地球規模課題への国際協力評価2019-2020
各10分野の評価
【2019年 評価】:D(やや後退した)
開発の目標は「持続可能な開発目標」(SDGs)において具体化されており、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」、「安全な水とトイレを世界中に」等、17の目標が掲げられている。2019年9月の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(High-level Political Forum(HLPF))の報告によると、2018年の世界の貧困率は8.6%と1990年の36%から大きく減少しており、5歳未満の死者は2000年の980万人から540万人(2017年)に減少するなど目標達成に向けて進捗している。一方で、基本的な飲料サービスを受けられていない人たちは、2015年時点の6億6300万人から7億8500万人増加する等、目標達成度にばらつきがみられ、2030年の目標達成に向けて更なる上積みが必要となっている。
こうした目標の上積みには巨額の投資が必要になるが、先進国の経済情勢が厳しいためODA等の開発援助額は頭打ちになり、かつ対中国の「一帯一路」に対抗する形で世界の開発援助が地政学的考慮に基づき、支援国に有利になる港湾整備や都市基盤づくりなどが逆にかさ上げされるとの現象が加速し始めている。また、民間の途上国向けの投資もリターンが出る案件に集中し、膨大なインフラ需要の実現の道筋は見えない。SDGsが世界の貧困国のみならず、先進国の自国の貧困や格差などに取り組むきっかけをつくったことは意義があるが、絶対的に貧困者のように世界で本当に困っている人たちに対してリソースの選択と集中ができなくなってきたとの懸念がある。これらの理由から全体としては後退と判断した。
【2020年 進展に対する期待】:C(変わらない)
SDGsの実現には、巨額の資金が必要になってくる。しかし、現在、この資金の出し手に様々な問題が生じ始めている。中国は「一帯一路」戦略のもとで、被援助国の債務持続可能性を超えた多額の借款を発展途上国に貸しつけ、債務減免と引き換えに港湾のような重要インフラの経営権を奪うなどの問題が見られる。一方の先進国においても、自国第一主義が浸透してきており、本当に支援が必要な国や人に対してではなく、援助の出し手が対中国戦略の手段として開発援助を行う傾向も見られている。こうした国家間の地政学的な対立を背景とする援助が目立つようになってきており、貧困削減を
始めとする途上国の喫緊の開発課題の解決に寄与する援助プログラムとなっているのかについて懸念が生じている。
SDGsが世界の貧困国のみならず、すべての国に対象を広げたことで焦点が曖昧になったという問題もある。またインフラ需要推計における「必要なインフラ」という定義も曖昧なため、今後、途上国が発展し、SDGsの目標を実現していたくためには、あらためて途上国の「必要なインフラ」の定義を明らかにし、選択と集中を再考していくことが必要だと考えるが、こうした動きは現時点でみられない。限りある資金やリソースの中では、そうした不断の見直しに着手しなければ、そもそもSDGsが掲げる「誰も取り残さない(Leave No One Behind)」という究極目標の達成は現時点では難しく、2020年もこの状況変わらないと判断した。
2019年の評価
その国における必要な国際開発とは何か。現在、OECDやADB等が世界やアジアのインフラ需要の推計を出している。2019年の統計は存在しないものの、直近の推計は2017年に出されている。その推計によれば全世界で10年で10兆ドル、年間2兆ドルが、アジアだけで見ても16年~30年で26兆ドル、年間で1.7兆円と、大きく規模が膨らんできている。こうしたインフラ需要の目標は、国連の掲げている「持続可能な開発目標」(SDGs)において具体化されており、「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」、「すべての人に健康と福祉を」、「安全な水とトイレを世界中に」、「産業と技術革新の基盤をつくろう」、「住み続けられるまちづくりを」など、17の目標が掲げられている。こうした目標はどこまで達成したのか。
2019年9月に開催された持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(High-level Political Forum(HLPF))の報告によると、2019年の統計は明らかになっていないが、2018年の世界の貧困率は8.6%と1990年の36%から大きく減少しており、この流れは大きく変わっていないと考える。ただ、18年自体の進捗率のままでは2030年に6%の貧困層が残るという推計となっている。さらに、5歳未満の死者は2000年の980万人から540万人(2017年)に減少するなど目標達成に向けて進捗しているものもあれば、飢餓率は2015年の7億8400万人から2017年には8億2100万人に増加し、基本的な飲料サービスを受けられていない人たちは、2015年時点の6億6300万人から7億8500万人増加する等、目標達成度にばらつきがみられており、SDGsの目標に向けて進捗しているものの、目標実現に向けては更なる上積みが必要となっている。
こうした目標の上積みに向けて、ADBの2017年の報告書では、17年時点の民間投資額の約630億ドルを、2016年から2020年にかけては年間2,500 億ドルに増やすことが必要となるとの数字が出ている。こうした巨額のインフラ需要を満たしていくためには、主として援助と民間投資の2つの方法があるものの、近年は先進国自身の経済が厳しいために援助額も頭打ちになっている。さらに、対中国の「一帯一路」に対抗する形で世界の開発援助が地政学的考慮に基づき、支援国に有利になる港湾整備や都市基盤づくりなどが逆にかさ上げされるとの現象が加速し始めている。加えて、民間の対途上国投資もリターンが出る案件(都市部の鉄道や橋梁など)に集中するきらいがあり、膨大なインフラ需要を全て実現することは現時点で見通せない。
SDGsが世界の貧困国のみならず、すべての国に対象を広げることで、先進国を含めた各国が自国の貧困や格差、ジェンダー問題などに取り組むきっかけを作った。この点については意義あるものだと考える。しかし、世界各国を対象とし、かつ取り組む課題を網羅的に拡げたことで目標や優先順位がわかりにくくなり、絶対的貧困者のように世界で本当に困っている人に対して開発援助を始めとするリソースの選択と集中ができなくなっているのではないかという懸念がある。
こうした理由から、2019年の国際開発全体でみるとやや後退と判断した。
2020年 進展に対する期待
先にも述べたように、国際開発の目標であるSDGsの実現には、巨額の資金が必要になってくる。しかし、現在、この資金の出し手に様々な問題が生じ始めている。
中国は「一帯一路」戦略のもとで、被援助国の債務持続可能性を超えた多額の借款を発展途上国に貸しつけ、債務減免と引き換えに港湾のような重要インフラの経営権を奪うなどの問題(いわゆる「債務の罠」)が生じている。さらに、「デジタル一帯一路」の看板のもと、アフリカ諸国に対するスマートシティー構築援助によって市民生活の利便性を向上させる一方、国民の効率的な監視技術を提供することで権威主義的なリーダーの歓心を買っているという現状もある。
加えて、先進国においても自国第一主義が浸透してきており、本当に支援が必要な国や人に対してではなく、援助の出し手が対中国戦略の手段として開発援助を行う傾向も見られている。例えば、日本政府はフィリピンへの援助の際、南シナ海における中国の公船への対抗から、フィリピン沿岸警備隊のキャパシティビルディングのために巡視船を支援するなど、安全保障政策と一体化した援助が増える傾向にある。こうした国家間の地政学的な対立を背景とする援助が目立つようになってきており、貧困削減を始めとする途上国の喫緊の開発課題の解決に寄与する援助プログラムとなっているのかについて懸念が生じている。
SDGsが目標に掲げる絶対的貧困層や飢餓率、幼児の死亡等、全体的な比率は、2030年に向けて減少していくとしても、取り残されるところは依然として残っている。また、近年の米中露を始めとする主要国間の地政学的対立の深化を勘案すれば、2020年も援助の戦略的活用の方向性は強まると予想され、2020年の国際開発においてこうした状況が劇的に変化することはない。
また、SDGsが世界の貧困国のみならず、すべての国に対象を広げたことで焦点が曖昧になったという問題もある。またインフラ需要推計における「必要なインフラ」という定義も曖昧なため、今後、途上国が発展し、SDGsの目標を実現していたくためには、あらためて途上国の「必要なインフラ」の定義を明らかにし、選択と集中を再考していくことが必要だと考えるが、こうした動きは現時点でみられない。限りある資金やリソースの中では、そうした不断の見直しに着手しなければ、そもそもSDGsが掲げる「誰も取り残さない(Leave No One Behind)」という究極目標の達成は現時点では難しく、2020年もこの状況は変わらないと判断した。