2017年9月21日(木)
出演者:
加藤隆俊(IMF副専務理事、元財務官)
山﨑達雄(前財務相財務官)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
7月にドイツのハンブルグで第12回G20首脳会議が開かれてから2カ月余り。世界のグローバル化に向けて懐疑的な声がある中で、首脳宣言では、「保護貿易主義との戦いを続ける」と明記しながら、トランプ大統領の意向を入れて、不公正な貿易慣行に対し、対抗措置を取ることを容認して米国に配慮し、なんとかG20の結束を保っています。開催国ドイツのメルケル首相の首脳宣言での調整に苦労した跡が見られます。
そうした中、言論NPOでは、元IMF副専務理事で財務官も務めた加藤隆俊氏と、2年前まで財務官だった山﨑達雄氏の2人をゲストに迎え、世界秩序が不安定化する中で、国際的に自由な経済システムと貿易を目指すG20そのものの役割なども含め、今回のG20の評価をしました。
今回のG20サミットの評価とは
まず、司会の言論NPO代表、工藤泰志が加藤氏に、「首脳宣言などをご覧になって、今回のG20は一つの岐路に直面しているとお思いですか」と尋ねます。
「今年のサミットでは、トランプ大統領が国際会議に出席するのかどうかから始まっていた。それだけに、議長国のドイツは調整に苦労しただろうが、貿易問題では、米国の言い分を取り入れ、気候変動のパリ協定では1対19で、米国とその他の国でそれぞれの立場を書き分けて、曲がりなりにも合意文書がまとまったのは、一つの成果だった」と、加藤氏は話します。
これに対し山﨑氏は、「そもそもG20は2008年のリーマンショックから開催頻度が増え、世界の金融危機へ対応する会議だった。中国の大幅な不均衡問題もあったが、それに比べれば、今は緊急に対応する問題はない。メルケル首相が努力したのはコミュニケに対してであり、ポリシーを決めるために努力したわけではない。トランプ大統領が部分的に注目を集めたが、これまでの会議と大きな違いはなかった」と説明しました。
世界の変化の背景にあるもの
確かに、今回の会議では世界規範が見直されているわけではありません。しかし、トランプ大統領との間で意見の相違が逆に見えてしまい、グローバル化で発展はしてきたものの、所得格差などグローバル化の問題があるのではないか、との問題意識の下、工藤は聴きます。「今は、時代の変わり目にあるのではないか、何か世界で起こっているのか」と。
加藤氏は、「米国中西部の白人の所得が伸びない。これは英国、ドイツ、フランスにもあると思う。G20として、グローバル化を否定するかと言えば、世界経済が発展してきたのは、グローバル化も理由の一つ。その反面、社会で起きている不平等さなどを逆転するような成長を実現出来るかが、ここ数年の課題だが、まだ答えは出ていない」との認識を示しました。
変調の中でも繋がりを保っているG20
工藤は、「G20として形はまとまっているが、きちんとした議論がないのではないか。グローバル化をベースとして発展しようとするのに、何か変調があるのか」と、山﨑氏に問いました。
「グローバル化で生まれた移民によって、職を奪われるのではないかという不安もあったが、逆にトランプを反面教師にして、EUがむしろ結束の方向に強まってもいる。また、ミクロ的に見れば不幸な人もおり、それに対し、トランプやブレグジットのような答えもあるが、多様性の中で、共通の答えを見つけていこう、ということだ。気候変動については、トランプの対応について、米国内でも議論があり、G20は繋がるところでは、繋がっているのでは」と、山﨑氏は述べました。
トランプ大統領の登場によって、現れた米国と他の国との19対1という基本的な違い。この違いは、多国間で話し合うのと二国間のディール(取引き)という手法の違いにも反映しているように見える点について、「気候変動では1対19だが、本来G7は、経済、安全保障などで共通の価値に基づくグループ。そうではない人たちを入れるのがG20の場であり、いかにG20を巻き込むかだ。ほつれているのは気候変動だけで、根っこは1対19でもない」と、G20の基本的スタンスを強調する山﨑氏でした。