米中対立や米大統領選、国際秩序の今後に関する 有識者調査

2020年2月27日

1.米国大統領選と次期政権発足後の世界

【トランプ氏の再選を望むか】

 最初に、今秋に予定されている大統領選において、トランプ氏の再選を望むかどうか尋ねたところ、日本の有識者の7割以上(75.1%、半年前74.5%)は「望まない(「全く」と「どちらかといえば」の合計)」と回答している。「望んでいる(「強く」と「どちらかといえば」の合計)」という回答は19.1%(半年前22%)と2割に満たない

あなたは、2020年のアメリカ大統領選挙において、ドナルド・トランプ現大統領が再選されることを望みますか。(単数回答)

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【民主党候補者に誰を望むか】

 続いて、米大統領選で民主党からの指名を目指している候補者のうち、誰の指名獲得を望んでいるかを質問した。

 その結果、前インディアナ州サウスベンド市長の「ピート・ブティジェッジ」を選択した有識者が26.9%で最も多く、半年前の2.8%から10倍近くになっている。これに上院議員の「バーニー・サンダース」が19.4%(半年前19.2%)で続き、今回新たに選択肢に追加した元ニューヨーク市長の「マイケル・ブルームバーグ」が16.5%で3番目となっている。半年前は25.5%で最も多かった前副大統領の「ジョー・バイデン」は、12.7%へと半減している。

下記は大統領選挙への出馬に向けて民主党からの指名を争っている主な候補者です。あなたは、次の中で誰に指名獲得してほしいと思いますか。(単数回答)

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【当選者と課題への影響】

 次に、(ア)から(カ)まで6つの課題を挙げた上で、トランプ氏再選、民主党候補者当選それぞれの場合に分けて、どのような影響があるかを予測してもらった。

 その結果、トランプ氏再選の方が課題解決に向けて「改善・進捗する(「大きく」と「やや」の合計、以後同様)」と有識者が判断したのは、「北朝鮮の非核化」のみであり、その他の項目については、すべて民主党候補者が当選した場合の方が「改善・進捗する」と有識者は予測している。特に、「気候変動問題」(民主党候補者:79.5%、トランプ氏:2.1%)、「WTOなど自由貿易体制」(民主党候補者:70.8%、トランプ氏:3.8%)、「イランの核問題への対応」(民主党候補者:52.6%、トランプ氏:7.6%)、「通商・経済・技術などをめぐる対中姿勢」(民主党候補者:43.9%、トランプ氏:12.7%)の4つの課題については、圧倒的多数の有識者が、民主党候補者が大統領になった方が「改善・進捗する」とみている。

トランプ氏が再選された場合、民主党候補者が当選した場合、下記(ア)から(カ)の課題にどのような影響があると思いますか。(単数回答)

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【大統領選後、アメリカは世界のリーダーに復帰するか】

 続いて、今回の大統領選挙後、アメリカが世界の自由な秩序や民主主義を守るためのリーダーに復帰する可能性について予測してもらった。その結果、「トランプ氏再選なら復帰する可能性はないが、民主党の大統領なら可能性はあると思う」という見方が43.1%(半年前46.1%)と4割ある。

 ただ、「誰が大統領になっても復帰することはあり得ないと思う」との悲観的な見方が22.5%(半年前29.8%)と2割ある。さらに、「現時点では判断できない」(19.7%、半年前9.2%)と米国のリーダーへの復帰を確信できていない有識者も2割いる。

あなたは、アメリカが2020年の大統領選挙後、自由な秩序や多国間主義、民主主義を守る世界のリーダーに復帰することはあり得ると思いますか。(単数回答)

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【今後の日米関係のあり方】

 最後に、米大統領選の動向を踏まえた上で、今後の日米関係のあり方について尋ねた。その結果、「次期大統領にかかわらず、アメリカとの関係は日本の外交政策の基軸であり、今後も特別な関係として発展させるべきだと思う」というアメリカ最重視路線を継続すべきと考えている有識者は27.2%(半年前25.5%)と3割に満たない。

 最も多いのは、「アメリカとの関係は今後も大事だが、アメリカとの関係だけを重視するのは危険であるため、中国を含めた様々な大国との関係も深めるべきだと思う」という回答で、36.1%(半年前27.7%)と4割近い。これに「日本は多国間主義やルールベースの世界秩序の実現に向け、価値観を共有する他の先進諸国との関係を深めることを重視すべきだと思う」という回答が32.7%(半年前39%)で続き、この2つを合計すると7割近くの有識者が米国以外の国々との関係を深めるべきだと考えていることになる。

あなたは、大統領選挙の動向を見ながら、今後の日本とアメリカの関係についてどのように考えていますか。(単数回答)

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2.米中対立

【米国の対中姿勢をどう見るか】

 まず、米国の対中姿勢についての見方を尋ねたところ、「中国を米国にとっての世界的な覇権争いにおける敵対国と認識し、米国の優位性維持のために、中国の封じ込めや弱体化を図る段階に入っている」(50.9%)という見方が最も多い。一方、「中国を米国にとっての競争相手と考え、中国の国際ルールに反する行動を抑え込むと同時に、各分野における米国自身の対中競争力を高めようとしている」という見方も41.6%と4割を超えており、日本の有識者の見方は分かれている。「中国が改革開放の原点に戻り、ルールやリベラルな秩序を遵守するように迫っている」という見方は3.8%にすぎない。

あなたは、現在の米国の対中姿勢はどのようなものだと判断していますか。(単数回答)

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【米国の対中行動を支持するか】

 米国が中国に対して、貿易のみならず様々な分野で強硬姿勢を強めつつある中、こうした行動についての評価を尋ねたところ、有識者の48.6%と半数近くが「支持する(「どちらかといえば」を含む)」と回答している。ただ、「支持しない(「どちらかといえば」を含む)」という回答も31.2%と3割ある。

米国の中国に対する行動を支持しますか。(単数回答)

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【米国の対中行動に日本は同調すべきか】

 続いて、米国は中国のファーウェイなどの製品を米国の通信網整備から排除する強硬策に出ようとしているが、日本に対して同様の措置を求めてきた場合の対応について尋ねた。その結果、日本は「同調すべきだと思う(「どちらかといえば」を含む)」という回答が44.2%で最も多いが、「同調すべきではないと思う(「どちらかといえば」を含む)」という回答も40.4%となり、有識者の賛否は拮抗している。

米国は、国家安全保障上の懸念を理由に、特定の米国製品や技術の禁輸措置を日本など他の国から再輸出する場合にも課しています。そして、中国の華為技術(ファーウェイ)などの製品を米国の通信網整備などから排除する強硬策に出ようとしており、今後同盟国にも同様の措置を求める可能性があります。あなたは、アメリカのこうした動きに日本は同調すべきだと思いますか。(単数回答)

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【米国一強時代は再び到来するか】

 米国も、中国に対抗すべく国家主導型の技術開発や産業政策を打ち出し始めている。そこで、こうした国家主導型の動きが、米国一強時代を再び到来させることになると思うかを質問した。

 その結果、「実現は難しいと思う(「どちらかといえば」を含む)」という見方が80.1%と8割を超え、「実現すると思う(「どちらかといえば」を含む)」という見方の15%を大きく上回っている。

現在、米国は中国に対抗するために、技術開発の分野などで国家主導の強化策を打ち出し、国家主導の産業政策を通じて競争力や国力を増大しようとしています。こうした動きによって、再び、アメリカ一強の時代が近い将来実現すると思いますか。(単数回答)

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【中国は米国に今後どう対応するか】

 米中対立について、中国が今後どのような対応をとると思うかを尋ねたところ、「改革開放の原点に立ち戻り、市場経済化や国際ルールへの遵守を可能な限り進めていく」と見ている有識者は8.1%(昨年10.3%)と1割に満たない。

 最も多かった回答は「あからさまな対抗姿勢は控え、"韜光養晦(とうこうようかい)"路線に戻る」の42.2%だった。ただ、昨年の63.4%からは21ポイント減少するとともに、「一歩も引かずに米国への対抗姿勢を強め、中国を中心とした地域枠組みの形成や一帯一路を通じた影響圏の拡大を図り、優位に立つ5Gなどの展開を更に加速させていく」という回答が昨年の11%から36.4%へと25ポイント増となり、中国の強硬路線を拡大すると予想する有識者は増えつつある。

あなたは、中国は米中対立に今後どのように対応していくと思いますか。(単数回答)

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【改革開放は本当に市場経済化を目指していたのか】

 これまで中国が進めてきた改革開放の動きについては、「中国はいまだ改革開放や市場経済化の途上にある」との見方は、16.5%と1割程度にすぎず、昨年の24.5%から8ポイント減少している。

 「経済成長のために市場経済化を進めるという意思は当初はあったが、結果は中途半端で途中から国家主導の経済色を逆に強めた」との見方が39.9%(昨年36.6%)で最も多く、これと「改革開放はあくまでも経済成長の手段にすぎず、そもそも市場経済を目指すつもりはなかった」(38.7%、昨年34.8%)との見方が拮抗している。

あなたは、中国が進めた改革開放の動きをどのように判断していますか。(単数回答)

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3.国際秩序が動揺する中での日本の立ち位置

【米中対立の中での日本の立ち位置】

 米中対立が激化する中、両国と密接な関係にある日本はどこに立ち位置を置くべきか尋ねたところ、「どちらかにつくのではなく、ルールベースの国際秩序や枠組みの維持に努力し、新しい共通ルールを作り出すためのリーダーシップを発揮すべき」という回答が64.5%で突出している。

米中対立によって世界的な秩序が不安定化する中で、日本の立ち位置はどこに置くべきだと思いますか。(単数回答)

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【米国に代わってリーダーシップを発揮すべき国・地域はどこか】

 次に、米国に現行国際秩序の擁護者としての役割を期待できなくなった場合に、代わりにリーダーシップを発揮すべき国・地域を答えてもらった。その結果、「日本」や「EU」、「G7各国」、「インド・ブラジルなど民主主義の新興国」など民主主義国家のリーダーシップ発揮を期待している有識者は7割を超えている。

今後、ルールに基づく国際秩序を維持する上で、米国のリーダーシップを期待できない場合、どの国や地域がリーダーシップを発揮すべきだと思いますか。(単数回答)

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【「『東京会議2020』未来宣言」に対する賛否】

 言論NPOは「東京会議2020」において、リベラルな国際秩序の維持・発展に向けて米国以外の主要国の努力を促す「『東京会議2020』未来宣言」を発出する方針である。そこで、これに対する賛否を尋ねたところ、「賛同する」という回答が81.5%と8割を超えている。

言論NPOは「東京会議2020」において、今後、ルールに基づく国際秩序を維持する上で、米国のリーダーシップを期待できない場合には、その他の主要国がルールに基づくリベラルな国際秩序の維持・発展と、その国際秩序の下での米中共存のために努力すべきだということを宣言することを考えています。あなたはこれに賛同しますか。(単数回答)

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4.リベラルな国際秩序の行方

【世界情勢が不安定な中、特に懸念していること】

 まず、世界情勢が不安定な中、特に懸念していることを尋ねた。その結果、「米国や欧州などの先進民主主義国で、民主主義への信頼が揺らぎ、ポピュリズムや権威主義的な傾向が高まっていること」(54.9%、昨年56.4%)と、「多くの国が内向き志向となり、世界の課題にリーダーシップを持って取り組む国が少なくなり始めたこと」(50.9%、昨年42.1%)の2つが5割を超えるなど、日本の有識者が民主主義に対する懐疑的傾向や、各国の内向き姿勢の拡大を強く懸念していることが浮き彫りとなっている。

世界の情勢は依然、不安定な状況が続いています。この状況下であなたが特に心配していることは何ですか。(2つまで回答)

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【多国間主義の今後】

 トランプ大統領の誕生以降、多国間主義を基調とした国際協力が機能していない状況が続いている。そこで、こうした状況を踏まえた上で多国間主義の今後について尋ねたところ、日本の有識者の65.6%(昨年68.5%)が「多国間主義は破綻はしないが、現在の不安定な状況が続く」と予測している。

米国第一主義を掲げるトランプ米大統領の登場以降、多国間主義を基調としてきた国際協力が機能していない状況が続いています。あなたは、多国間主義は今後どうなっていくと思いますか。(単数回答) 

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【米中対立は世界を"分断"するか】

 今後、米中対立が長期化・激化していった場合の世界秩序の行方については、「全体的な分断には至らないものの、部分的には分断が起こり、対立は残る」との見方が62.1%で突出している。さらに、「世界経済が分断され、勢力圏を競い合う状況になる」とより悲観的な見方も18.8%と2割ある。これに対して、「緊張関係は残るものの、共通したルールの中で互いに共存していく」とやや楽観的な見方は14.7%だった。

今後、米中対立は長期化し、厳しさを増していく可能性もあります。あなたは、米中対立の結果、世界の秩序はどのようになっていくと考えていますか。(単数回答)

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【世界の民主主義の今後】

 今回の調査では、民主主義に関する見方についても質問している。世界の民主主義の今後について、「民主主義は様々な問題に直面しているが、人権や政治的な平等など民主主義を支える中心的な価値自体を否定する大きな流れにはならず、紆余曲折はあっても維持されていく」との見方が70.8%で突出している。

 ただ、「民主主義はすでに魅力的な仕組みではなく、ポピュリズムや権威主義の台頭などにより信頼を失い、後退していく」(15.9%)、「民主主義は市民の信頼を失い統治の仕組みとして機能しなくなりつつあり、今後は権威主義にとって代わられていく」(3.8%)と、民主主義の退潮を予測する有識者も合計すると2割近く存在していることになる。

世界の民主主義は、今後どうなっていくと考えますか。(単数回答)

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【現行国際秩序を維持するために必要な努力】

 動揺する国際秩序を維持するための努力として、「多様性を容認しながら、ルールをベースにした包括的な枠組みの中で共通利益を拡大する努力をするべき」(52.9%)と、「気候変動や感染症など、グローバルな国境を越えた共通の課題を土台に、課題解決への努力をもとに多国間の連携を図っていくべき」(47.1%)の2つが必要だと考えている有識者が半数前後いる。

ルールに基づく国際秩序の維持に、主要国はどのような努力を行うべきだと考えますか。(2つまで回答) 

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【AIなど新技術がもたらす変化にどう対応すべきか】

 今回の調査では、AIやデジタル技術といった新たな技術がもたらす問題についても尋ねている。こうした新技術がもたらす変化に国際的なルールが追い付いていない現状にどう対応すべきかを質問したところ、「技術革新の状況に合わせて、適宜ルールをつくっていくことが重要」という回答が70.8%で突出している。

AIやデジタル技術の革新が経済的な利益をもたらす一方、新しい変化に国際的なルールの整備が追い付かず、非常に不安定な状況を生み出しています。こうした状況について、あなたはどう対応していくべきだと考えますか。(単数回答)

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【危機に直面しているWTO体制の今後】

 最後に、世界貿易機関(WTO)体制についても質問した。実質的な機能停止に追い込まれたWTOの今後について予想してもらったところ、「本格的な改善はないが、WTOの既存の枠組みを活用して新しいルール形成などの様々な模索が始まる」という見方が54.3%で突出しており、変容しつつもWTO体制が続くと見ている有識者は半数を超えている。

 一方で、「WTOの各機能の回復に向けて改善を始める」との見方は9.5%と1割に満たない。そして、「応急的な措置は続くが限界があり、WTOを軸とした仕組みは休止状態に追い込まれる」(19.9%)、「WTOの機能回復は難しく、この国際枠組み自体もやがて解体に向かう」(9%)の2つを合計すると、WTO体制の瓦解を予想している有識者も3割近く存在している。

WTOはルールの策定機能、紛争処理機能、協定の履行監視機能を有していますが、新しい時代に即したルールの形成ができず、昨年末には紛争処理機能が停止するなど、WTOの機能が実質的に停止し、WTOが危機に直面しています。今後、WTO体制はどうなっていくと思いますか。(単数回答)

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「東京会議2020」の議論のための有識者調査 概要

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