地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価
【2019年 評価】:B(一定程度前進した)
2019年、グローバルヘルス分野で最も重要な世界的な課題は、コンゴ民主共和国で発生したエボラ出血熱への対応であったが、前回2014年の西アフリカでの発生時の対応とは異なる判断をしている。まず、WHOの対応の問題である。2017年よりテドロス新事務局長新体制の下、WHOが緊急時に迅速に対応できる体制と資金を拡充し、緊急時のレスポンスの強化を図ってきた。そのため、現在何とか感染の広がりは抑えており、この点は前進と判断できる。一方で、コンゴ民主共和国含め紛争地や国家ガバナンスが欠如している脆弱国家での感染症への対応という面では引き続き課題が残る。
2019年により深刻度が増したのは、非感染症疾患(NCD)の問題、耐性菌の問題、また近年より悪化する気候変動や異常気象を起因とする様々な感染症や慢性疾患などである。
これらの問題を含めるとグローバルヘルス分野での地球規模の課題はむしろ広がっており、大幅に資金や人的リソースが不足している。今後、WHO自身がどの問題により焦点を当てるのか、そのためにどう他の国際機関や民間組織と連携するべきか検討が必要である。そのため、最終的に「一程度前進した」と判断した。
【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)
2019年末から大きな問題となっているのは、中国で発生した新型肺炎である。すでに感染者数は中国本土だけでも6千人近くになり、海外への感染も確認されている。1月23日にWHOは「緊急事態宣言」の発表を見送ったが、同日武漢市の空港・駅が閉鎖され、中国内外へも感染が広がっている。この対応が正しかったかは今後判断が必要となる。
もう一つ課題は、WHOが中心となってIHR(国際保健規則)の履行を推進する体制が強化できるかである。WHO加盟国にはIHRにおいて緊急事態発生時の対応能力やサーベイランス等について最低限の能力整備が求められているが、この進捗についての外部評価を先の脆弱国家だけではなく、中国やロシアなども受け入れていない。IHRの徹底が求められてはいるが、実際に改善できるかは現時点で判断できず、2020年の評価は、「変わらない」となった。
2019年の評価
2019年、グローバルヘルス分野で最も重要な世界的な課題は、コンゴ民主共和国で発生したエボラ出血熱への対応であった。エボラ出血熱の死亡者は、コンゴ政府が18年8月にエボラ熱の流行を宣言して以来、1650人以上が死亡し、感染者も約2500人に達している。
今回のエボラ熱は西アフリカ諸国で13年末から約2年半で1万1千人以上が死亡した流行に次いで、史上2番目に大きい被害規模となっているが、私たちは2014年の西アフリカでの大流行時の対応とは異なる判断をしている。
まず、WHOの対応の問題である。2014年のエボラ大流行の際は、WHOの対応の遅れやガバナンスが国際的に問題視され、その後、2017年に選出されたテドロス新事務局長新体制の下、ヘルス・エマージェンシー・プログラムを作り、またWHOが緊急時に迅速に対応するための緊急対応基金(CFE)を設置し、緊急時のレスポンスの強化を図ってきた。また、2019年に導入された新ワクチンの導入も寄与した。こうした新しい取り組みから、コンゴ民主共和国でのエボラ出血熱は何とか感染の広がりは抑えており、この点は前進と判断できる。
一方で、紛争地や国家ガバナンスが欠如している脆弱国家での感染症への対応という面で新しい課題に直面していることである。今回のコンゴ民主共和国での紛争地での対応ということで医療介護従事者が命を落とすという事態もあり、WHOのオペレーションを十分に進めるために多くの困難が生じた。こうした問題は、コレラが発生しているイエメンやソマリアなどの紛争地でも起こっており、紛争地や国家統治が十分の機能しない地域での感染症の対応について、国際社会は十分な解決策を見いだせていない。
2019年により深刻度が増したのは、この他にも、途上国の生活習慣病の拡大などの非感染症疾患(NCD)の問題、耐性菌の問題、また近年より悪化する気候変動や異常気象を起因とする様々な感染症や慢性疾患などの問題がある。
これらの問題を含めるとグローバルヘルス分野での地球規模の課題はむしろ広がっており、大幅に資金や人的リソースが不足している。WHOが多くの課題をONE-WHOで取り組むたのガバナンスの改革は続いているが、まず、ヘルス分野の課題の中で、WHO自身がどの問題により焦点を当てるのか、そして、どのように他の国際機関や民間組織と連携する必要があるのか、十分な検討が必要である。
ただ、こうした課題に対しては国連も国際社会も強い関心をもっており、これらの点から、グローバルヘルス分野での2019年の評価は「一程度前進した」と判断した。
2020年 進展に対する期待
感染症分野で2019年末から1月28日現在で大きな問題となっているのは、中国で発生した、新型肺炎である。2020年1月29日現在で死者は132人となり、感染が広がった17か国・地域を合わせると、感染者数は6,000人を超え、まだまだ拡大する可能性がある。日本にもその影響が及んでいる。
2020年のグローバルヘルスの進展はこの新型肺炎への対応がその判断材料となる。WHOが、1月23日に「緊急事態宣言」の発表を見送ったのは、感染の広がりや他国への広がるリスクや、病原菌自体の強さなどを判定に足るデータが十分ではない、などが理由だが、この日には発生元の武漢市の空港、駅が閉鎖され、中国国内や国外へも感染が広がっている。武漢市などが感染を封じ込めなかったこと、発生から中国国民への周知に時間がかかったこと等では、中国国内で激しい批判が出ている。こうした局面でのこの対応が正しかったのかは、今後、判断が必要になっている。
2020年は、新型肺炎の感染をどう封じ込め、収束させるかが今後の焦点となるが、もう一つ大きな課題となるのは、WHOが中心となってIHR(国際保健規則)の履行を推進する体制が強化できるのかである。
感染症の海外伝搬や国際交通への影響を最小限に食い止めるために、各国がばらばらで対策を行うのではなくWHOが中心となり、世界で統一的に行なうことが必要であり、そのための保健規則だが、その義務を各国が履行するために各国のサーベイランスなどの最低限の能力が整備必要となっている。
ところが、先の脆弱国家だかではなく、中国、ロシアなどもその外部評価を受け入れていない。今回に新型肺炎もその急速な拡大に中国の対応は進んでいるが、中国国外にも感染被害が広がる中で、事態の収束をWHOが中心に世界的に考えているわけではなく、対応が後手に回っている。今回の問題は、このIHRの徹底を迫っているが、それが改善できるかは現時点で判断できず、このグローバルヘルスの2020年の進展は、現状と「変わらない」と現時点では判断するしかない。
十分な情報が現時点でない中で、この問題の評価を現時点で行うことは難しいが、中国がWHOのルールに従い病原菌のDNAデーターが周辺国に1月の早い時期に通告していることなどを考えると、国際社会への通告という点で2003年のSARSの経験が生かされているが、ただWHOが専門的な現地の調査を行い、判断を下す前にテドロス事務局長と中国の習近平国家主席の会談を優先させたことは、その順序からも違和感がある。