2017年の国際協力は不十分(Poor)~「核不拡散」、「サイバーガバナンス」分野では事実上失敗
2017年の国際協力全般に対する評価は、昨年同様に不十分(poor)となった。適切(Decent)と判断されたのは、「気候変動」と「国際開発」の二つの項目だが、これは多国間協力で方向が示され、その努力が続けられていることへの評価であり、成果の実現が見えているわけではない。ただ、この二つの分野に適切と評価したのは、この他の分野で解決に向けて動きが具体的に進展している国際的課題がないからである。それほど現在の国際秩序は不安定化しており、多国間協力に対する努力は多くの分野で模索が続いている。
さらに、本年の評価では、実質的には失敗している分野、亀裂が広がっている中でどう国際協力の枠組みを作り出すべきか、現時点では判断が難しい分野もある。それは、「核拡散」や「サイバーセキュリィティ」などである。努力が続けられている分野には、期待を込めて加点しているため、「失敗」という評価は存在していないが、それは解決に向けた展望を持っているわけではなく、場合によっては戦争の可能性が共存する危機的な状況にあることは覚悟している。
北朝鮮の核開発、有効な対策やルール作りが暗礁に乗り上げているサイバーセキュリティ分野は、解決の展望が見えないという点で失敗といっていい。しかし、そのための国際的努力までなくなったわけではない。大国間の意見の相違や対立で混乱は続いているが、危機を回避するための国際協力そのものが否定されているわけではなく、北朝鮮の核開発では国連決議が過去一年間で4回も採択され、解決を模索する動きは続いている。
一国主義を強める米国、国際課題の解決に積極姿勢を示す中国
2017年一年間は、トランプ米大統領の一国主義的な思考で大きく揺れ、その言動に世界が振り回された年であった。それが大きな破局を招く事態にまでは至っていないが、多国間主義に基づいて様々な努力を続けてきた国際社会にとってはチャレンジとなった。
G7やG20などは意見の違いを抑え込むためにその団結を誇示することだけに終始した。国際課題の解決に意欲を失った米国に対して、中国の習近平国家主席は、「人類運命共同体」理念を掲げ、グローバルガバナンスへの関与を示し始めたのも2017年の動きである。しかし、中国の取り組みが、新しい世界秩序や現在の地球規模課題の解決にどう寄与するのか不透明であり、むしろ対立を浮き彫りにする懸念もある。
ただ、少し楽観的に言えば、この2017年はグローバリゼーションで進む格差の拡大、自由や多国間主義という戦後の世界秩序を支えた規範に対するチャレンジを克服しようとする動きが、様々な分野で始まった年でもある。国連では、新事務総長の下、組織改革が動き、発展途上国の貧困や医療サービスを底上げする開発と、国内紛争などを地域ごとに進める体制が組まれ、SDGSの目標達成に向けた取り組みが進み、WHOを中心とする感染症に対する緊急医療に体制もつくられた。国際貿易でも米国が抜けたTPPはTPP11として復活し、それに英国が関心を表明している。さらに「日本-EU FTA」も調印に向け動いた。グローバリゼーションは格差を拡大させ、多くの人たちの意識を内向きにさせ、それがポピュリストを政治の舞台に押し上げる力となったが、こうした課題に多国間で協力する動きまで途切れたわけではない。私たちが、厳しい環境下でも「国際貿易」や「国際経済システム」、「グローバルヘルス」、「国際テロ対策」などに今回の評価で2点(可もなく不可でもない)を付けたのは、そのためである。
2017年の国際協力全体に関する5段階評価
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗
核拡散防止 |
1 不十分 (Poor ) |
国際テロ対策 |
2 可もなく不可もなく (Mediocre) |
気候変動抑止及び気候変動による変化への適応 |
3 適切 (Decent) |
国際的暴力紛争の防止と対応 |
1 不十分 (Poor ) |
国内暴力紛争の防止と対応 |
2 可もなく不可もなく (Mediocre) |
グローバルヘルスの促進 |
2 可もなく不可もなく (Mediocre) |
国際経済システムの管理 |
2 可もなく不可もなく (Mediocre) |
国際開発の促進 |
3 適切 (Decent) |
サイバーガバナンスの管理 |
1 不十分 (Poor ) |
国際貿易の拡大 |
2 可もなく不可もなく (Mediocre) |
2018年において最も優先度が高い課題は「核不拡散問題」
1
|
核拡散防止 | |
2 |
国内暴力紛争の防止と対応 | |
3 |
国際テロ対策 | |
4 |
国際開発の促進 | |
5 |
国際貿易の拡大 | |
6 |
気候変動抑止及び気候変動による変化への適応 | |
7 |
国際的暴力紛争の防止と対応 | |
8 |
サイバーガバナンスの管理 | |
9 |
国際経済システムの管理 | |
10 |
グローバルヘルスの促進 |
言論NPOは、2018年で最も優先度が高い課題は「核不拡散問題」とした。それは、2018年、北朝鮮の核開発問題では、大きな展開を見せる可能性があるからだ。この問題の平和解決は、意味ある経済制裁を強化し、その圧力の中で外交プロセスに持っていくしかない。国連決議は石油精製品の輸出制限を含むものとなっており、制裁の効果は出ているが、それが交渉への局面に至っていない。北朝鮮は米本土に届く核ミサイルの弾道化を進めており、その目途が付く前に米国も判断せざるを得ない。
ここでは米中の行動が決定的で、2018年には中国が制裁強化にさらに本腰を上げて取り組むか、米中が共同で北朝鮮の核管理を検討する局面が出てくる可能性が高い。こうしたプレッシャーを高めるしか対話の可能性が見えないが、それに失敗するとなると軍事行動も現実的な視野に入ってくる。しかし、軍事行動を回避するために北朝鮮の核保有を認め、凍結を図るということにでもなれば、地域の核バランスやNPT体制を壊す結果になりかねない。北朝鮮の核問題については、国際社会に残された時間や選択肢が少なくなってきている。
'ロシアがシリア和平に向けた独自プロセスを2018年に開始する準備を進めおり、一方で国連もトランプ米政権も主導権を取り戻すことは困難であろう。米国のシリア駐留継続の方針は、シリアの平和と復興を目的にしているというより、この地域におけるイランの影響力拡大に対する対抗とも見られている。復興のために資金投入がないことも明言しており、シリア人保護や帰還に寄与するとは思えない。
言論NPOが「核不拡散問題」に続いて、二番目に重要だと評価したのは、「国内暴力紛争の防止と対応」である。この問題については、本評価が開始された2014年から常に上位に位置づけられ、その重要性が認識されながらも解決の糸口が見いだせない課題である。2017年、過激派組織「イスラム国」は、シリアでほぼ一掃されたが、その後も内戦が続くなど和平への道程は依然として遠い。ロシアはアサド政権が統治するシリアに欧米が人道支援を提供することを望んでいるが、欧米からの協力を確保しながら、和平と復興を進めることがロシアに可能かどうかは不透明である。
一方、難民問題についてはUNHCRが中心になって進めている。この問題に関してはILOが9月の国連総会までに新しいグローバル・コンパクト書き上げるための作業が始まっている。これを行き詰った今までの難民保護体制を根底から書き換える再スタートになるものか。まずはこうした国連の論議を期待したい。
2018年解決に向かう可能性が高いのは、「気候変動」
1
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気候変動抑止及び気候変動による変化への適応 | |
2 |
国際貿易の拡大 | |
3 |
国際テロ対策 | |
4 |
国内暴力紛争の防止と対応 | |
5 |
国際開発の促進 | |
6 |
グローバルヘルスの促進 | |
7 |
国際経済システムの管理 | |
8 |
国際的暴力紛争の防止と対応 | |
9 |
核拡散防止 | |
10 |
サイバーガバナンスの管理 |
2017年6月にトランプ大統領がパリ協定離脱を宣言した一方、国際社会はアメリカ抜きでパリ協定実施に向けたルールを決める2018年末に向けて、取り組みを開始している。2017年末のCOP23では、フィジー首相が今後1年間対話を重ねて具体的なルール作りを行うプロセス「タラノア対話」を提唱した。加えて、非国家レベル(カリフォルニア州ブラウン州知事らによるパリ協定推進のイニシャティブ"We are still in"など)や民間企業による気候変動防止に向けた取り組みは続けられており、国際社会の協力は続いている。これらの点から、「気候変動」分野は一番解決に向かう可能性が高いと評価した。