各論
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗
(新たに(イランなどの)国が核兵器を保有するようになることを阻止すること、法的・基準枠的組みの強化、核兵器廃絶への進歩)
2016年における評価
核軍縮や核廃絶に向けた国際協力は米ロの関係悪化から進展はない。むしろ、核保有国の連携がないまま2017年からの核兵器禁止条約への交渉が国連で決議されるなど、2016年はNPT体制下での核保有国と非核保有国の溝が表面化した。核不拡散でもイランが核合意に関して着実な履行を進めていることは評価すべきだが、北朝鮮の核の脅威は拡大しており、有効な手立ては組み立てられていない。
(活発なテロリストグループの抑止、テロリスト財源への対策、テロ防止・過激派抑制に関するサポート、人権に配慮したテロ対策)
2016年における評価
2016年は、ISの支配地域の抑え込みは進展したものの、国際テロのボーダレス化が進み、欧州の都市でもテロが発生している。国際社会はこれに対し、レジリエンス(強靭性)と責任をそれぞれの側面で見せている。安保理決議2309で言及されているように、グローバルでも地域レベルでも、多国間の情報共有など協力の緊密化で、セキュリティスタンダードの実施レベルは高くなっている。
航空ネットワーク間での情報交換も以前より活発になり、資金の流れを止めるという側面においても前進している。
あ暴力的過激主義に走ってしまう若者に対して資源を投入する予防対策も動いているが、未だ効果は十分ではない。G7は2016年の日本の伊勢志摩サミットで、空港などでの入国の安全技術の能力向上やインターポールのデータベースの活用強化などの内容を含めた、G7の行動計画を採択、また日本政府はそのためのODAを活用した資金援助も予算化するなど、コストパフォーマンスの高い分野での協力が動き始めている。また日本を含む72カ国は「暴力的過激主義に関する国連のグローバル・リーダーシップのための原則」という共同声明において、国連の新事務総長に5月までに国連のテロ対策の仕組みを強化するオプションを示す提案を行っている。テロを未然に防ぐことができずにいる以上、国際テロ対策の取り組みは不十分ではあるが、国際社会が、ボーダレス化が進むテロに対し、行動計画や共同声明に記述されたように、各国がコストパフォーマンスの高い分野で協力し、テロに対するレジリアンスを高める動きが進展している点を評価した。
(温室効果ガス排出削減、二酸化炭素吸収源(森林など)保護、代替エネルギーの保護、変化適応の促進)
2016年における評価
「パリ協定」は米中やEU、インドなどが9月から10月にかけて相次いで批准したことで、採択(2015年12月)から1年も経たない異例のスピードで11月4日に発効した。また、COP22マラケシュ会議や、パリ協定第1回締約国会合(CMA‐1)、パリ協定特別作業部会(APA)など6つの会議が、11月7日から18日にかけて開催されるなど、具体化に向けた議論を始めることができた。
米国の大統領選の動向はこうした動きに水を差す形になったが、参加国が一様に「他国の動向にかかわらず、提出した国別目標に沿って温暖化対策を進めていく」と決意を表明したこともあり、交渉が粛々と進められた。
パリ協定では、今世紀末の平均気温上昇を産業革命前から2℃より十分低く保つとの目標に加え、「1.5 ℃以下に抑える」と明記されたが、これは努力目標であり、法的拘束力はない。かつ、現在出ている各国の目標すべてが達成されたとしても2℃目標達成には届かないため、パリ協定の実効性を高めるためには、工程表に沿って各国が自らの目標を深堀りしたり、対策強化を促すことにつながるような実施指針を2018 年までに作成した上で合意できるかがこれから問われてくる。
2016年は、パリ協定の早期発効にこぎつけ、2018年に向かって具体的な議論をスタートさせることができたことは評価できるが、真価が問われるのはこれからであり、現時点では「成功」に至っているとまでは判断できない。
(武力による領土拡大の防止、国境概念の尊重・保護、武力使用に関する集団的承認の必要性の尊重、領土紛争の平和的解決)
2016年における評価
現下の大きな国際的紛争としては、ウクライナ問題と南シナ海問題を挙げる。ウクライナ問題ではまずウクライナ東部の停戦をめぐる「ミンスク合意2」が、ロシア、ウクライナ、ドイツ、フランスの4カ国の首脳会談によって、2015年2月に成立してから間もなく2年が経過する。しかし、東部ウクライナ自治権拡大などの課題は未解決のままであるし、親ロシア派武装勢力とウクライナ政府軍との交戦は今も散発的に続いている。
2016年11月末には膠着した事態を打開しようと4カ国の外相会談が行われたが、和平に向けた工程表に合意できず、ウクライナとロシアの隔たりは依然として埋まる見込みがないなど、正常化にはほど遠い情勢である。また、クリミア併合についても、クリミアのロシアへの一体化が実質的に進んでおり、もはや回復は極めて困難な状況にある。
西側諸国は対ロシア制裁を続け、上述のように独仏を中心として仲介の努力を続けているが、事態を打開できていない。国際社会は、全体として腰が引けたものになっており、結果として混迷した現状が黙認されているような状況である。
一方、もう一つの大きな国際的紛争としては、南シナ海問題があるが、こちらも混迷が深まっている。2016 年7月には、南沙諸島について領有権を主張するフィリピンが申し立てていた国連海洋法条約に基づく仲裁裁判が、中国による「九段線」に囲まれた海域に対する権利を否定する最終判断を示したが、中国はこれに強く反発し、判決後も埋立て施設の軍事化を進める姿勢を変えていない。
これに対し、日本やアメリカは、中国に仲裁受け入れを促し続けている。さらに同月のASEAN外相会議の共同声明において、仲裁裁判所の裁定について言及するよう働きかけていたが、ASEAN内部でも意見が分かれ、共同声明では言及はなされなかった。そして、判決を勝ち取ったはずのフィリピンもロドリゴ・ドゥテルテ大統領の就任以降、対中接近が顕著であるなど、各プレーヤーがそれぞれの思惑で動いており、国際海洋法に基づく紛争の平和的解決への進捗はみられない。
そして、アメリカは任期満了を控えるオバマ政権がシリア問題に集中しており、2016年にはウクライナ問題で積極的な姿勢を取っていない。
以上のことから、2016年の国際紛争に対する対応は、いずれも「不十分」である。
(大規模内戦や大量虐殺の予防、紛争仲介、平和維持活動の効果的実施、戦争直後の安定化)
2016年における評価
シリア内戦では、2016年は北部最大の都市アレッポでは激しい攻防が繰り広げられ、12 月になってシリア政府軍が、ロシアやイランの支援のもとトルコなどが支援する反体制派勢力を駆逐し、要衝アレッポを占領。同月29日にはロシア、トルコ両政府がアサド政権と反体制派勢力がシリア全土の停戦に合意したと発表。31日には国連安全保障理事会が、停戦合意を支持する決議案を全会一致で採択した。
シリアで停戦が実現したことは大きな転換点となるが、それがアサド政権、反政府勢力を交えたシリアの和平に発展できるかは、現時点で判断が難しい。
イスラム過激派の多くが、停戦対象に含まれないか、そもそも停戦や内戦の政治的対話の埒外におり、首都ダマスカス郊外、パルミラ西方などで依然、戦闘が続いている。
イラクでも、ISが支配する地域は後退している。ISは自爆攻撃を繰り返し、民間人に紛れて激しく抵抗している。政府側は市街地を二分するチグリス川の東岸の約8割を制圧したが、西岸の攻略は東岸以上に難航する可能性もある。
中東地域での紛争は周辺国の代理戦争化し、統治が壊れている。繰り返される国内暴力は、地域外への難民流出を生み出し、欧米でそれを吸収することは、難しくなっている。仮にこのままシリアで形式上の和平が実現しても、非人道的な行動で国内紛争をもたらしたアサド政権に人道問題を任せることとなりかねず、それしか出口を描けない国際秩序の限界を西側も理解する段階にある。
代替策がないままに米国がこうした紛争への関与を撤退する局面では、国内紛争に対する公正な対応はより難しくなるだろう。
国連PKOが抱える課題はクリアするどころか、深刻化している。紛争の多くが国家間の紛争から国内紛争、国内紛争と国際紛争の混合型へと変わった結果,国連PKOの任務も多様化し、需要が高まっているにもかかわらず、予算、要員ともに不足している。さらに、7月には、南スーダンの首都ジュバで国連南スーダン派遣団(UNMISS)の関連施設が襲撃を受け、少なくとも73人が死亡する事件が発生している。
したがって、2016年の国内暴力紛争の防止と対応は、有効な道筋を描けない状況にあり、「不十分」と判断するしかない。
(急速な病気流行の管理、感染症への対応、生活習慣病への対応、国際医療機関へのサポート)
2016年における評価
2016年はWHOの機構改革が本格的に始まった段階である。感染症の対応部署と災害対応部署を統合し、人材をリクルートし、迅速な初動対応を可能にするために、緊急対応基金もできた。ただ、エボラ問題を引き起こしたWHOの問題点の検証がきちんとなされ、それに基づいて本格的なガバナンス改革がなされているわけではない。様々なレポートは出され、WHOの緊急対応能力の向上では合意がなされたが、今後の感染症の脅威に際にWHOは適切に対応できるのか、WHOだけ十分なのか、現時点でまだ不明なことが多い。
2016年2月には南米で流行したジカ熱に対しては2016年2月にエボラ発生時に比べ速やかに緊急事態宣言を発表することが出来たことは評価できるが、WHOがリーダーシップを発揮できたのか、対応が適切なのかの評価は現時点で難しい。実際現地での対応はCDC(アメリカ疾病管理予防センター)の尽力によるものが大きく、今後起こりうる感染症の対応で、WHOのよりよい役割を構築できているわけではない。
そもそも2005年のSARS(重症急性呼吸器症候群)後にIHR(国際保健規則)で規定された各国のキャパシティビルディングに関しては、14年のエボラを経た今でも完成しておらず、現在はその履行のための猶予期間となっているが、アフリカなどで目途が立っていない。感染症をモニタリングし、レポートできる力が各国にないと迅速な対応はできない。また、これとは別に世界の人が皆基礎的な保健治療を受けるための制度であるUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)についても昨年SDGs(持続可能な開発目標)に盛り込まれ、今年のG7サミットでも先進国が動き出したが、莫大な資金が必要となることもあり、今度どのように実行可能性を担保できるか問われている。
(マクロ経済政策と為替レートの調整、経済機関・銀行・流動性の管理、国際経済機関のガバナンス適応)
2016年における評価
2016年は、ある意味で中国の国際協力の姿勢変化がグローバル経済ガバナンスの一つの転換点ともいえる。9月に中国の杭州で開催したG20の首脳コミュニケの中の「杭州コンセンサス」では、「先見性」「統合」「開放性」「包摂性」という4つの要素によって協力の姿を示し、「開放性」の中で「保護主義の拒否」という方針を表明した。
世界の経済システムはリーマン・ショック後の出口に向けた経済調整への対応能力が問われている。
金融と新興国経済に過度に依存した経済の調整は、中国は過剰生産能力の調整で進展が見られたが、年初では米国の利上げ観測から、中国を中心とした新興国の為替レートが対米ドルで下落し、資本流出が急増した。特に、中国では人民元急落し、外貨準備の急減したため「人民元ショック」と呼ばれた。
グローバル経済運営での米国とその他の中央銀行の金融政策の相違が生まれる中で、新興国経済に与える影響も大きくなっており、世界経済は依然、不安定な局面にあるが、米国大統領選挙で、多国間の経済運営やグローバルガバナンスよりも、自国の利益から二国間の交渉を志向する米大統領が選ばれたことのリスクは、国際経済システムの管理にとっても極めて大きい。
中国主導のAIIB(アジアインフラ投資銀行)の運営は、2016年に承認された10のプロジェクトでは6件が既存の国際機関との協調融資であり、グローバル経済ルールでの亀裂が懸念なれる事態には至っていない。
グローバル金融規制の強化では2016年もFSB(金融安定理事会)主導の下で、着実に進み、シャドーバンキングの規制や気候変動のリスクを配慮した関連財務リスクなど新しいリスクへの対応も始まっている。バーゼル3はその後、2017年1月に入って承認が延期となったが、G20を軸とした金融規制での進展が一定程度、進展が続いていることは評価できる。ただし、新米大統領の誕生や欧州での反自由などの動きはこうしたグローバルでの政策協調やルールに変調や亀裂を生みだしかねず、想定外のリスクが顕在化する可能性が出ている。
(持続性のある開発手法へのサポート、貧困と脆弱性の削減、グッドガバナンスの促進、性差による不平等の削減)
2016年における評価
2015年に採択したSDGs(持続可能な開発目標)より、開発が国際的に重要な課題であることが広くグローバルに浸透し、新たな目標の下、民間・公的な分野両方のプレイヤーを巻き込みながら進めることで歩みだしたことは進展である。2016年に開催された、G7、G20、TICAD(アフリカ開発会議)などでも、このSDGsに含まれる目標について政治リーダーが議論し、具体的な実現のために動いている。そして、その進捗状況を検証する指標づくりについても国連を中心に指標づくりを進めているなど一定程度の進展がある。SDGsで掲げた目標の実現には膨大な資金が必要となり、ODAなど公的な資金では賄えずいかに民間資金を動員し民間とパートナーシップを組めるかが問われているが、この点ではまだ十分な進展はない。ただ、特にインフラ投資の面では、中国などがAIIBを設立し、ルールの断層が起きていることがこの数年間懸念されたが、先進国―中国の間でもある程度協調していく流れができている。今後もいかに中国など非伝統的な援助国を国際社会の枠組みで活用していくかが問われている。
(インターネットガバナンス基準の交渉、サイバースペースでの国の行動に関するルール策定、サイバースペースにおけるセキュリティーと自由のバランス、サイバー犯罪の抑止と対応)
2016年における評価
2016年は、インターネットが、自由な情報の流通を通じてサイバー空間を活用した経済発展や市民生活の向上、という理想の下に捉えられていた時代が終わりを迎えたことがより鮮明になった年かもしれない。
国連を軸とした5回目の国連における政府専門家会合(国連サイバーGGE(Group of Governmental Experts))などの議論も2016年より開始されたが、情報の自由な流通と国家規制との対立の中で、現存の法をどのようにサイバー空間に適応させていくのか、または新しいルールをどう構築するのか、議論の具体化を期待するのは難しい状況である。
ガバナンス面での象徴的な出来事としては2016年10月に、米商務省とICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)の契約が終了したことによって、ICANNが形式的に米国政府の監督から離れ、独立したグローバルな組織になったことになるが、世界の評価は分かれており、この出来事で再び本来のインターネットガバナンスの議論が喚起されたわけでもない。
むしろ、国家対立によるセキュリティー面での断層や障壁がインターネット空間に構築されるだけでなく、インターネットを活用した重要施設や経済への攻撃は増えており、自由なプラットフォームの実現という観点からのインターネットの魅力ははるかに後退している。
その中で、2016年の米大統領選では、民主主義を運営する選挙への攻撃やフェイクニュースの氾濫など新しい攻撃があり、インターネットメディアへの信頼も大きく崩れ始め、状況をポストトゥルース時代の情報セキュリティーの問題へその範囲を拡大させている。
2016年のサイバーガバナンスでは、インターネットに期待された理念が崩れるなか、ガバナンス上の規範やルール作りへの合意も進まず、インターネット上の情報の信頼性が失われ、混迷を深めている現状がある。
(貿易障壁の排除と規制の収斂の促進、貿易円滑化と貿易金融、開発経済の国際貿易への統合、国際貿易に関する交渉フォーラムへのサポート)
2016年における評価
ドーハ・ラウンドは2016年も進展はなく、今後の展開を見通せない状況になっている。2015年のナイロビ会議でも、今後のドーハ・ラウンドのあり方について加盟国・地域で一致できず、採択された閣僚宣言は対立する先進国と新興国の意見の併記にとどまり閉幕した。その後、ドーハ・ラウンドに先行する形で、分野ごとに自由化を促す新サービス貿易協定(TiSA)の合意が試みられたが、16年内の合意を断念するなど、WTO内での有志国間交渉も難航している。
ドーハラウンドの停滞にともない、21世紀の新しい経済貿易に見合った新しいルールを目指したメガFTAの動きは軒並み不調となった。メガFTAの合意により、質の高い自由化の目指す新しい国際貿易の展開が始まり、TPP等の動きがドーハラウンドの再稼働を促す、最も有効な改革になると期待されたが、新しく就任したアメリカのトランプ大統領はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)からの離脱、既存のNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを表明し、多国間交渉は機能不全陥っている。これまで交渉してきたTTIP(大西洋横断貿易投資パートナーシップ協定)も、早期の締結は困難だろう。
一方で、日本は、TPPと同時に日欧EPAやRCEP(東アジア地域包括的経済連携)なども2016年の合意を目指した。日欧EPAについては16年年末までの合意を目指したが、合意を見送った。17年には欧州各国で選挙が予定されているが、非自由を掲げる右派ポピュリストが支持を伸ばしており、17年の合意も現時点では難しいと判断せざるを得ない。RCEPについても、本来、目標に掲げていた15年中の合意を16年中の合意に延期したが、それもできず、更に17年に合意を再延期した。日本はTPP並みの高い自由化での合意を主張しているが、新興国との隔たりは大きく、現段階では、来年の合意に至るか見通せない。
ドーハ・ラウンドの再活性化に向けて、TPP、日欧EPA、RCEPなどのメガFTAの2016年合意を目指したものの、いずれも発効には至っておらず、しかも米新大統領の行動に見られるように保護貿易的な傾向も見られる。2016年は、多角的貿易体制なり自由貿易に対しては大きな危険な転機となる可能性が高い。