地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価
【2019年 評価】:C(変わらない)
国連でのサイバーセキュリティと規範に関する合意は2015年に行われ報告書が提出された。しかし、17年に開かれたGGEでは何ら進展がなかったものの、19年12月にGGEが21年の国連総会に報告書を提出することを目指し、議論が開始されたことは評価できる。さらに、国連の全加盟国や民間企業も参加できる国連オープン・エンド作業部会(Open-ended Working Group (OEWG))が行われ20年の国連総会において報告書を提出することになっており、国連を舞台にサイバー空間における規範についての議論が2つの軸で動き始めた。
こうした議論が動き始めたことは積極的に評価できるものの、日米欧と中露の間には大きな隔たりがあり、合意に至るかは現段階では展望が見られないため、今回のサイバーガバナンスの管理という点では、変わらないと判断した。
【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)
2020年は、米国の大統領選挙やフランスの上院議員選挙など、多くの選挙が世界中で行われるが、ITやデジタル技術が民主主義を強くするのか、それとも壊してしまうのか、という点がクローズアップされるべき年だと考える。現在では主権国家の対立がサイバー空間にも持ち込まれ、サイバー空間のガバナンス形成を非常に難しいものにしている。
しかも、こうしたサイバー空間での攻撃対象が、市民生活や各国の民主主義という仕組みにまで広がり、個人情報の保護やデータの管理、権威主義国家がサイバーの技術を使って国民を統制したり、民主主義国家の選挙に干渉にまで及び始めた。民主主義という仕組みがサイバー技術によって危機にさらされる中、民主主義とIT・デジタル技術を考える一つの大きなチャンスを迎えている。
20年は多くの人たちが、民主主義や社会の問題、個人情報等の問題を本気で考える局面になることを期待している。しかし、そうした動きが、サイバー空間における規範化やルール化まで、一気に大きく展開していくということは考えられないため、20年のサイバーガバナンスの評価としては変わらないと判断する。
2019年の評価
国連でのサイバーセキュリティと規範に関する合意は、2015年に25カ国の専門家が参加する国連政府専門家会合(GGE)で重要インフラへの攻撃禁止、平時の信頼醸成措置、途上国のサイバー能力の構築支援や人材育成の推進などに対して合意し、報告書が提出されたものの、17年に開かれたGGEでは何ら進展がなかった。しかし、19年12月にGGEが21年の国連総会に報告書を提出することを目指し、議論が開始されたことは評価できる。
しかも今回は、19年9月には国連の全加盟国や民間企業も参加できる第1回サイバーセキュリティに関する国連オープン・エンド作業部会(Open-ended Working Group (OEWG))が行われ20年の国連総会において報告書を提出することになっており、国連を舞台にサイバー空間における規範についての議論が2つの軸で動き始めた。
こうした動きの背景には、サイバー空間での攻撃が強くなる中で、主権国家同士で規範やルールをつくるという危機感が国際社会で共有され始めたということが挙げられる。特に民間では、18年のパリコール・トラストに続き、19年11月のサイバー空間の安定化委員会(GCSC)で、新たなサイバー規範確立に向け最終報告書が提言されるなど、活発な動きがみられる。こくした動きは、19年11月時点でパリコール・トラストへの賛同は74ヵ国、357の組織、208の民間企業が支持するなど、ルールベースでサイバー空間を議論していこうという輪は広がっている。
しかし、こうした議論は動き始めたことは積極的に評価できるものの、サイバー空間は特別なものではなく現状の国際法が適用可能と主張する日米欧と、サイバー空間における新しい法律や条約を作るべきだという中露との間で大きな隔たりがあり、合意に至るかは現段階では展望が見られないため、今回のサイバーガバナンスの管理という点では、変わらないと判断した。
一方で、サイバー空間におけるデータの流通の問題についての議論も2019年は様々な動きがあった。19年6月のG20では、各国間でデータを囲い込まず、プライバシー、データ保護、知的財産権及びセキュリティに関する課題に対処しながら、データの自由な流通を更に促進するというData Free Flow with Trust(DFFT)ということを「大阪首脳宣言」として中国も含めて合意した。DFFTの背景には、インターネットは一つでサイバー空間は一つだというスタンスが存在している。しかし現実には、欧米ですらEUでEU内で取得した個人データを域外に移転することを原則禁止とする一般データ保護規則(GDPR)が18年から運用するなど、データの囲い込みを始め、アメリカは原則データの流通は自由であるもののGAFA(Google、Amazon.com、Facebook、Apple)による反トラスト法違反の可能性の調査も進められている。こうしたデータの流通に対して、新しい大きな動きをつくるということに関しては展望が見えない。
2020年 進展に対する期待
2020年は、米国の大統領選挙やフランスの上院議員選挙など、多くの選挙が世界中で行われるが、ITやデジタル技術が民主主義を強くするのか、それとも壊してしまうのか、という点がクローズアップされるべき年だと考える。これまでサイバー空間を考える時、当初はサイバー空間は自由で、国境を超えるものだと考えられていた。しかし、現在では主権国家の対立がサイバー空間にも持ち込まれ、サイバー空間のガバナンス形成を非常に難しいものにしている。しかも、こうしたサイバー空間での攻撃対象が、市民生活や各国の民主主義という仕組みにまで広がり、個人情報の保護やデータの管理、権威主義国家がサイバーの技術を使って国民を統制したり、民主主義国家の選挙に干渉してくるということが増えるなどの議論にまで及び始めた。
民主主義という仕組みがサイバー技術によって危機にさらされる中、国家間の規範上のルールについての議論はGGE等で今後進むと考えるが、同時に、民主主義とIT・デジタル技術を考える一つの大きなチャンスを迎えていると考える。OEWGには、大手のIT企業が参加して、実際に意見を述べ機会も存在するなど、様々な人たちが議論をする局面が広がっている。また、サイバーセキュリティにおける信頼醸成を地域間で作っていくという決議や議論が、欧州安全保障協力機構(ODCE)やASEAN地域フォーラム(ARF)等の地域で行われている。
こうした動きが直接、20年に国連で議論がまとまり法整備などには繋がるとは考えられないが、サイバー空間の緊張緩和やどのような秩序を作っていくか、規範をどう具体化するか、民主主義をどうするか、という点について様々な舞台で議論が行われる可能性が、19年以上に存在している。
20年は多くの人たちが、民主主義や社会の問題、個人情報等の問題を本気で考える局面になることを期待している。しかし、そうした動きが、サイバー空間における規範化やルール化まで、一気に大きく展開していくということは考えられないため、20年のサイバーガバナンスの評価としては変わらないと判断する。