総論
2016年の国際協力全体に関する5段階評価
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗
2016年の国際協力全般に対する評価は1点となり、不十分(poor)ということである。
ここでは適切に動いているとして、気候変動や国際テロ、グローバルヘルス、国際経済システムを3点以上と評価したが、これらは課題の解決に向けて動いていることが確認されただけであり、成果を期待できるほどのパフォーマンスではない。こうした評価がアウトカムや新しいシステム形成に向けたインパクトを期待するものだとしたら、これらに3、4点をつけることも難しかっただろう。その方向を目指している、ということ自体を評価しなければ、こうしたグローバルガバナンスの点数は加点ができないほど、今の国際秩序は不安定化しているのである。
この2016年は、間違いなく、戦後目指していた、リベラルな秩序やグローバル課題を多国間で解決する、という多国間のガバナンスが大きく揺れ始めた年である。とりわけ、英国のEU離脱の国民投票に続き、この評価期間のギリギリの段階で、米国のトランプ大統領の誕生が明らかになり、私たちはグローバルイシューの評価を一気に引き下げなくてはならなくなった。それが、大部分の項目が1点、2点という点数に落ち着いた最大の理由である。
昨年の評価で、私たちは2016年は国際貿易の新しい展開を期待し、それを最優先順位に置いたが、日本などが国内の議会で承認したにもかかわらず、トランプ氏の反対で、21世紀型の新しい質の高い自由貿易のルールへの取り組みが一転してしまった。
ただこれは、急ブレーキがかかったという局面ではなく、今後の状況如何によっては自由な経済秩序が壊れかねない、大きなチャレンジに直面している。しかし、こうした不安定化は、ただ単にトランプ氏が大統領に選任されたことが全ての原因ではなく、すでに戦後実現した国際秩序や自由と民主主義という規範が、広範な分野でチャレンジを受け続けていたのである。しかもその出口はまだ見えていない。
国際貿易だけではなく、サイバーガバナンスや、国際、国内の暴力や核拡散の動きが、低評価となったのは、その世界の中で、大国間の譲れない意見の相違が明らかになり、新しい方向が描けない現状を示している。しかも、その混乱を目に見える形で示したのが、これまで、戦後の規範を作り上げた米英だということに事態の深刻さがある。
2017年の課題の重要性に関して(10の課題における2017年の優先順位)
- 国際貿易の拡大
(貿易障壁の排除と規制の収斂の促進、貿易円滑化と貿易金融、開発経済の国際貿易への統合、国際貿易に関する交渉フォーラムへのサポート) - 国際テロ対策
(活発なテロリストグループの抑止、テロリスト財源への対策、テロ防止・過激派抑制に関するサポート、人権に配慮したテロ対策) - サイバーガバナンスの管理
(インターネットガバナンス基準の交渉、サイバースペースでの国の行動に関するルール策定、サイバースペースにおけるセキュリティーと自由のバランス、サイバー犯罪の抑止と対応) - 国内暴力紛争の防止と対応
(大規模内戦や大量虐殺の予防、紛争仲介、平和維持活動の効果的実施、戦争直後の安定化) - 国際的暴力紛争の防止と対応
(武力による領土拡大の防止、国境概念の尊重・保護、武力使用に関する集団的承認の必要性の尊重、領土紛争の平和的解決) - 国際経済システムの管理
(マクロ経済政策と為替レートの調整、経済機関・銀行・流動性の管理、国際経済機関のガバナンス適応) - 核拡散防止
(新たに(イランなどの)国が核兵器を保有するようになることを阻止すること、法的・基準枠的組みの強化、核兵器廃絶への進歩) - グローバルヘルスの促進
(急速な病気流行の管理、感染症への対応、生活習慣病への対応、国際医療機関へのサポート) - 気候変動抑止及び気候変動による変化への適応
(温室効果ガス排出削減、二酸化炭素吸収源(森林など)保護、代替エネルギーの保護、変化適応の促進) - 国際開発の促進
(持続性のある開発手法へのサポート、貧困と脆弱性の削減、グッドガバナンスの促進、性差による不平等の削減)
2017年のグローバル課題で最も強い関心を持つのは、「国際貿易の拡大」である。
これはトランプ米大統領が今後、どのような通商戦略をとるのかにもよるが、仮に選挙戦で繰り返し発言したように、自国の雇用を守るために中国などに対抗的な関税の引き上げなど保護主義的な行動を取り、それが報復や提訴といった展開になるのであれば、戦後、米国などが主導したリベラルな国際経済体制を壊しかねない状況となる。
「国際テロ対策」を2つめの重要な課題に位置づけたのもこれと同じ理由からである。
イスラム圏7カ国からの米国入国などを制限する米国の大統領令は、ワシントン州が「憲法違反」として提訴する騒ぎとなり、世界的な混乱を招いている。こうした人種差別的な排外主義の動きは、国際テロの拡大に新しい口実を与えかねず、国際社会がテロに対するレジテマシーを高めている中で、イスラム諸国との対立や国際的な協力関係の制約を作り出しかねない。
戦後、国際社会はグローバルな課題に関しては多国間の協力や対話を通じて解決の努力を行ってきたが、トランプ大統領からはそうした国際社会の協力に向けた理念が提起されず、世界的に強いチャレンジを受けている自由と民主主義という規範に逆行する言動が垣間見られる。
米国が仮にこうした姿勢を取り続けるとしたら、グローバルな多くの課題での協力はうまく進まず、またこれまで米国の力の後退や新興国の台頭の中で見え隠れしていた、国際秩序の断層がより鮮明に見える年に2017年はなりかねない。
「サイバーガバナンスの管理」や「国内暴力」や「国際暴力」への対応、「国際経済システムの管理」を、2017年の重要な課題の上位に選んだのも、そうした懸念が高まっているためである。
こうした局面では、米国が世界的な課題にこれからもリーダーシップを発揮するのか、中国やロシアという大国が米国の新大統領が提起する、交渉にどのように臨むのかで、事態の進展は大きくことなる。これは状況を厳しく見ていくしかない。
「気候変動への対応」や、「国際開発」はこうした不安定な局面でも決められたことを進める年であり、それが重要ではないという、ということを意味しない。むしろ、国際社会を代表するシンクタンクが力を合わせて取り組む局面だと、いう期待を込めて、困難が予想される課題を上位に選び、序列化した。
10の課題における2017年に解決に向かう機会が大きい順序
2017年において、解決に向かう機会が大きい順に、順番をつけてください。
(2017年において施政者が実質的な進歩を実現できる機会が最も大きいものを1、機会が最も小さいものを10としてお答えください)
この項目で、実質的な進展が期待できるものは、すでに国際社会で合意し、その実現に向かって進んでいる「気候変動」や「国際開発」程度しかない。トランプ大統領は気候変動には熱心ではなく、それ自体にも影響はあるだろうが、それ以外の項目の実現性のチャンスは米国の新政権の行動に依存しており、この時点での予測は実質的に難しい。便宜的に今回は序列化したが、それぞれの項目の実現性ではなく、相対化された序列のため、希望を込めること以外、適切な判断基準は見当たらない。
- 国際開発の促進
(持続性のある開発手法へのサポート、貧困と脆弱性の削減、グッドガバナンスの促進、性差による不平等の削減) - 気候変動抑止及び気候変動による変化への適応
(温室効果ガス排出削減、二酸化炭素吸収源(森林など)保護、代替エネルギーの保護、変化適応の促進) - グローバルヘルスの促進
(急速な病気流行の管理、感染症への対応、生活習慣病への対応、国際医療機関へのサポート) - 国際テロ対策
(活発なテロリストグループの抑止、テロリスト財源への対策、テロ防止・過激派抑制に関するサポート、人権に配慮したテロ対策) - 国際経済システムの管理
(マクロ経済政策と為替レートの調整、経済機関・銀行・流動性の管理、国際経済機関のガバナンス適応) - 国際的暴力紛争の防止と対応
(武力による領土拡大の防止、国境概念の尊重・保護、武力使用に関する集団的承認の必要性の尊重、領土紛争の平和的解決) - 国内暴力紛争の防止と対応
(大規模内戦や大量虐殺の予防、紛争仲介、平和維持活動の効果的実施、戦争直後の安定化) - 核拡散防止
(新たに(イランなどの)国が核兵器を保有するようになることを阻止すること、法的・基準枠的組みの強化、核兵器廃絶への進歩) - サイバーガバナンスの管理
(インターネットガバナンス基準の交渉、サイバースペースでの国の行動に関するルール策定、サイバースペースにおけるセキュリティーと自由のバランス、サイバー犯罪の抑止と対応) - 国際貿易の拡大
(貿易障壁の排除と規制の収斂の促進、貿易円滑化と貿易金融、開発経済の国際貿易への統合、国際貿易に関する交渉フォーラムへのサポート)