我々の価値観は何か、ということを考える時期に来ている~「東京会議2019」公開フォーラム第1セッション報告~

2019年3月03日

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 「米中対立の行方とリベラルな国際秩序の行方」を全体テーマとする言論NPO主催の「東京会議2019」は3月3日、東京・ホテルオークラで公開フォーラムが開催されました。この「東京会議」は2年前に立ち上げられたもので、G7各国にインド、ブラジル、シンガポール(1回目はインドネシア)を加えた民主主義の10カ国の有力シンクタンクが参加し、自由や民主主義、世界が直面する課題を議論する場です。そして、議論の結果をG7議長国と日本政府などに提案することを目的にしています。

 今回は、世界が大きく変容する中、リベラルな秩序やマルチラテラリズムの将来、様々なグローバルの問題について同じ規範や価値を共有する10カ国で議論しました。

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戦後秩序が揺らぎ、民主主義が危機に直面する中、
「東京会議」が世界10カ国のシンクタンと協力して取り組むための場に

kudo.jpg 開会の挨拶に立った言論NPO代表の工藤泰志はまず、現在、深刻化している米中対立と自由な秩序の問題について、「単なる貿易の問題ではなく、ルールに基づく国際秩序の問題であり、中国がこのシステムの参加者でいられるのか。中国を国際システムから排除するのは賢明ではないが、その可能性は少なからずある。ルールベースの世界秩序を守り発展させるためには、中国経済の構造改革の努力が必要で、それがなければ分断の危険性がある。それともシステムが分断するのか、今、世界は岐路に立たされている」との認識を示しました。

 さらに工藤は、「日本は米国と同盟関係にあり、多くの利害を共有している一方、中国は隣国で、日本は中国の改革開放に尽力してきた。自由で開放的な国際関係を守り、さらに発展させることが日本のゴールだ。対立のゴールは分裂でなく、さらに高いレベルの秩序を目指すべきだ」と説明。そのために、日本は、二つの大国のバランサーとして秩序を_DZB1218.jpg守るための努力をする必要があるが、民間側である言論NPOもそうした役割を果たしていきたい、と語りました。

最後に工藤は、「戦後の秩序を支えた規範が揺らぎ、多くの国際協力が暗礁に乗り上げ、民主主義そのものも危機に直面している。こうした危機に対して、価値観を共有する10のシンクタンクが力を合わせて取り組みたい」と、今年の「東京会議」にかける意気込みを語り、挨拶を締めくくりました。


アンケートから、米中対立の解決に揺れている有識者の見解が明らかに

 続いて工藤は、言論NPOが行った有識者アンケートを紹介しました。その中で、米中対立の現状について、5割近くの人が「新冷戦」と認識しており、米国の対中強硬姿勢については、6割以上が党派を超えた米国のコンセンサスだとみている結果となったことを説明。また、8割近くが、米国は中国を「戦略的競争国」として認め、中国の覇権的な行動を抑え込もうとしていると考え、米中対立の行方は、「安保なども含めた長期的な対立」、「国際システムの分断」と考える人も3割を超えている、と語りました。こうした米中対立の解決の手がかりを見いだす人はほとんどおらず、中国のルール順守に期待する人は2割にも達していません。さらに、WTO改革も7割以上が「実現しない」いと考え、中国がルールベースの経済をこれまでも目指していなかった、との声が7割を超えました。

 では、中国とリベラル秩序は共存できるのか、との問いに対しては意見が完全に分かれ、日本の有識者も揺れていることが明らかになりました。こうした結果を踏まえて工藤は、世論が過激になる前に、「冷静に、多角的にこの問題を考える必要がある」と語り、議論が始まりました。


米中摩擦は中国が輸入拡大すればよい、というものではなく
自由で開放された市場か、管理された市場か、という問題

_DZB1273.jpg まず、元米商務省審議官で米経済戦略研究所所長のクライド・プレストウィッツ氏が問題提起者として登壇しました。プレストウィッツ氏は、1980年代にレーガン政権下で日米貿易交渉の米側実務責任者として活躍し、日本の新聞には、日本をいじめた張本人として、「日本にとって、一番危険な人物」と自身が日本語で自己紹介、会場の笑いを誘いました。米議会で、米中問題に一番詳しいと言われる同氏は、「日米の問題は解決し、日本側の担当者とは良い友人になった。同じような経験を米中で、これから実現できることを願っている」と挨拶し、米中対立について説明し始めました。

 まず、プレストウィッツ氏は、冷戦後、米国が勝者として浮上し、民主主義とグローバルな自由貿易への経済システムへの期待があったこと。1978年、鄧小平の改革解放で、米日欧の企業が進出し、当面は非市場経済国だが、市場経済になるという期待が広く共有され、中国政治も完全な民主国とはいかないまでも、共産党の役割の縮小を期待して、同氏は中国のWTO加盟に同意したことなど、これまでの歴史を振り返りながら、「現在の米中摩擦は偶然、起きたわけではない」と指摘しました。

_DZB1242.jpg これまで、自由市場の方向に進めようと米中間では、2006年に始まり、18年まで半年ごとに自由なルールや技術移転、知財の保護を議論してきたものの、期待されたような中国の変化には至らず、逆に2012年以降、国営企業は強化され、2015年に中国は『中国製造2025』を発表して、ロボット、AIに関して自立、最先端技術でリーダー的存在になると宣言。これは、中国が自由秩序の代替モデルを持っているのだという宣言でもあった、とプレストウィッツ氏は語ります。同時に中国の軍備が拡大され、南シナ海で占領される島も増えるなど、「これらは今の摩擦に入る前に起きたことだ」と指摘。さらに同氏は、「米中摩擦は貿易の紛争なのか、とよく聞かれるが、『ノー』であり、中国が米国からの大豆、天然ガスの輸入を増やせば解決する話ではない。基本的に、管理された市場か、自由で開放された市場か、という問題だ」と説明しました。また、米国の有識者には、デカップリングは受け入れられない、中国は大きすぎ、投資しすぎているのでデカップリングはできないという議論はあるが、インターネットではデカップリングは既に起きている。それは中国自身が宣言した」とも話しました。

 こうした背景が示唆するところとしてプレストウィッツ氏は、「米中のみならず日本、EUとの間で何らかの解決策が確立することを願っているが、システムの崩壊を、より生産的な形で解決できるのか」と疑問を投げかました。さらに同氏は、サイバー窃盗やターゲティング技術に対応できておらず、WTOの役割は不十分であり、為替介入は多くの国がやっているわけで、IMF制度も不十分だとするなど、「ルールベースの秩序の再構築、という視点で米中の対立を考えなければいけない」と問題を提起しました。


米中対立は二国間交渉にゆだねることなく、グローバルな解決が必要になる

asakawa.jpg 続いて日本側から登壇した財務官の浅川雅嗣氏は「戦後、20世紀末くらいまでは、貿易はGATT・WTO、通貨はIMF、税の世界ではOECDと、マルチの政策協調によって世界経済の安定性を確保していこうという流れだった。その多国間主義に揺らぎが見えたのは90年代後半だ」と説明。そのきっかけの一つとして、1997年のアジア通貨危機において、IMFの処方箋がアジアの経済実態に合っていなかったこと、そして、ユーロの誕生を指摘し、それまでのマルチ体制から、二国間あるいは地域主義の動きが出てきたことを紹介。そうした流れを継いで、2000年代は、日本も含めてWTOからFTAに、金融面でもASEAN+3を中心に地域独自の協力が芽生えるなど、多国間一辺倒から舵を切った、と経済界の流れを回顧しました。

 その後、2008年のリーマンショックを経て、グローバル化と経済のIT化によって経済全体のパイは増えたが、富の分配が不十分で格差が顕著になってきたことから、フランスがG7議長国として最も力を入れたいテーマの一つが不平等であることを指摘し、そうした背景にポピュリズムが台頭し、再び、グローバリズムから、ポピュリズムを背景にした二国間主義への帰趨が見られる、と浅川氏は語りました。

_DZB1305.jpg 米中貿易摩擦に日本はどのように対処していこうとしているのか。浅川氏は「貿易が不透明だと、投資が落ち込み、米中対立が続けば貿易量が縮小して、赤字解消にはならない。米中貿易摩擦の解消を二国間交渉だけに委ねることなく、グローバルな解決策が必要だ」と主張。その上で、米国は中国のWTO加盟で裏切られた苛立ちがあるだろうが、中国をエンゲージしていく努力を放棄してはいけないとして、デジタル課税の議論に中国も乗ってきていることから、こうしたマルチのチャネルによって、中国をマルチの経済システムに関与させていく努力を続けていく必要性を訴えました。

 日米二人の問題提起を聞いた工藤は、プレストウィッツ氏が貿易だけでなく、中国そのものの運営の仕方が公平ではないために、このままではやっていけないし、エンゲージは終わったのではないかと指摘する一方、浅川氏は、マルチな仕組みの中で中国をエンゲージする努力は続けていくべき、と指摘している点に触れ、「この議論をもっと深めるために、なぜ米国は中国への対応を根本的に変えたのか、米中対立の出口はどこなのか」、と問いかけました。
 

党派を超えて、中国に強硬な姿勢をとるということがコンセンサスに

_DZB1374.jpg 米国・外交問題評議会(CFR)バイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏は、1990年代に米国は中国を歓迎し、米国民のほとんどが、中国とWin-Winになり、中国はいずれ責任あるステークホルダーになると思っていたが、20年が経ち、「希望的観測だったのかもしれない」と語りました。そして、トランプ大統領の中国へのアプローチには、多くの米国人が懐疑的だが、現在は党派を超えて、ルールを搾取、無視し、リベラルな価値に敵対的な、異なる世界秩序のビジョンを持っている中国に対して強硬な姿勢をとる、とのコンセンサスがあると米国内の現状を説明しました。

 さらにリンゼイ氏は、今の米中対立は米国だけでなく、同盟国も含まれており、トランプは同盟国をなかなか助けないが、同盟国や友好国は中国に圧力をかけ続け、ルールに従うように言ってほしい、と語りました。
 
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唯一の「解」は、米中構造対話で、中国に重層的な強い圧力で関与していく

kawai.jpg 東京大学公共政策大学院特任教授の河合正弘氏は、「米中摩擦は、貿易だけでなく投資、技術、安保に関わる問題だ」と強調します。10年以内に、名目為替レートのGDPで中国が米国を上回ることは確実視され、製造業の付加価値では中国が既にはるかに上を行っていること、さらにはテクノロジーでも中国が急速に伸びている点を指摘し、「そうした状況は一党独裁で進んでいる経済システム、管理された経済システムだからこそであり、米国が指摘している米中対立の根本は、突き詰めればその点にある」と河合氏は語ります。「デカップリングし、中国を切り離していいのか、それとも新たな圧力が必要なのか。問題提起者2人の認識はそれぞれ違うが、今までよりも強い圧力のもとに、中国をエンゲージしていくしか解はないのではないか」と強調しました。

 さらに同氏は、米中間で構造対話の必要性を説くと同時に、二国間とマルチの対話、アジア地域レベルでの対話など、重層的に圧力をかけていくことの必要性を指摘。同時に、「中国国内にもTPP11に関心を持つ中国国内のエコノミストをはじめ、改革派がたくさんいる。彼らと連携して中国の中を変えていく、という多層的改革が必要だ」と前向きで、具体的な提案をする河合氏でした。


米中間の三つの分野の乖離とは

_DZB1412.jpg 中国を専門に分析しているフランス国際関係研究所(IFRI)中国研究担当ディレクターのアリス・イクマン氏は、「米中対立が貿易以上の問題であることには同感で、米中には大きな三つの分野での乖離がある」と指摘します。まず、地政学的な違いで、中台関係についての意見の違い、さらに北朝鮮問題では、中国は全く異なる立場をとっていて、アジア太平洋の安保のガバナンスを変えようとしていること。次に制度上の違いで、中国は明らかにブレトンウッズ体制が中国抜きで作られたと考え不満を持っており、グローバルなガバナンスを変えようとしていること。最後に、イデオロギーの問題で、中国はソリューションを提供できると言って、米国と違うグローバル・モデルをもたらそうとしていること、具体的には中国は習近平の下、同盟の概念を排除し、非同盟方式を導入、新しい安保体制を作ろうとしている、と3つの分野における乖離を主張するエクマン氏でした。

 さらに同氏は、今後の方向性として、全世界が冷戦のようなものではなくても、もう一度二極化が起こる、と予測します。中国は混乱を歓迎していて、誰が誰の友人なのかが非常に複雑になってくる中、中国は独りではなく、ロシアとの関係強化や途上国との連携を強化しており、曖昧な二極化は民主主義にとって良いことではなく、明確化すべきではないか、と語りました。
 

米中のどちらかに付く、という選択は避けなければいけない

 この他、様々な意見が出されました。

_DZB1437.jpg 「米中対立は東南アジアにとって好ましいものではない。東南アジアは地域的に中国に近く、人的交流も盛んであるから、米中対立が正面衝突にならないようにお願いしたい」と語るのはシンガポール・S.ラジャトナム国際研究院(RSIS)副理事長のオン・ケンヨン氏。同氏はさらに、「状況の不安定化の動きにどう対抗していくか。既存の経済秩序があらゆる国に裨益するように、国際社会での合意を果たし、米中、どちらかの側につくかというのは避けていかなければならない。一方で、世界の制度は過去に作られたものであり、変えていく必要はある。そうした再構築をしていく役割を日本のような国が中心になってその方法を探求してほしい」と話すのでした。

_DZB1454.jpg カナダのセンター・フォー・インターナショナル・ガバナンス・イノベーション(CIGI) 総裁のロヒントン・メドーラ氏は、中国をシステムに入れた方がよいのか、それとも孤立させたいのかとの問いに対して、「今は中国を追い出す時期ではない」と主張。一方で、急速に進んだグローバル化により、気候変動やサイバーガバナンスなどの新しい課題について国際社会で摩擦が出てきており、これまでのルールでは対応できていないと指摘し、ゲームのルールを改善する必要性を訴えました。

 「米中対立の本質、出口の考え方が出揃った」とする工藤でしたが、「ホワイトハウスを見ていると政権内で温度差がある。トランプは中国を構造的に変えたいと本気で思っているのか。赤字を減らすだけなのか。より根本的なのは、中国に対するプレッシャーは何を目的にしているのか、構造改革を迫っているのか、あるいは、改革は無理だから孤立させるのか。トランプの言動は、リベラル秩序を考えることを気づかせてくれたことでは意味があるが、中国の孤立を求めているとすれば違うのではないか」と、米国側に迫りました。


株価が上がれば満足するトランプ大統領は、何を考えているか分からない

 プレストウィッツ氏がこれに答えました。米の議会、産業界などには、ルールベースの秩序を目指している人もいれば、中国の交渉に関わってきた人は、もっと中国に迫っていかないと前進できないと考えており、「いろんな要素がアメリカには存在している」と説明。トランプ氏自身については、株式市場を見て、株価が上昇すれば自分の政策はうまくいっていると満足する人間で、「何を考えているか分からない」との認識を示します。一方で、米国通商代表部(USTR)代表のライトハイザー氏については、中国の前向きな対応に期待しているとしつつも、二つのシステムの共存を想定することは困難で、ライトハイザー氏としては、より中国に依存しない方向を目指していると思う」と、冷静な口調で話すプレストウィッツ氏でした。
 

中国は既にブレトンウッズ体制に組み込まれている

 浅川氏は、エクマン氏が、「ブレトンウッズへの中国の反発」と指摘した点について、「中国の通貨体制がブレトンウッズ体制に組み込まれていることは事実」と主張。さらに、中国は3兆ドルの外貨準備を持っており、その多くは米国債で、ドル基軸通貨体制で運命を一にしていること、また、中国がいろんな国に借款を出しており、ベネズエラやパキスタンでは、債権者で最大のシェアだが、そうした国では焦げ付きが起こり、中国も我々と同じ悩みを持っている」と話します。さらに浅川氏は言葉を続けます。「中国の少子高齢化は着実に進み、潜在成長率は落ちていく。その時、中国経済が破綻したら人民元は暴落し、世界経済にショックを与えてしまう。既に中国は、我々の経済システムに組み込まれているので、構造問題をソフトに解決してくれないと、世界経済は大変なことになる」と話し、中国経済と国際経済は切っても切れない状況になっていることを説明する浅川氏でした。

 工藤はさらに「WTO改革には二つの側面があって、デジタル貿易など新しい分野への対応と、紛争解決機能で、WTOを新しい時代へアップデートできるのか。ここまで経済が連携していると、サプライチェーンのデカップリングは本当に起きるのか」と疑問を投げかけます。

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中国は、WTOで経済大国、先進国として振る舞い、支える側になれ

 河合氏は、「ドーハラウンドが全般的にまとまらなかったのは、途上国と先進国の関心事が違ったから」と説明。特に大きな問題として挙げたのは、途上国の定義でした。WTOでは自国は途上国である、と主張すれば途上国の扱いになり、WTOで決められたルールで守らなくていいものが出てくる。中国は1人当たり所得から見れば途上国であるが、WTOが機能していくためには、中国の役割が非常に重要になる、と河合氏。それは中国にとっても、これからの貿易投資を進めていくにはWTOが重要なために、中国が率先して、発展途上国だが経済大国であり、技術大国であり、対外債権大国である、と先進国として振る舞い、WTOを支える側に回っていくように促していくことが重要だと話します。さらに河合氏は、「完全なデカップリングは不可能ではないかもしれないが、膨大なコストがかかり、メリットはない。トランプ氏は株価にこだわっており、トランプ政権でデカップリングはできるはずがない。むしろ、中国が変わる方向に促すことが重要だと」繰り返し語るのでした。

 プレストウィッツ氏は、イギリスのEUからの離脱やトランプの当選は、グローバル化のコストに悩んでいる人がいたからであることに触れ、大学では、自由貿易はWin-Winだと刷り込まれてきたが、明確にできないことがあり、デカップリングのコストは、従来の考え方に縛られてはいけない、との認識を示します。さらに同氏は、グローバリゼーションのコストについては、これまでエコノミストも考えてこなかったが、グローバル化を20年間経験してきた結果ナショナリスティックな政治が台頭してきており、それ自体ハイコストだ」と、今の社会を嘆くようでした。

_DZB1569.jpg これに続けてイタリア・国際問題研究所(IAI)副理事長のエットーレ・グレコ氏は、政治的な対立が進化するとお互いに報復が始まる。その結果、どこかの時点で政治的緊張関係が上回り、経済的関係がダメージを受けること、つまりディカップリングはあり得ないと言い切れない、と主張しました。

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私たちの価値観は何か、それをどう守るか、ということを考える時期に

 最後に、今回の議論の総括を求められた浅川氏は、中国経済の行く末は楽観視はできないが、中国も改革の努力が必要なことは認識してり、それを外から支えていく。グローバリゼーションは今後も止めることができないために、果実の再分配をどうするかを考える必要がある、との認識をを示しました。

 プレストウィッツ氏は「中国との交渉の背後に何があるか、パネリストの間でも分断がある。アジアの国は選択したくない、というコメントが出たのが印象的だった」と今回の議論を振り返りました。さらに同氏は、法の支配、言論の自由を私たちは信じているのか。開放された市場が良いと信じているのか、というように価値観に関する疑問が出たことについて、「究極的には、我々の価値観は何か、どう守るかに行き着くのかを考える時期に来ている」と締めくくり、第一セッションは終わりました。


【シンクタンク参加者】
ジェームス・リンゼイ(米、外交問題評議会シニアバイスプレジデント)
フォルカー・ペルテス(独ドイツ、ドイツ国際政治安全保障研究所会長)
レスリー・ヴィンジャムリ(英、王立国際問題研究所米州プログラム責任者)
エットーレ・グレコ(伊、国際問題研究所副理事長)
アリス・エクマン(仏、フランス国際関係研究所中国研究責任者)
ロヒントン・メドーラ(加、国際ガバナンス・イノベーション総裁)
サンジョイ・ジョッシ(印、オブザーバー研究財団)理事長
オン・ケンヨン(シンガポール、Sラジャラトナム国際研究所所長)
カルロス・イヴァン・シモンセン・レアル(ブラジル、ジェトゥリオ・ヴァルガス財団総裁)
工藤泰志(言論NPO代表)

【ゲストスピーカー】
クライド・プレストウィッツ(米経済戦略研究所所長、元米国商務長官補佐)
浅川雅嗣(財務省財務官)
河合正弘(環日本海経済研究所代表理事、前アジア開発銀行研究所長)


中国の通商政策研究者を交え、
米中対立の本質とルールに基づく秩序の立て直しを議論
   ―3月3日午前非公開セッション報告

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 公開フォーラムに先立つ3月3日午前、「米中対立を解決するために何が必要か」をテーマとした非公開セッションが開催されました。この議論は、10ヵ国のシンクタンクの代表ら民主主義国の有識者に加え、中国でWTO改革や改革開放政策に携わってきた研究者をオブザーバーに迎えて行われました。

 初めに、司会の工藤は、中国の構造改革が2001年のWTO加盟後も進まず、民主主義国と競争条件を異にしながら同じグローバル経済で活動するようになったことで「米国の対中認識が根本的に変わった」という判断を提示。「この対立の本質は何か。ルールに基づく世界の秩序を立て直すために、何が必要か」と問いかけました。

 これに対し、欧米の参加者から米国がこの10年近くにわたり中国に市場経済への移行を働き掛けてきたが、近年はむしろ政府介入が増えていることへの「失望」を述べました。そして、「米中対立は単なる貿易戦争だけでなく、もっと広い視野でとらえるべき」と発言。その意味として、まず、デジタル貿易を巡る対立は安全保障問題でもあり、米国の同盟国にも影響が及ぶことに言及。さらに、ある米国企業の経営者が「外国企業は、中国が技術大国になるための支援をしなければ、中国での事業展開に必要な許認可などが与えられない」と語っていることを紹介。共産党が企業に強い影響力を持つという中国の体質そのものの問題であり、今以上の市場開放は、こうした国家のあり方と衝突することになるため難しいのではないか、との認識を示しました。

 こうした状況下で懸念される、グローバル経済からの中国の切り離しについて、日本から参加した専門家は「西側諸国にとってあまりにコストが大きく、発展する中国から利益を享受するしか道はない」と指摘しました。そして、中国の市場経済化に向けた「より強い関与」が必要だとし、そのためには1980年代の日米構造協議のような、米中相互の構造問題を巡る長期的な対話のメカニズムが必要だと提案。日本としても、米中二国間に任せるのではなく、TPP11など多国間の枠組みをテコに中国の改革を支援していくべきだ、との意見を述べました。

 中国への様々な注文が出されたここまでの議論を受け、マイクを握った中国側参加者は、「中国は未だ、市場経済への移行段階にある」との認識を示しました。まず、多国間主義や貿易障壁の無差別といったWTOの基本原則を、中国は支持しており、それによって利益を享受してきた、と説明。さらに、習近平主席の就任後の中国が競争政策を改める努力を徐々に進めてきた、と述べ、例として、中国の金融機関に対する外国企業の株式取得制限緩和や、反トラストの規制強化を目的として行政組織の再編を挙げました。その上で、「中国は先進国なのか、途上国なのか」と自問し、産業構造の高度化や地方の開発、教育機会の提供など中国が抱える課題を列挙します。中国は国の規模が大きいこともあり、こうした課題の解決にはまだまだ国の関与が必要だ、と理解を求めました。

 その後の議論では、対立の当事者となっている米中双方に対して、非公開会議ならではの本音の指摘が数多く語られ、直後の公開フォーラムにつながる様々な論点が出揃う場となりました。

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