米中貿易対立激化と多国間主義の衰退-評価は「不十分」に
2018年の国際協力の現状に対する私たちの全体の評価が「不十分」の1点と、昨年に引き続き低い結果となった。多国間主義に伴う国際協力がほとんどの項目で後退し、むしろ悪化し、その解決の展望が見えないからである。
多国間主義に伴う国際協力の後退は、自国第一主義を高める米国の離反を埋めるリーダー不在がその背景にある。日本や欧州でルールに基づく自由秩序への努力は始まっているし、その動きを否定するのは適切ではないが、それが世界の国際協力をけん引できる力にはなっていない。2018年の世界はむしろ、国際協力というよりも、米国と中国の対立を軸に動き出し始めている。その行方次第にもよるが、世界は分断の危険性すら高め始めている。
ただ、その悪化を食い止めるための努力がさまざまな形で存在しており、現状ではまだこれを「失敗」と見るわけにはいかない。
ただ、この「不十分」という評価は今後の展開次第では、「失敗」にさらに後退する危険性があることは注意が必要である。国際貿易の現状はルールよりも力による対立の色彩を強め、WTO発足前の情況に戻り始めている。日米欧の三極でWTO改革への作業も始まっているが、中国が国家主導型の産業政策を進め、ルールを軸とした市場経済とぶつかり始めており、さらにそれが安全保障面の対立と重なることで、状況をより深刻化させている。仮に米中の経済対立が本格化すれば、国際経済システムの深刻な影響を与えるだけではなく、世界の秩序の断層を生み出しかねない。
こうした米中の対立は核不拡散問題にも連動し始めている。INF全廃条約は、米国が条約の破棄を発表、さらにロシアも履行停止を伝え、条約自体の失効が現実のものになろうとしており、核軍備管理レジームは危機に直面している。
大国間の対立や交渉が、世界のグローバルガバナンスを動かそうとしており、それに対する対抗力は世界に生み出されていない。個別で見ると、「可もなく不可もなく」と評価した分野は、気候変動やグローバルヘルスや国際経済システム管理、国際開発の促進、サイバーガバナンスの管理など5分野あるが、それらはいずれも努力が継続しているだけで、それぞれが直面する課題を克服する新しい展開が見られたわけではないため、全体として「不十分」との評価となった。
2018年の国際協力全体に関する5段階評価
4 Good 良い
3 Decent 適切
2 Mediocre 可もなく不可もなく
1 Poor 不十分
0 Failed 失敗
10分野のグローバル課題 | 評価 | |
1 | 核拡散防止 |
1 不十分 |
2 | 国際テロ対策 |
1 不十分 |
3 | 気候変動抑止及び気候変動による変化への適応 |
2 可もなく不可もなく |
4 | 国際的暴力紛争の防止と対応 |
1 不十分 |
5 | 国内暴力紛争の防止と対応 |
1 不十分 |
6 | グローバルヘルスの促進 |
2 可もなく不可もなく |
7 | 国際経済システムの管理 |
2 可もなく不可もなく |
8 | 国際開発の促進 |
2 可もなく不可もなく |
9 | サイバーガバナンスの管理 |
2 可もなく不可もなく |
10 | 国際貿易の拡大 |
1 不十分 |