G7首脳会議(タオルミーナサミット)を直前に控えた5月9日(米国東部時間)、アメリカ・外交問題評議会(CFR)が主催し、世界25ヵ国の主要なシンクタンクが参加する国際シンクタンクネットワーク「カウンシル・オブ・カウンシルズ(CoC)」の第6回年次総会がワシントンで開催され、日本を代表して言論NPO代表の工藤泰志が参加しました。今回の総会では、昨年に引き続き、2017年版のレポートカード(国際協調進展の通信簿)が発表されました。
CoCは、米国外交問題評議会が各国の有力シンクタンクに呼びかけて設立したネットワークで、各国の外交政策や世論形成に影響力を持つ世界25カ国のシンクタンクが横断的につながり、課題解決に挑む取り組みとして注目されています。レポートカードは、世界が直面する10の課題について、加盟各シンクタンクのトップが今年1月に個別に行った評価結果を集計したもので、昨年に続き3回目の発表となります。現在の世界は英国のEU離脱、米国第1主義を掲げるトランプ政権の誕生、依然として解決のめどが立たないシリア内戦、北朝鮮の核開発問題の深刻化など、不確実性が極度に高まっており、レポートカードの公表が待たれていました。
国際協調の総合評価は大きくダウン
今回のレポートカードの特徴は「2016年、世界は、多国間協調主義に対する過去25年間において、最もショックな事象を目撃した。そして世界秩序に基づいた未来のルールは疑問視されるようになった」として、国際協調の「総合評価」を去年のBから、かろうじてDを上回るC-へと評価を大きく下げたことです。
同レポートカードでは「2016年度における国際協力の取り組みへの評価」(個別課題)10分野のうち「進展がみられた」とするA評価は一つもなく、「やや進展がみられた」というB評価が4つだけにとどまり、A、B合計で7つあった昨年とは様変わりの、厳しい評価となりました。とくに「国際貿易の拡大」および「国際的暴力紛争の防止と対策」についてはD+という低い評価となりました。「気候変動抑止及び気候変動による変化への適応」にB(昨年はA)と引き続き高い評価を与えていますが、その理由として「気候変動に関するパリ協定は、多国間合意であるにもかかわらず記録的な短い期間となる、採用から1年足らずで批准された」ことを挙げています。
さらに、CoCは今後3年間に最優先に取り組むべき課題として、次の三つを挙げています。そのうちの一つ目が「国際テロ対策」です。「2016年のテロ事件の増加を受けて、多国籍テロとの戦いへの協調の強化の必要性に世界は合意している」と、サウジアラビアのガルフ・リサーチセンターのチェアマン、アブドラジズ・サガー氏はコメントする一方、「テロの根本原因に取り組むことへのさらなるコミットメントが未だに欠けている」と指摘しています。今回のシンクタンクのトップリーダーへの調査では、「国家間の武力衝突の防止と取組みが、2017年、世界のリーダーにとってトッププライオリティであるべきだ」とされました。「多国間貿易を先導していたアメリカの撤退で手痛い一撃」を受けたグローバル貿易の拡大については、政策策定者にとっての優先課題だと指摘しています。
これらは2016年度の低い評価の裏返しともいえ、シンクタンクのトップリーダーたちの危機感の表れといえるでしょう。
CoCに日本から唯一参加している言論NPOの工藤泰志氏は「私たちが危険だと思っているのは、これまで進めてきたグローバリゼーションや自由貿易と国内の調整がうまく進まず、各国でポピュリズムを利用する政治指導者が現れていることだ。その中で民主主義の脆弱性も見えてきている。
さらに、トランプ米大統領はそうした国際的な規範そのものを懐疑的に見ており、戦後作ってきた平和的で多国間協議に基づく国際秩序が、今後さらに不安定化しかねない局面になっている。これはかなり危険な状況であり、このレポートカードにもその傾向が反映されている。こうした局面では、多国間協議に基づく国際協調や、自由、法の支配といった規範の意味を問い直し、様々な課題で協力することがこれまで以上に大切になっており、日本がそうした役割を果たすことを期待している」と、述べています。