各論
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗
2018年における評価
近年、核不拡散・核軍縮を取り巻く国際環境は悪化しており、2018年もその流れを止めることはできなかった。
米ロ間では、中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年夏にも失効する可能性が高まり、核軍備管理レジームは危機に直面している。また、米国が2018年版「核態勢見直し」において小型核兵器の開発推進や、核兵器使用のハードルを下げたことも懸念材料である。
核兵器禁止条約(TPNW)の批准国が増加していることは前向きな動きと評価できるが、TPNWをめぐってはその推進国と反対国との間の意見の違いは著しく、対話そのものが不可能な状況に陥っている。
北朝鮮をめぐっては、6月の米朝共同声明には「完全な非核化」が盛り込まれ、2回目の首脳会談も開催される見込みである。核開発の脅威は緩和したが、北朝鮮は非核化に向けた工程表をいまだ示しておらず、具体的な進展は現状で期待できない。
イランの核問題については米国が5月、包括的共同行動計画(JCPOA、いわゆるイラン核合意)から一方的に離脱し、合意は崩壊の瀬戸際に立たされている。
上記から考えると、2018年の国際対応は全体的に「不十分」と評価せざるを得ない。
2018年における評価
2018年も国際社会はテロの封じ込めはまだ成功していない。
「イスラム国(IS)」はその支配領域を急速に縮小させているが、シリアの砂漠地帯やイラク北部の山岳地帯などに逃亡した戦闘員は約3,000人程度いるとみられ、断続的なテロ活動を続けている。また、ISの過激思想は既に全世界に拡散し、感化された「一匹狼」や属州を名乗るテロ組織が欧州や東南アジアで多くのテロを敢行しているなど、依然ISの影響力は広範囲で維持されている。さらに、アルカイダも活動を活発化させている。
こうした状況への国際社会の取り組みとしては、FATF(金融活動作業部会)や、フランス主催のテロ資金対策に関する国際会議の閣僚級会合、米国と湾岸協力会議(GCC)が設立した「テロリスト資金摘発センター」などの枠組みを通じ、テロ資金供与への対策が進められている点はプラスの評価要素である。
もっとも、非組織化、日常化したテロに対し、国際社会はいまだ明確な解決手段を持ち得ておらず、依然として課題は山積みであるため、国際的対応の評価も昨年同様「不十分」とせざるを得ない。
気候変動抑止及び気候変動による変化への適応:2 可もなく不可もなく (Mediocre)
2018年における評価
12月のCOP24で、パリ協定の実施指針を採択したことは評価できる。当初、途上国は先進国より緩いルールの適用を求めていたため交渉は難航したが、結局目標設定や取り組みの検証方法について、全ての国に厳しい同一基準が適用されることになり、パリ協定の漂流を回避することができた。
途上国には一定の柔軟性を認めるなど、先進国と途上国の区分が完全になくなったわけではないが、説明責任を義務付けたことは成果といえる。また、資金援助拡大では途上国に一定の譲歩をし、全体としてバランスのとれた合意内容になったと評価できる。
一方、世界全体の二酸化炭素排出量が増加へ転じている中、各国が削減目標を引き上げる機運を高められるかも大きな焦点だったが、合意は得られなかったことはマイナスの評価となる。特に、IPCCが10月に発表した、気温上昇を1.5度以内に抑える必要性を指摘した特別報告書の扱いをめぐり、「歓迎」を主張する島嶼国、EUと、「留意」を主張する米露、産油国の対立が露わとなり、「1.5度未満」実現に向けた流れをつくることができなかった。
そのため、2018年の国際対応は「可もなく不可もなく」という評価とした。
グローバルヘルスの促進 :2 可もなく不可もなく (Mediocre)
2018年における評価
感染症への対応については2018年も課題が多く残された。2017年に選出されたテドロス新事務局長の体制が2018年に本格始動し、OCHAなど他の機関を動員し緊急時のレスポンスの強化を進めたことは評価できるが、キャパシティービルディングや平時体制の拡充など遅れもあり、今後エボラと同程度の緊急事態が起きた場合、適切に機能するかは未知数である。エボラについては、今年コンゴで発生したもののまだ収束しておらず、広がる可能性も残されている。このコンゴのエボラやイエメンでのコレラ発生の例は、紛争地帯のためWHOが現地に入れず、より被害が拡大しており、紛争地域における感染症対応についてまだ答えが見いだせていない。
加えて、感染症以外の分野で、非感染症疾患(NCD)の脅威がより高まっている。特に途上国では元々保健体制がぜい弱なところに、収入や地域による医療の格差が拡大、これに高齢化が進展が重なり、基礎的な医療を受けられない層が大幅に増加している。NCDの対応の不備によって引き起こされる社会的、経済的なダメージがどの程度深刻なのか、まだ国際的に認識が十分に共有されていない。
国際経済システムの管理 :2 可もなく不可もなく (Mediocre)
2018年における評価
2018年は米国経済が世界の経済成長の鈍化を支えた年である。しかし、世界経済に下方リスクが認識され、懸念が広がっていながら有効な対策が具体化しておらず、この点で世界経済のシステム管理が十分に機能したとは言い難い。各機関が2018年、19年の成長見通しを下方修正させ始めているのはこのためである。特に米国の自国第一主義に伴う高圧的な二国間交渉や二国間対立は自由貿易や多国間主義を脅かしており世界経済の下方リスクを高めている。追加関税の展開や米中対立の長期化によって国際経済システムが重大な影響を受ける可能性も高まっている。また米国の利上げに伴う国際的な資金フォローに対する新興国の脆弱性や中国の公的や民間の債務膨張に伴うリスクも顕在化しており、こうした動向に関する監視やIMF等による事前の対応も必要になっている。
国際開発の促進 :2 可もなく不可もなく (Mediocre)
2018年における評価
UNCTADの推計では、SDGs関連で開発途上国が2030年までに必要とする投資額は年間3.3兆~4.5兆ドルと巨額だが、実際の投資額は年間1.4兆ドル/年にとどまる。各国の財政資金、既存の国際金融機関の投融資で賄うのは困難で民間部門からの投資は不可欠だが、その予測を見込んでも年1.0兆~2.2兆ドル/年は不足のままである。
アジア45か国・地域のインフラ整備必要額でも2030年までで26.2兆ドルと巨額で年平均は1.7兆円ドルと推計されるが、これもまだ目途は見えず、PPP、PFI等の制度は整備されても大幅な進展がないのは、昨年と同様である。
こうした巨大なインフラ需要に対して中国のAIIBへの加盟国・地域は87国と大幅に拡大し、融資残高は54億ドルになったが、既存の国際金融機関との共同案件が60%以上を占め、案件の組成が順調に進んでいるわけではない。中国の一帯一路もインフラ整備を強調するが、中国の援助を受けた国の間で債務返済に伴う警戒感やプロジョクト自体の中国側の意図や透明性で疑念が高まっており、計画の見直しが相次ぐなどの揺り戻しが起こっている。
中国が進める一帯一路は中国の勢力圏拡大につながっているのは事実で、中国基準のデジタルインフラの確立も同時に進めている、こうした中国の対応には世界的に警戒心が高まっており、計画の見直しが行われているが、ただし、インフラ需要に対応しているのは事実であり、中国の行動を現状のルール基準や原則に即した仕組みに変更を求める努力が必要である。
2010年10月にアジアやアフリカなどでのインフラ整備に官民の日中協力を図る「日中第三国市場協力フォーラム」が開催されたが、日中の政府機関や民間企業が50件超の協力文書に調印。第三国でのインフラ整備を新たな経済協力の柱と位置付けた。今後は、さらに中国に債権国会合(パリクラブ)への加入を求め、インフラ援助への原則やルールを共有し、多くの国や機関が協力してインフラに取り組む枠組みを実現できるかがカギとなる。
2018年11月にはAPECでインフラ整備に関する指針を合意したが、こうした取り組みがさらに加速するかが2019年の期待である。それができなければ、この国際開発の分野も、中国との間で亀裂や断層を招くことになるだろう。
国際貿易の拡大 :1 不十分 (Poor )
2018年における評価
2018年は米国の追加関税賦課の発動や対中制裁、それに対する対抗措置や報復が相次ぎ、貿易紛争に明け暮れ、国際貿易は拡大というよりも、対立が深刻化した1年である。特に米中対立は2019年も拡大する可能性が大きく、全面対立ともなれば、米中を始めとする国際経済に深刻な影響が表面化する可能性がある。ルールを軸とした多国間の国際通商の仕組みが壊れる中で、G20がWTO改革を位置づけ、日米EUの三極貿易大臣がWTO改革に向けて動き出したことは一定程度評価できるが、それが実現するかは現時点で判断できない。またTPP11は2018年12月30日に発効され、さらに日本とEUのFTAも合意に至り、2019年の2月1日の発効を予定するなど、メガFTAが実現したことは前進と言えるが、現状の大混乱を下支えする力はまだない。