私たちは2月29日と3月1日の2日間、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、日本、フランスのG7加盟7カ国にインド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国からのシンクタンクと今回で4回目となる「東京会議2020」を開催した。
隣国・中国で発生した新型コロナウイルスの感染は世界中に影響が広がっている。このような状況にもかかわらず、世界を代表する10のシンクタンクがこの東京での議論に参加したのは、世界の状況は、私たちシンクタンク自身にも新しい覚悟を迫っていると考えたからである。
この数年、米中経済対立は技術の覇権的な争いとなり、世界の自由秩序の将来は一層不安定なものとなっている。世界に広がる自国第一主義の傾向は、多国間による国際協力や合意形成にも深刻な影響を与えている。
私たちが昨年に引き続き、米中対立の行方を話し合ったのは、世界は今後、米中の二つの大国の競争を軸に展開し、さらに深刻化し、長期化することが避けられなくなっているからである。
コロナウイルスの感染の拡大は、世界が即時に連鎖する、相互依存を高めていることを明らかにしている。こうした世界が共有する課題の解決は、協力の上にしか成り立たず、その協力は双方向的なものであるべきである。にもかかわらず、世界の繁栄を支えてきたリベラルな国際秩序の未来は不透明になり、世界経済の分断の可能性も否定できない状況が続いている。世界の民主主義国は結束し、努力を始めなければならない局面だと私たちは判断した。
私たちが目指すのは、世界の自由秩序とその枠組みを守り抜き、アップデートすることである。大国間の対立はそうしたルールに基づく自由な市場での競争でなくてはならない。
それが意味することは、この対立の出口は世界の分断ではなく、ルールに基づく世界の自由秩序の下での米中、あるいは世界の共存ということである。
そのためにも世界の民主主義国は協調して取り組むことが必要であり、今が、その局面なのである。私たち10か国のシンクタンクはそのために積極的な貢献を行うつもりである。
この「東京会議」に集まった10ヵ国のシンクタンクは各組織の既定の範囲内で、議論に参加することで合意している。私たちは二日間の議論で多くの点で共通の理解を得た。その中から、私たちは以下の5点に焦点を当てた。
第一に、本年のG7議長国となる米国は、大統領選の真っただ中にある。私たちは米国が国際社会での役割を重視し、G7で強いリーダーシップを取ることを今後も強く期待する。民主主義を唱えるG7など、世界の主要国は協調してリベラル秩序を守り、将来にわたってその秩序の中心に立つ努力をし続けるべきである。そのためにも主要国は新しいルール策定を先導し、世界のシステムの安定や地球規模課題での多国間協力で強いリーダーシップを取らなくてはならない。
第二に、米中対立の今後は、米国の禁輸リストをもとにした輸出、投資の規制の進展で緊張が高まり、全ての政策課題で安全保障と結びつけられた判断を求められる可能性がある。しかし、民主主義国は結束を崩さず、世界経済の分断の回避に努めるべきである。中国が世界市場に平等のアクセスを求めるのであるならば、中国は世界との相互主義を受け入れる必要がある。私たちは世界経済に公平な競争条件を実現するために相応の対応をし、中国に国内経済改革を迫る必要がある。ただし、中国を排除することがその目的ではない。
第三は、急速に進むデジタル等の技術開発やデジタル経済、AIの進展にルールが追い付いていないという問題である。日米のデジタル貿易協定や日欧の協議などルールに向けた動きが世界で期待されているが、こうした動きをG7が率先し、WTO等の場でマルチ化する努力が求められる。リベラル秩序を守り抜くということは、目指すべきリベラル秩序を再定義し、世界が共存できる新しいルールを作り上げる攻めの対応なのである。そして、この共同の努力に中国が参加するための努力を行うべきである。また、気候変動など世界の共通課題への対応、持続的成長の実現も緊急の課題である。
第四に、世界が戦略的な競争の過程に入る中で、G7各国など世界の民主主義国に問われることは、自由、民主主義という共通の価値を持つ国自体がより強くなることであり、それを私たちは一緒に取り組むべきである。民主主義国が、世界のリベラル秩序を守り抜くには、世界の共通利益であるグローバル化と国内の利益をつなぎ、世界だけでなく国内にも包摂的な成長を実現しなくてはならない。そのためにも、まず国内の経済格差などの問題に注力し、教育や必要なインフラ投資、技術の発展に積極的に取り組み、その競争力を高めなくてはならないのである。
第五に、G7各国は、それぞれの国の民主主義自体をより強靭なものに変えなくてはならない。民主主義国間に広がる権威主義の動きやポピュリズムの動きを抑え込むためには、民主政治の課題解決に向かうサイクルを立て直し、代表制民主主義への市民の信頼を回復する必要がある。そのためにも、権力の機能的な牽制や法の支配、そして何より市民が自己決定できる社会を守ることが必要である。独立のメディアやシンクタンクなどの知識層もその立ち位置から積極的な役割を果たすべきである。自由と民主主義の将来をかけたこの歴史的な作業は、幅広い人々の理解と支持に支えられるべきものである。
「東京会議」