地球規模課題への国際協力評価2019-2020
気候変動抑止及び 気候変動による変化への適応

2020年1月30日

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地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 2019年、温暖化に起因する異常気象は、世界各地で人々の生命や暮らしを脅かし続けた。こうした中、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の特別報告書は、これ以上の温暖化の進行は、食料の安定供給を阻害することなど様々なリスク要因となっていることを指摘している。そして、国連環境計画(UNEP)の報告書では、各国が抱える現目標のままでは2030年には平均気温が3.2度上昇すると警告し、現状の対策では到底対応できないことを警告した。
 しかし、12月のCOP25では、有効な対策を打ち出すには至らなかった。削減目標の引き上げに合意できたのは77カ国にとどまり、各国への義務付けは見送られた。また、議論の焦点だった温室効果ガス削減量の実績を国の間で融通する「市場メカニズム」の実施ルールづくりも、ブラジルやインドが強く反発したことで結局合意できなかった。
 さらに、排出量が圧倒的に多い米中2カ国は、いずれもその膨大な排出量に見合った取り組みをしているとはいえない状況である。こうした状況の中、民間企業を中心とした草の根の取り組みが拡大していることは好材料だが、発展途上国の工業化や人口増加に起因するエネルギー需要増もあり、温室効果ガス排出量は前年比で0.6%増えている。対策が進むよりも早くゴールが遠ざかっているような状況は2019年も続いており、こうしたことから「やや後退した」と評価した。

【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)

 2020年にはパリ協定が始動するが、気候変動問題における課題解決に向けた進展は、期待できない状態のまま「変わらない」と評価する。まず、中国・米国・インドといった国々の温室効果ガス削減に対する消極姿勢は2020年も継続するとみられる。また、COP26において削減量の引き上げやルールづくりに合意できるかはまだ不透明である。そして、国際的なリーダーシップを取る国がいなくなったことも期待できない要因となっている。1997年に京都議定書の採択をリードした日本も、G7で唯一石炭火力の新増設計画があるように石炭依存のエネルギー構造を変化させる様子はみられず、リーダーシップ発揮は期待できない状況である。こうしたことから2020年もゴールが遠ざかっていく状況が変わることはないと判断した。

2019年の評価

 2019年は、2020年の「パリ協定」の本格始動を前に、COP25を中心に、一年間を通して開催された様々な国際会議で、温室効果ガス削減目標の引き上げと排出量取引のルールづくりなどで国際社会が一致できるかが問われていた。

 世界気象機関(WMO)によると、2019年の世界の平均気温は観測史上2番目に高くなった。その影響もあって2019年は世界各地で異常気象が頻発し、熱波や干ばつ、豪雨などにより、人々の生命や暮らしが脅かされ続けるなど、温暖化はもはや安全保障問題と化している。

 こうした中、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8月、世界の土地利用と気候変動に関する特別報告書を公表した。そこでは、温暖化の進行により2050年までに穀物価格が最大23%上がる可能性があり、食料の安定供給を阻害することなど、温暖化が様々なリスク要因となっていることを指摘している。さらに、国連環境計画(UNEP)は11月、地球の気温上昇を産業革命から1.5度以内に抑えるには、温暖化ガスの排出量を2020年から30年の間に前年比で年7.6%減らす必要があるとの報告書を公表した。各国が抱える現目標では3.2度上昇すると警告し、現状の対策では到底対応できないことを浮き彫りとした。

 しかし、それにもかかわらず、12月のCOP25では有効な対策を打ち出せず、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「失望した」との声明を出す結果となった。削減目標の引き上げに合意できたのは、77カ国にとどまり、各国への義務付けは見送られた。EUや島嶼国などは賛成したが、自国内に巨大な石炭産業を有する米国や豪州などが反対にまわったことが大きい。また、議論の焦点だった温室効果ガス削減量の実績を国の間で融通する「市場メカニズム」の実施ルールづくりについては、削減実績を両方の国で二重計上しない運用を協議したが、削減分の海外移転で国内の実績が減らされることを嫌うブラジルやインドが強く反発したことで結局合意できず、2020年に先送りになった。

 排出量が圧倒的に多い米中2カ国については、トランプ政権がパリ協定からの離脱を宣言するなど、米国政府は温暖化対策に背を向けている。中国についても、2030年にGDPあたりの排出量を2005年比で60~65%減らすというパリ協定の約束を「予定通り実現する」とはしているが、それ以上の削減目標の引き上げはしていない。米中いずれもその膨大な排出量に見合った取り組みをしているとはいえない状況である。

 民間企業を中心に、化石燃料への投資を引き上げる動きや再生可能エネルギーのシフトが進み、一部前進していることは事実だが、発展途上国の工業化や人口増加に起因するエネルギー需要増もあり、実際には、温室効果ガス排出量は前年比で0.6%増えている。前述の通り、UNEPはたとえパリ協定での各国の削減目標を達成しても2030年には3.2度上昇すると警告しているが、国連方式の前回一致の意思統一では状況の急速な悪化で時間的に間に合わず、対策が進むよりも早くゴールが遠ざかっているような状況である。
これらの点を踏まえ、「やや後退した」と評価した。 


2020年 進展に対する期待

 パリ協定が始動する2020年に、気候変動問題においての進展は「変わらない」と評価する。それは、世界的な異常気象への脅威の拡大、気候変動対策を求める国際世論はより高まり、低炭素社会に向けた民間や自治体の自発的な取り組みが進む一方で、世界の排出量約半分を占める、中国・米国・インドといった国々の削減に対する消極姿勢が継続するとみられるからである。また、COP26において削減量の引き上げやルール作りに合意できるかまだ不透明であることも理由となり、2020年もゴールが遠ざかっていく状況は変わることはないと判断した。


ブレイクスルー

 気候変動問題については、国際的にリーダーシップを取る国が少ないことが大きな課題である。また、日本にもより積極的な取り組みが求められる。グテーレス国連事務総長は9月の気候行動サミットに向けて、2020年以降の石炭火力発電の新設中止や、カーボンプライシング(炭素の価格化)導入を求めたが、日本はG7で唯一石炭火力の新増設計画があり、廃止の道筋も描けていない。

 そのため、日本が主導的にこの問題に取り組むためには、炭素回収および貯蔵(CCS)付き以外の石炭火力発電の撤廃をはじめ、エネルギー供給に行ける石炭依存の構造を大胆に転換することが求められる。同時に、「排出量を30年度に13年度比で26%削減、50年に80%削減」という目標をより野心的なものに引き上げていくことも求められる。

 また、日本も含め国際世論全体が、気候変動問題が単なる環境問題の一つではなく、経済をはじめ、人間の健康、紛争、難民、格差拡大など複数の問題につながる問題にかかわる重大課題であるという認識を強く持ち、同時に政策決定者に行動を促すプレッシャーをかけていく必要がある。