言論NPOは11月20日、国際問題の解決策を日本から国際社会に発信するための有識者会議「ワールド・アジェンダ・カウンシル(WAC)」の第4回会議を開催しました。
今回は、ゲストスピーカーとして欧州からデニス・マクシェーン氏(元イギリス欧州担当相)とサンドロ・ゴジ氏(元イタリア欧州担当相)をお招きし、「EUの未来と国際秩序」と題して講演していただきました。
両氏は講演で、EU各国内では移民や安全保障の問題などが、ネオナショナリズムやポピュリズム、それに自国第一主義を招き、社会に亀裂が走っている、と現状を説明しました。また、気候変動など世界的課題にも積極的に取り組んでいかなければならないEUが、こうした域内のディスオーダー(無秩序)がEUにとって新たなチャレンジとなっている、との指摘もなされました。
さらに、EUは、イギリスのBREXIT(脱退)の問題を抱え、大きなチャレンジを受けているが、これまで域内のキープレイヤーの一つであったイギリスの脱退によって、EUは弱体化するのか、逆に結束が強くなるのか、両方の見方がある、との解説がなされました。加えて、地方選で連敗したメルケル首相が2021年に首相を退任する、と表明したドイツは、今後の不確実性が予測され、これにイタリア、スペインとポーランド、ハンガリーのマイノリティ政府も不安定な状況に陥っており、域内で法の統治など基本的な秩序の乱れが懸念されている、などの見方が示されました。
こうした見方に工藤は、「無秩序というのは、主導する人がいない、ということ。自由秩序や多国間主義のルールを守るためには、どんなメカニズムが必要なのか」と問いました。これに対して、「確かにリーダーシップは不足している。フランスが一番、コミットしているが、集合的なリーダーシップはない」、「BBCはBREXITで信用を失い、ジャーナリズムへの信頼も落ちている」と話す両氏でした。
一方、今後の国際秩序ではやはり中国の存在が焦点になりました。中国の国際的経済政策"一帯一路"がEUで評判が悪いだけに、「年金や健康保険の手当てが少ないので中国国民は怒り、リッチになる前に廃れていくだろう」、「民主主義なし、自由なしで、成長戦略が描けるのか。国内での緊張関係がより露呈し、不平等が広がっていくのではないか。国民が洗脳されているのか、非難の声も大きくなく、この矛盾は持続可能なのか」と、手厳しい発言が続きました。
講演後は、WAC委員との質疑応答が行われ、民主主義と国際主義の対立、非リベラルと民主主義の対立、本当のナショナリズムとは、真のネオナショナリズムとは、などの質問が投げ掛けられました。
「第3回東京会議」の準備状況につきましては、言論NPOのウェブサイトで随時お知らせしていきますので、是非ご覧ください。
第4回WAC会議 出席者一覧
【ゲストスピーカー】
デニス・マクシェーン元イギリス欧州担当相
サンドロ・ゴジ元イタリア欧州担当相
【委員・オブザーバー参加者】
赤坂清隆 フォーリン・プレスセンター理事長
内山 融 東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻教授
及川正也 毎日新聞論説委員
大野博人 朝日新聞編集委員
工藤泰志 言論NPO代表
近藤誠一 元文化庁長官 近藤文化・外交研究所代表
滝澤三郎 国連UNHCR協会理事長
山崎加津子 大和総研経済調査部主席研究員
渡邊啓貴 東京外国語大学教授