろ拡大し、この地域を拠点にして世界にイデオロギーを発信・拡散し、またISへの参加者が自国でテロを起こすという新しい状況になっている。テロの舞台は、パリやジャカルタなど、地域外の欧州、アフリカ、アジア、北米などにも広がり、それを止められない状況になっている。これに対し、国際社会は国連をはじめ様々な国際会議の場でヒト、モノ、カネの移動を制限するなど多国間協力を進めてきたが、テロの舞台が拡大している以上、2015年はISをはじめとした過激なテロ集団の勢いを封じ込め、テロ防止処置として充分に機能したとは言えない。12月に安保理でISの資金源遮断を狙った金融制裁決議案が全会一致で採択されたことは一つの進展であるが、過去に行ってきた資金凍結の協力でもテロは拡大しており、これがテロ勢力をどこまで封じ込めることができるか未知数である。また安保理で決議した制裁リストも実際の運用面で課題がある。さらに、世界経済の減速、資源価格の低下は経済基盤がぜい弱な一部中東やアフリカ、中央アジアの新興国、途上国に打撃を与えているが、このような国々の脆弱性をサポートするための国際協力も十分とは言えない。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
状況を根本的に好転させる改革案はない。ただ、国際社会がテロに対抗するためには、テロの温床となっているISの壊滅のためにより力を合わせるべきである。そのためには、一つはシリア情勢の安定化が必要である。2015年12月の安保理決議2254号に従って、政治移行プロセスに関するシリア政府と反体制派との間の公式交渉の開始や,シリア全土における停戦の実現を始めとする一連のプロセスが着実に実施され,シリア情勢の改善がなされなければならない。
二つ目は、ISに対抗する国際協調が必要である。武器禁輸措置を強化するだけではなく、より厳しい制裁措置を取り、国境の共同監視を強めなければならない。資金規制については昨年末の安保理で決議された資金源遮断決議が機能するよう各国の協力が不可欠である。そしてテロに関与している人物のリストを強化し、ヒト、モノ、カネの流れを遮断するため国際社会で情報を共有しなければならない。
一方で、テロを地域外に広げないよう国際社会は連携すべきである。欧州をはじめ世界各地からイスラム国に赴き、訓練を受けた外国人戦闘員が起こすテロが2015年は大きな問題となったが、送り出し国が人の流れを取り締まり、過激主義が世界に拡散することを食い止めなければならない。
(温室効果ガス排出削減、森林など二酸化炭素吸収源の保護、代替エネルギーの保護、変化適応の促進)
2015年における国際的な対応の評価
COP21で2015年12月、採択された「パリ協定」が、歴史的な合意になったことを疑う人はいないだろう。これまで「京都議定書」などに加わっていなかった主要排出国の中国、アメリカなど主要排出国及び、先進国と途上国を含む全ての国が参加する初めての枠組みが実現したからだ。2020年以降の温室効果ガスの排出削減のための新しい枠組みがこれで動き出すことになるが、ただこれで地球を救えるか、というとその見通しが描けたわけではない。世界全体の排出量を今世紀後半には実質ゼロとし、大幅な削減に取り組むために、科学者が警告していた今世紀末の平均気温上昇を産業革命前から2℃より十分低く保つとの目標に加え、「1.5 ℃以下に抑える」との努力目標を明記したが、約束草案には法的拘束力がなく、かつ、現在出ている各国の約束草案すべてが達成されたとしても2℃目標達成には届かない。このため全ての国が5年ごとに削減の達成状況を報告しより難易度を高める方向で見直し、レビューを受け、世界全体の実施状況を確認する仕組み(グローバル・ストックテイク)が設けられたが、これらの規定は実効性を高める仕組みの骨格部分にすぎず、その具体化はCOP22以降の議論に委ねられる。
交渉の一つの焦点となった、先進国から途上国への資金支援は先進国側の拠出を義務とはしたが、資金の増額に関しては、2025 年以降、1000 億ドルを下限にして増加させることになったものの、法的拘束力を伴わない協定外の合意という形になっている。日本はこれに対して2020年に現状の1.3倍の約1.3兆円の資金支援を発表し、2020年の1000億ドルの目標の達成に貢献することにしている。
今回の合意は、新たなスタートラインに立てたという点では「良い」と評価できるが、協定が目標に向けて実際に動き出せるのかは、その真価が問われるのはこれからであり、現時点では「成功」に至っているとはいえない。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
気候変動枠組条約や京都議定書の下、これまで環境関連技術の国際的な協力促進は不十分であった。また、途上国が大半を占める国連では、優れた技術開発能力を持つ先進国間のイノベーション(技術革新)政策に関する協調的議論は不足しがちである。
しかし、今世紀末の平均気温上昇を産業革命前から2℃未満に抑えるとの目標を達成するためには、革新的な低炭素技術の開発と普及が不可欠である。そこで、「パリ協定」では技術革新の促進・実現が長期的な気候対策、及び経済成長・持続可能な発展に対して決定的に重要であると明記された。
日本政府は2014年から、世界の研究者や産業界、政策担当者などが集う会議(Innovation for Cool Earth Forum)を開催し、低炭素社会に向けた情報共有や技術開発支援に取り組んでいる。2016年の伊勢志摩サミットやCOP22においても、高まりつつある世界的な技術革新の機運を逃すことなく、先進国間の国際的な共同研究開発や、適切な知的財産権ルールを含む制度設計、資金分担、途上国への技術普及に必要な枠組みのあり方などについて広範に議論することが、有効な改革の第一歩になると考える。
(武力による領土拡大の防止、国境概念の尊重・保護、武力使用に関する集団的承認の必要性の尊重、領土紛争の平和的解決)
2015年における国際的な対応の評価
クリミア併合に対するロシアへの経済制裁は続いているが、クリミアのロシアへの一体化が実質的に進んでおり、回復は極めて困難な状況にある。2015年2月に独仏の仲介で成立した東部ウクライナに関する「ミンスク合意2」は停戦と緩衝地帯に設置に加え、東部ウクライナに高い自治権を与えるなどロシアの主張に沿ったものとなったが、高度な自治権はまだ履行されていない。東部ウクライナでの武力紛争は2015年に一応収束することになるが、地域の平和秩序が実現したのではなく、解決にはほど遠い不安定な状況を西側諸国が黙認する、いわば放置されている状況にある。ロシアにとってもこうした不安定な状況は、この地域に発言権を維持するため好都合な状況と言える。ウクライナの立て直しには経済構造の改革も不可欠だが、その出口も見通せていない。
ロシアの行動は自国の勢力圏を維持することが目的であり、これ以上の領土を求めているとは思えないが、パワーバランスの綻びが見える地域では新しい秩序形成に関わろうとしている。ロシアがIS攻撃でシリアに軍事介入したのはテロに対する国内不安を取り除くことや、世界の目をクリミアから転ずるためだけではないはずである。
中国の南シナ海での行動も周辺との緊張感を高めている。南沙諸島の領有を巡りフィリピンやベトナムと対立している中国は7つの岩礁で埋め立て工事を行い、この人工の施設から12海里に領海を主張している。10月には米海軍が、この海域が「航行の自由」が保障される国際水域であることを強調するためイージス艦を運航させ、さらにB52が南シナ海で飛行し緊張が高まった。軍事的な衝突には発展していないが、中国も譲らず、今後も中国による防空識別圏の設定等が想定され、緊張が深まる可能性がある。
11月の東アジア首脳会議の議長声明では「深刻な懸念」が盛り込まれたが、南沙諸島の領土問題は具体的に解決に向かって動いているわけではない。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
こうした状況から2016年には有効な手立てが出てくることは期待できない。米国は中東やアジアでの対応が遅れており、米国の力の後退という認識を世界に生み出している。それが国際的な秩序の不安定化を高めている。大国が武力で他国を脅かす状況は、こうしたパワーバランスの変化がその背景にある。2016年は、中東ではシリアを巡る和平やISに対する攻撃は進展するが、それがどのような新しい秩序につながるのか見通せない状況であり、また、南沙諸島では緊張を高める可能性もあるが、米国の大統領選が終わるまでは新しい大きな展開は期待できないだろう。むしろ、こうした不安定さをどう管理し、さらに悪化させないことが2016年の課題となる。
(大規模内戦や大量虐殺の予防、紛争仲介、平和維持活動の効果的実施、戦争直後の安定化)
2015年における国際的な対応の評価
ISは、シリアのラッカ、イラクのモスルといった重要な拠点から撤退せず、空爆によってその拡大を封じ込めている状況である。シリアから周辺国への難民が400万人を超え、難民に紛れたテロリストは欧州でテロを起こすなど状況の悪化は止まっていない。
イラクはISとの戦いにおいて、政権崩壊の危機は脱したとはいえ、今後の展望が見えない一進一退の状況である。
シリアの和平プロセスはこれまで進展しなかったが、ロシアが空爆を開始した9月以降、パリ同時テロ事件を挟みながら、和平プロセスが再び動き始めたことは注目される。
10月には、米、露、サウジアラビア、トルコ等17カ国の外相、国連及びEUの代表がウィーンで、2016年1月を目処にアサド政権と反体制派の双方を招いた国連主催の公式協議を行い、双方が参加する「移行政権」発足の目標を6カ月以内とし、18カ月以内に国連監視下で選挙を実施することで合意し、この合意を支持する国連安保理決議第2254号も全会一致で採択されている。しかし、このプロセスは、そう簡単に進むとは思われず、速やかな紛争の終結に向けた展望も現時点ではまだ見えない。このため、国内暴力紛争の防止と対応は「不十分」と判断するしかない。
アフリカでもリビア、イエメンなど脆弱国家で、暴力が拡大しており、国連PKOへの更なる需要が高まっているが、既に16のミッションが展開中であり、予算、要員、任務の拡大という課題に直面している。コンゴ民主共和国、南スーダンなど紛争終了後のアフリカで展開中のPKOも状況が悪化する中で任務を強いられている。こうした現状に対して、国連でPKOの包括的な見直しも始まり、6月には、ハイレベル・パネルによる報告書が事務総長に提出されたが、それがどれほど具体的な進展につながるか、現時点で見通すことは難しい。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
シリア紛争においては、2015年のウィーン及び国連決議第2254号で確認された和平協議が、1月末からジュネーブで開始されるか否かの決定的な局面を迎えている。
和平協議の進展は、難民及び避難民に対する人道支援、停戦、国連PKO、シリアの国家再建、そしてISの掃討へと向かうスタートであり、国連常任理事国の全てが賛同しており、国際社会が一致して、この動きを推進することが2016年の国内暴力紛争問題における最も有効な改革と言える。
(急速な病気流行の管理、感染症への対応、生活習慣病への対応、国際医療機関へのサポート)
2015年における国際的な対応の評価
1万1000人の死者を出したエボラは、WHOの対応の遅れから被害が拡大することになったが、その際に問われた、エマージェンシーコミッティの招集と緊急事態宣言の遅れや、本部と地域事務所の意思決定の二重構造の仕組みなど、脅威に迅速に対応できないWHOのガバナンス問題は、内外からさまざまな改革案は出されたが、具体的な改革として実現していない。
WHOの改革は不可欠だが、自身は緊急事態に対応する資金面の拡充等を主張しているだけで、被害を深刻化させたことへの責任ある総括が進んでいるとは言い難く、むしろ曖昧化している。今後予想されるエボラ以上に深刻な感染症の脅威に対応できるような長期的な視点を持った体制作りへの展望が見えない。
2015年に採択されたSDGsでは、目指すべき17の目標のうちグローバルヘルスに関する項目はMDGs時の3項目が集約され1項目のみとなり、2015年にエボラが世界に改めて提起した感染症の脅威やその対応を巡る課題が、十分に反映されたとは言えない。各国の保健医療に対するボトムアップも必要だが、目標に含まれたUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)などは財政面も含めてどうそれを進めていくのか実行可能性が未知数である。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
WHOの改革や、今後起こるべき様々な脅威や直面する課題に関するグローバルヘルスの全体的な課題を討議する場として、2016年5月に日本で行われるG7でまず議論を行う。ここでは日本も主張しているUHCで、それに必要な資金の枠組みや推進体制が合意できることが望ましい。
かつて2000年の日本の沖縄サミットで、HIV、結核、マラリアの三大感染症への対策でグローバルファンドを作ったが、こうしたアプローチが今回必要であり、それが難しいのならば、このグローバルファンドを含めて様々なリソースを集約して、UHCへの推進やWHOの機能強化に繋げるべきと考える。
(マクロ経済政策と為替レートの調整、経済機関・銀行・流動性の管理、国際経済機関のガバナンス適応)
2015年における国際的な対応の評価
2015年は国際経済システムへの対応でいくつかは進展したが、グローバル経済運営での断層が表面化し、経済危機への再燃不安が高まる年となった。
グローバルなシステミックリスクを抑えるための銀行間の流動性管理はバーゼルでの規制がほぼ目処が立ち、破綻時でも巨大銀行が損失を吸収できる資本増強を求める取り組みも進んでいる。しかし、銀行規制が強まる中でシャドーバンクに流れる膨大な資金に対する有効で実効的な管理手段はまだ見つかっていない。
国際金融機関のガバナンス強化では、IMF改革が昨年末の米国議会の承認で5年ぶりに動き出し、その結果、出資比率で中国は3位となり、インド、ロシア、ブラジルも10位に入ったが、米国の対応の遅れは米国と日本が参加しない、異なるルールに基づくAIIB等の別の国際金融機関の誕生を許すことになった。
2015年末に中国の人民元がドルペックから離れバスケット方式になったこと、人民元がSDRの構成通貨に加わったことも大きな進展であり、この結果、中国の為替政策は今後、グローバルな経済運営や市場の影響を受けやすくなる。こうした中国経済の構造改革の進展方向には期待できるものの、中国経済は世界経済を牽引できる力を失っており、景気の減速はむしろ世界へデフレを輸出し、資源価格に依存する国に影響をもたらすなど不安定化の一因となっている。これに加え、米国の利上げの影響は人民元を他の新興国の通貨同様に切り下げ、中国が抱えるドル建て債務の増加をもたらしており、国際金融市場にもリスクが蓄積している。
グローバルシステムでの断層を埋めるという作業と経済的な危機に対する国際協調が求められる局面となっている。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
IMFの2016年経済予測等で予想されている世界経済の成長率の鈍化が、国際金融システムの危機に至るとまでは考えられないが、中国経済の減速に伴い、新興国への深刻な影響は避けられず、その不安定性がかなり高まる可能性がある。
また、このような状況下、世界経済への影響を考えると、米国が利上げについて国内外の市場の動向を意識して慎重に行うことができるかが焦点となる。
こうした状況への国際協調を進めるためには、まず国際金融のシステムの安定化に先進国が覚悟をもって臨む政治的な意思を固める必要がある。つまりグローバル規制等に対する断層を埋めるという強い政治的なコンセンサスである。
日本で5月に開催予定のG7がその舞台となるが、その後に中国で行われるG20も含め、構造改革と連動した財政出動や、ドルの融通措置の拡大、国際経済システムの断層を埋めるためにAIIB等の機関に行動規範の透明性を求めること、さらに、ファンドなどの金融規制に対しては、モニタリング以上の強制力がある対応の構築が、具体的な検討課題となる。
日本はG7の議長国として先進国をまとめ上げるとともに、G20議長国の中国との連携を含めて、新興国とのWin-Win関係に向けた国際協調を推し進める役割を担う必要がある。
(持続性のある開発手法へのサポート、貧困と脆弱性の削減、グッドガバナンスの促進、性差による不平等の削減)
2015年における国際的な対応の評価
2015年は、国際開発分野では、目標期限を迎えたミレニアム開発目標(MDGs)に続く、新しい「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択された極めて重要な年となった。
この合意に関しては150を超える加盟国首脳が参加しており、経済成長、雇用の確保、環境保全、国内格差などを含む幅広い分野の野心的な目標が相互に連動した形で設定され、全ての国が共通に取り組む2030年までの指針が合意された。目標は法的拘束力を持たないため、国家の政策への反映及び、政策の実施は全て各国政府に委ねられ、2016年3月に国連統計委員会で合意予定のグローバル指標でその実行が検証されることになる。
この実行の成否は数兆ドルとされる開発資金の導入にかかっている。ただ、中国経済の減速や原油価格の下落などで、国際経済の停滞が進行しており、2016年以降の実行にそれらがどのような影響をもたらすのか、現時点で先を見通すことは難しい。加えて、2015年は世界銀行やアジア開発銀行といった既存の援助メカニズムと規範や援助のルールを異にする、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)が、米日両国が参加しない形で設立されている。コンデショナリティに過度にこだわらない融資姿勢は途上国に歓迎される可能性もあるが、二つの異なるルールが共存することとなり、規範の断層が援助の世界にも持ち込まれたことになる。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
途上国経済の脆弱化が政治的な対立や混乱、ひいては紛争に発展するのを防ぐため、世界の途上国への開発援助を、協調して進める仕組みを構築することが必要だと思う。そのためには、中国主導の国際金融機関に投資のルールの共有化を目指して透明性を求めるほか2015年の年末に出資比率の見直しなどのガバナンス改革が進んだIMFや、世界銀行、アジア開発銀行もより途上国の実体やSDGsの目標を達成する方向で支援を機能させることが必要だ。援助の世界に断層が存在することは望ましくなく、それを埋め、より協調して、開発支援ができる仕組み作りこそ2016年には取り組むべきである。2016年は日本でG7、中国でG20が開かれることになっており、議論の舞台は揃っている。
(インターネットガバナンス基準の交渉、サイバースペースでの国の行動に関するルール策定、サイバースペースにおけるセキュリティーと自由のバランス、サイバー犯罪の抑止と対応)
2015年における国際的な対応の評価
米国・ニューヨークの国連総会において、2005年(12月16日)にチュニスで開催されたWSIS(World Summit on the Information Society)の成果文書の10年間の実施状況を振り返るハイレベル会合が開催され、レビュー文書が採択された。10年前のこの会合から、政府のインターネットガバナンスに対する関わり方が、国連会議体で繰り返し取り上げられるなど、大きな議論となったが、今回のレビュー文書にもマルチステークホルダー対マルチラテラルの対立する意見の両論が併記されるなど、インターネットの基盤の管理については玉虫色な記載にとどまっており結論は出ていない。
次に、現在、インターネット資源のグローバルな管理についてはICANNが米国商務省下のNTIA(National Telecommunications and Information Administration)と委託契約を結び、契約に書いている範囲内でサービスのレベルを維持することが求められている。こうした委託関係を定義している契約をなくし、当該契約に付随する米国政府の監督権限をなくそうという方向で2016年1月にも最終提案がなされる予定である。これまで続いてきた米国政府のインターネットとの関わり方に対する対立に形式的に決着がつくことは大きな進展とも言えるが、当初、2015年9月30日の契約満了日までにまとめる予定が2016年に延期されており、2015年の成果として評価はできない。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
一国では解決できないような課題に関して、一定のあるべき秩序やルール、ガバナンスを形成していくための舞台の一つとして、IGFを機能させる。
インターネットガバナンスに関する国際的な議論を行う場として、国連主催のIGF(Internet Governance Forum)が2005年から開催され、政府関係者、市民社会、技術者など、様々な立場の人が参加し、互いの考え方や価値観を共有するための対話を行い、10年を経て互いの理解は深まってきた。しかし、互いの理解は深まったものの、合意文書は玉虫色の決着しかできないのが現状である。
一方で、インターネットの普及に伴い著作権や児童ポルノ、データプライバシー、サイバー犯罪など、経済活動や市民生活を行っていく上で、様々な課題が存在してきた。そこで、社会基盤としてのインターネットのガバナンス(Governance of the Internet)と、その基盤を前提として存在している経済活動や市民生活などにおけるガバナンス(Governance on the Internet)の二つに切り分けて考える必要がある。こうした切り分けを行いつつ、これまで行ってきた法律の規制等、各国の個別対応では解決できないような課題に関して、一定のあるべき秩序やルール、ガバナンスを形成していくための議論の舞台の一つとして、IGFを機能させていくことも検討すべきである。
(貿易障壁の排除と規制の収斂の促進、貿易円滑化と貿易金融、開発経済の国際貿易への統合、国際貿易に関する交渉フォーラムへのサポート)
2015年における国際的な対応の評価
交渉開始14年を経たドーハ・ラウンドは貿易と開発を統合するために始まったが、部分的な成果を除けば、本丸の農業、工業、サービス貿易などはこれまで一切合意できず、2015年12月のナイロビでの閣僚会議では交渉自体の継続の可否について先進国と新興国、途上国の意見が分かれ、閣僚宣言も両論併記となり、機能不全が一層露呈している。
こうした中で2015年10月、アジア太平洋に自由化度の高い経済地域を作るTPPの大筋合意が関係各国でできたのは、大きな進展と言える。TPPの合意は議会での批准や発効までにはまだ時間を要するが、行き詰まった国際貿易の現状打開に向けた大きなスタートとしての期待がある。ただし、現時点では、他のメガFTAである、RCEPや日本とEUのEPAは予定を2016年に延期しており、米とEUのTTIPの動きも目処が立っておらず、TPP合意が新しい自由貿易に向けた起爆財となったか楽観視できない。
2016年における国際協力の状況を向上させるために最も有効な改革
まず、メガFTAの展開を軌道に乗せることが必要だ。RCEPや日本とEUのEPA、は2016年の早々での合意を目指している。日本では7月に参議院選もあり、早期の合意は見通せないが、2016年末までに時期を広げれば可能性がないわけではない。
TPPも、米国議会での批准が残っているが、こうした動きが確実に定着するためには発効にまで持っていく必要がある。
メガFTAを軸とした地域連携の展開には、多くの経済連携が国際貿易の自由化のあり方をもう一度見直し、ラウンド自体を再稼働させるという見方と、それに参加できる国とそうでない国のブロック化を招きラウンドの意義自体を形骸化させるという見方が存在する。しかし、メガFTAの動きは有志連合で、21世紀に新しい経済貿易に見合った新しいルールを機能させるという動きであり、多様な経済連携に多くの国が加わることで、質の高い自由化の目指す新しい国際貿易の展開が始まり、これらの動きがラウンド自体にとっても、その再稼働を促す最も有効な改革となる可能性が高い。ドーハ・ラウンドはいずれ完了となるが、ラウンドの中から改革の動きが出ない以上、こうした動きが国際貿易の新しい潮流となるだろう。ただ、それぞれのFTAが機能するためには、自由化の程度でそれを競わず、様々な違いをむしろ前提にし、より多くの国が参加できる形にし、それを踏み台にそれぞれの国が発展できるような形が望ましい。