地球規模課題への国際協力評価2019-2020
国際貿易の拡大

2020年1月30日

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地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価

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【2019年 評価】:D(やや後退した)

 米中貿易対立や米EUなどの対立の先行きが見通せない中、世界の物品貿易量の伸び率は減少しており、今後も低下する恐れがある。また、WTOの上級委員会の機能は実質的に停止しておりWTO体制自体が危機に直面しており、世界の自由化を支える仕組みは大きく後退した。一方、CPTPPや日EUのEPA、またRCEPが大筋合意する等、地域メガFTAは進んだものの、国際貿易の拡大という点では後退していると判断した。

【2020年 進展に対する期待】:D(やや後退した)

 20年1月14日に日米欧の三極貿易担当相が通商のルールや世界経済を歪める産業補助金の規制強化などを柱としたWTOの新ルールに関する素案を発表したものの、中国を含めた合意は極めて難しく、紛争処理についても6月のWTO閣僚会議での合意は困難と考える。経済における自由主義や多国間主義を守ろうとする意識は多くの国が共有しているが、G7やG20においても合意を作ること自体が難しくなっており、アメリカ大統領選を控えた今年は、大統領選挙の行く末を見守る状態となっており、少なくとも2019年に後退した局面が改善されるきっかけにはならない。

2019年の評価

 2019年の国際貿易は、これまでにない最悪の1年だったと評価できる。

 米国がほぼ全品目を対象とした第四弾追加関税については、12月半ばに米中両国が貿易交渉で合意したため、双方の追加関税が見送られた。ただし合意したのは「第1段階」であり、中国政府の産業補助金の見直しなどが議題になる「第2段階」の合意は依然見通せない。さらに、米国は欧州連合(EU)による欧州航空機大手エアバスへの補助金が不当だとして、世界貿易機関(WTO)の承認を受けてEUからの輸入品に報復関税を発動し、航空機やチーズ、ワインなど年間で約75億ドル相当の製品に最大25%を上乗せするなど、米中に加えて、米EUの貿易摩擦も激化している。

 その結果、WTOが10月に公表した2019年の世界の物品貿易量の伸び率(予測値)は、2019年が前年比1.2%増、2020年は2.7%増となり、いずれも4月の発表(2.6%増、3.0%増)から下方修正されており、貿易摩擦が激化すれば、伸び率がさらに下がる可能性もある。また、WTOは12月10日、紛争処理制度の最終審に当たる上級委員会で、新たに2人の欠員が生じたことから、上級委の機能が実質的に停止しており、WTO体制自体が危機に直面している。

 一方で、2018年12月に日本が主導して質の高い貿易・投資協定である「環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定(CPTPP)」と2019年2月に「日EUの経済連携協定(EPA)」がそれぞれ発効され、また、19年11月にはインドを除く15カ国が「東アジア地域包括的経済連携(RCEP)」で大筋合意するなど、地域的なメガFTAによる自由市場の形成という点では進展がみられた。しかし、世界の自由化を支える仕組みは大きく後退しており、地域でのFTA等が世界の自由化の後退を打ち消すほどの大きな力には至っていない。2019年の国際貿易の拡大という点では、後退していると判断せざるを得ない。


2020年 進展に対する期待

 2020年6月には、カザフスタンでWTOの閣僚会議が開催されるが、紛争処理の問題については解決する見通しは立っていない。一方で、20年1月14日、日米欧の三極貿易担当相が、紛争処理以外の通商のルールや世界経済を歪める産業補助金の規制強化などを柱としたWTOの新ルールに関する素案を発表するなど、WTO改革に向けて年始から動き始めている。今後、WTO会合の場で議論されるとみられるが、中国も含めて改革で合意に至るには極めて難しい道のりと言わざるを得ない。しかし、WTO改革だけでなく複数国間プルリ協定や地域的なFTAなど多様なチャネルで継続的に議論を行い、中国をルールに基づく多国間ルールに引き寄せる努力は昨年に引き続き2020年も重要となるが、現時点で進展は不透明と言わざるを得ない。

 2020年は貿易面では米中の貿易摩擦に加え、米EUの貿易摩擦が一進一退の攻防を続けると考えられる。また、CPTPPの署名国11カ国のうち、未批准国(マレーシア、ブルネイ、チリ、ペルー)の批准を促してくものの、さらなる拡大し発展させていくステージには至っていない。さらに、高いレベルの日中韓FTAをめざしていく動きはあるが、二カ国関係が不安定で、それが実現するかは現時点では見通せない。

 米国の自国第一主義的な行動は、保護主義的な傾向を強め、それが技術的な覇権戦争、一部のサプライチェーンの分断や組み換えが起こってきている。そうした状況の中で、経済における自由主義や多国間主義を守ろうとする意識は多くの国が共有しているが、G7やG20においても合意を作ること自体が難しくなっている。こうした点から国際貿易全体として2020年を見通すと、アメリカ大統領選を控えた今年は、余程のことがない限り、大統領選挙の行く末を見守る状態となっており、少なくとも2019年に後退した局面が改善されるきっかけにはならない。