6月23日、イギリスで欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が実施され、その結果、EU離脱派がEU残留派を上回り、イギリスはEUを離脱することになりました。そこで言論NPOは、6月29日から30日にかけてこの問題についての有識者アンケートを実施しました。
<調査の概要>
言論NPOの活動にこれまで参加していただいた全国の有識者約6000人を対象に、2016年6月29日から6月30日までの2日間の期間でアンケートの回答を依頼し、回答のあった175人の回答内容を分析しました。
<回答者の属性>
※各属性で示されている数値以外は無回答の割合。この頁以降、数値は小数点第2位を四捨五入しているため、合計が100%とならない場合があります。
7割超が離脱を「適切な判断だと思わない」と回答
まず、今回の国民投票結果についての評価を尋ねると、「適切な判断だと思わない」との回答が74.9%と多数を占め、日本の有識者は今回のイギリス国民の判断を厳しく見ていることが浮き彫りとなっています。
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崩壊はしないが、影響力の低下は避けられない
次に、今回の投票結果を受けて、EUの将来をどのように予想しているか尋ねました。その結果、「数年以内に瓦解する」、「将来的には瓦解する」とEUの崩壊を予想する見方は2つを合計しても15.4%にとどまりましたが、「EU自体は瓦解しないが影響力を失う」が41.1%で最多となり、有識者はEUの地位低下は避けられないと見ています。ただ、「予想できない」との見方も23.4%と一定数存在しており、有識者も判断しかねている様子がうかがえます。
「連合体制の崩壊」か、「最小限の影響」か
また、イギリスの将来をどのように予想しているかも尋ねました。これに対しては、「スコットランドやウェールズの独立の動きが広がり、連合体制が崩壊する」が36.6%で最多となりました。一方、「EUと関係を改善し、影響を最小限にとどめる」との回答も26.9%と一定数見られます。離脱派が主張する「偉大なイギリスの復活」を予想する有識者はいませんでした。
経済危機の引き金にはならない
今回のイギリスのEU離脱が、2008年のリーマンショックのような経済危機の引き金になると思うか尋ねたところ、「そう思わない」との見方が60.0%となりました。「どちらともいえない」との慎重な見方も27.4%と3割近くありますが、多くの有識者は経済的な観点からは大きな懸念を抱いていないことが明らかになっています。
「中露の影響力増大」と「大きな変動はない」で見方が分かれる
続いて、世界秩序への影響を尋ねたところ、「ロシアや中国などの影響力や発言力が強まっていく」が45.1%で最多となりましたが、一方で、欧州の秩序は不安定になるものの、「世界全体で見れば大きな変動はない」との見方も38.3%ありました。「米英関係の不安定化で、アメリカを軸とした世界的な秩序の衰退が加速する」は18.9%でした。
G7の結束は揺るがない
さらに、今回のイギリスのEU離脱によって、自由や民主主義、法の支配などの基本的価値観を共有するG7の結束が弱まると思うか尋ねました。その結果、「そう思わない」が51.4%と半数を超え、「そう思う」の19.4%を大きく上回っています。
民主主義は脆弱なシステムか否か、見方が分かれる
今回の国民投票結果について、中国の国営新華社通信は、「民主主義の制度が、ポピュリズムや民族主義、極右の影響には脆弱なことが示された」と論評しました。この論評についての感想を聞いたところ、「そう思う」の40.6%と、「そう思わない」の37.1%が拮抗しています。
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影響はすぐに沈静化するとの見方が5割超。しかし、長期化への懸念も4割
最後に、イギリスのEU離脱の日本経済への影響について質問しました。これに対しては、「短期的には悪影響を及ぼすが、すぐに沈静化する」との見方が54.3%と半数を超えています。ただ、「長期的に悪影響を及ぼす」と懸念する見方も37.1%と4割近く見られます。