2020年1月30日(木)
出演者:
飯山俊康(株式会社野村資本市場研究所取締役社長)
大河原昭夫(日本国際交流センター理事長)
藤崎一郎(中曽根世界平和研究所理事長、元駐米大使)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
最後のセッションとして、「世界の変動期におけるシンクタンクの役割とは」をテーマとした議論が行われました。ここでは、飯山俊康氏(株式会社野村資本市場研究所取締役社長)、大河原昭夫氏(日本国際交流センター理事長)、藤崎一郎氏(中曽根世界平和研究所理事長、元駐米大使)という日本を代表するシンクタンクのトップ3氏に加え、工藤泰志(言論NPO代表)が参加し、意見を交わしました。司会進行は2012年に外務省が設置した「外交・安全保障関係シンクタンクのあり方に関する有識者懇談会」のメンバーだった渡邊啓貴氏(帝京大学法学部教授)が務めました。
議論では、"シンクタンク受難の時代"における政策提言のあり方や、中立・独立性をいかに確保するかといった論点について意見交換が行われました。その後、各シンクタンクの今後の方向性について話題が及ぶと、各組織の問題意識に沿った様々な意気込みが寄せられましたが、人材育成については各氏いずれも積極的な意欲を示しました。
シンクタンク受難の時代において、いかにして政策提言をしていくべきか
各組織の沿革やミッション、国際的シンクタンクとしてこれまでいかにして世界と関わってきたのか等、各組織の概要について各氏からの紹介がなされた後、渡邊氏はまず、シンクタンクと政策提言のあり方について質問を投げかけました。
これに対し大河原氏は、政策提言に関して、「現在、シンクタンクは受難の時代を迎えている」と切り出し、その背景には、トランプ米大統領に象徴されるように、「プロの知見を政権が聞かなくなっている」という現象が世界各地で起きていることを指摘しました。
その一方で大河原氏は、SNSなどの中でフェイクニュースが氾濫しているからこそ、俯瞰的に社会を見つめ、ファクトに基づいて研究していくことが、シンクタンクに課せられた重要な役割になってくると主張。もっともその際、専門領域を深掘りしすぎて自己満足の研究になってしまうことに対して注意を促すとともに、常に政策提言に反映させることを念頭に置くべきだと語りました。
飯山氏は、野村資本市場研究所がこれまで規制緩和など日本が先行していた分野に関して、中国の研究を受け入れてきたことをまず前提として説明。その上で、中国が国の通貨として世界初のデジタル通貨を発行する準備を進めていることを「金融の仕組みが根底から変わる」可能性があることを指摘。そうした"官"も十分に把握し切れていない新しい事態が起きた場合、中国とのチャネルを活かしながら中国の取り組みを研究し、政策提言をしていくことにより、シンクタンクとして新しい活躍の場が広がってくる可能性があると語りました。
中立性・独立性をどのように確保していくか
次に渡邊氏は、2003年のイラク戦争時に米国に滞在していた際の経験談として、各シンクタンクも大きな影響を受け、方針をめぐって揺れていたと振り返りつつ、シンクタンクとしてどのように中立性や独立性を担保しているかを尋ねました。
これに対し工藤はまず、言論NPOの中立性の評価基準を紹介。言論NPOとして政権の実績評価やマニフェスト評価など様々な評価を実施しているが、そうした取り組みは「バックに何か団体がいると思われたら説得力を失う」ため、こうした中立性確保の仕組みは特に重要であると語りました。
工藤は次に、独立性の定義を「議論の展開を外部から歪められないこと」とした上で、2013年の「不戦の誓い」を打ち出すにあたっては、尖閣諸島問題に関してこれを領土問題ではないとして中国側とは一切議論に応じようとしない日本政府とは「異なるアジェンダの立て方をした」と回顧。このように政府と異なることを言い切るためにはまさに独立性が不可欠であり、その独立性を可能とするためには、支える基盤が必要とした上で、「言論NPOは多くの人々から成るネットワークによって支えられている」と語りました。
大河原氏は、シンクタンクが日々の活動をしていく上では当然財源は不可欠であるが、現在、各種財団などからの助成金に関しては、その使途を厳しくチェックされるマイクロマネジメントが厳しくなっていると説明。これはシンクタンクとしての自由な活動を制約するものであるが、さりとて財源なくしては活動できないため、「中立性・独立性とのバランスを取りながらやっていくしかない」とその難しさを口にしました。
財源の話題が出たところで藤崎氏は、中曽根世界平和研究所では現在のところ政府から資金を受け取っていないとしつつ、「日本政府は外国のシンクタンクや大学には気前よく資金を出すが、国内の組織には出さない」と語り、もっと国内シンクタンク育成の視点を持つべきと注文を付けました。
今後、何を目指すのか
最後に渡邊氏は、それぞれのシンクタンクの今後の活動方針について質問しました。
飯山氏は、"寿命"には、「命の寿命」、「健康寿命」、そして「資産の寿命」があるとした上で、日本の高齢化が今後一層進展していくことを指摘。超低金利時代の中で長寿に対応した資産形成において役割を果たしていくことへの意気込みを示すと同時に、若いうちから金融資産の備えをしていくことの重要性を学校教育レベルでもしていきたいと語りました。
大河原氏はまず、一般には見えにくい中長期的な課題について問題提起していくことでシンクタンクの役割を今後も果たしていくことを強調。同時に、若手・女性政治家の勉強会の開催や、外国人材の受け入れといった人材育成面での貢献をしていくことへの抱負も語りました。
加えて、日本国際交流センターの強みである外国語発信にもさらに力を入れ、シンクタンクとしての国際競争力を向上させていくことへの意欲も示しました。
藤崎氏は、これまでの世界を支えてきた様々なシステムが制度疲労を起こしていることや、サイバー・宇宙などといった新領域でのガバナンスの未整備などを念頭に、「世界に通用するルールを探求していく」と述べました。
同時に、藤崎氏も人材育成について言及。大河原氏を見やりながら日本国際交流センターの創設者である山本正氏は、自らが発信するよりも、発信できる人材の育成の重きを置いておいたことを振り返り、そうした育成のための場をつくっていくと語りました。
工藤は、「まずは組織基盤の整備だ」と資金面など言論NPOの脆弱な基盤への対応を冗談めかして語った後、シンクタンク間の連携について語りました。その中で工藤は、世界トップクラスのシンクタンクでも自らが掲げるアジェンダをなかなか実現できてないないとした上で、言論NPO主催の「東京会議」のようにシンクタンク間で連携して課題に対して向かい合っていく姿勢を示していくことが重要であると強調。SNSなインターネット上で意見対立が先鋭化し、世界が混乱する状況の中では、シンクタンクが連携してポピュリズムに左右されない確固たる立ち位置を示すことは尚更大切であると主張しました。
さらに工藤は、各氏と同様に人材育成についても言及。言論NPOが行った世論調査では、日本の将来課題に大きな不安を抱えながらも、若者層を中心に政治不信が深刻化している現状が浮き彫りとなっていることを踏まえ、「若い世代が課題について考え、発言するための場をつくる」との方針を示しました。
最後に渡邊氏は、戦前・戦中期、日本の国力がアジアにおいて相対的に優位にあったことを背景として、充実した日本の研究機関にアジア各国の研究者がこぞってやって来ていたことを紹介しつつ、現在はそうはなっていないのは、日本外交の地位の低下を反映しているものと分析。こうした状況を乗り越え、積極的な発信を通じて日本外交の存在感を向上させることを各シンクタンクに対して期待しつつ、議論を締めくくりました。