イタリアG7の評価とは(下)
市民目線で課題を把握し始めた

2017年6月13日

2017年6月9日(金)
出演者:
実哲也(日本経済新聞社上級論説委員)
田所昌幸(慶應義塾大学法学部教授)
山﨑達雄(前財務省財務官)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第3セッション G7に求められる役割

2017-06-11-(14).jpg 最後の第3セッションでは、工藤が「世界はグローバリゼーションとそれが国内に引き起こした問題への対応が問われている局面であり、その中には自由、民主主義、法の支配、自由貿易の堅持など規範上の共通利益を考えて、明確な主張をする役割をG7に求めているのではないか」との問題提起からスタートしました。

2017-06-11-(29).jpg これに対して山﨑氏がトランプ大統領をマルチ(多国間)の交渉の「場」に引き込むことの重要性を強調しました。「普通であれば気候変動の枠組みに入るか入らないかはG7会議の前に判断して、その結論を説明するのが本来の姿だが、今回は順番を敢えて逆にしているわけです。そういう意味では、そこは今回機能しなかった。逆にそういうやり方もこちらは分かってきているので、事前のシェルパ(*)の段階で、いかにトランプ大統領をうまく国際的なイシューに巻き込んでいくかという発想で、日本も含めてやっていくことが大事。そのためにはG7やG20がマルチの場として重要ではないか」。

2017-06-11-(20).jpg  田所氏もこのマルチの場としてのG7の活用に賛意を表明。と同時にトランプ現象が生じた背景にも目を向けるべきだと指摘しました。「グローバリゼーションによって非常に得をしているエリートがいるが、我々のことはどうしてくれるんだ、と感じている人はいっぱいいます。格差については今回のコミュニケにも書かれているが、そういうことに対して手当をしていかないと、トランプさん一人の問題ではすまない。いわゆるポピュリズムと言われている現象が、先進民主主義国でも強まってくる可能性はあります」。

2017-06-11-(25).jpg 実氏もトランプ大統領はグローバリゼーションに対する普通の人たちの疑問や意見を代表している側面があると指摘。このため格差解消のための政策や、トランプ大統領の経済ナショナリスト的考えに対しては、例えば国際課税制度を整備しないと米国企業の海外流出は止まらないこと――つまりアメリカ一国では解決できないことなど、トランプ氏が問題だとしているテーマに、もっと重点を移してはどうかと提案しました。

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今回のG7の特徴は市民宣言的なこと

 次に、司会の工藤から「G7が発するメッセージはいったい誰に向けたものか」という根源的な疑問が出されました。「自由、民主主義、法の支配、自由貿易などが規範として成り立つのは、それが共通利益になるからです。しかし、多くの人たちがその規範に共通利益を感じなくなってきている。そうした状況がトランプ現象を生み出しているにもかかわらず、依然としてエリートたちが政治リーダーとして集まっている、という矛盾が浮き彫りとなってきているという感じもするわけです。ということは、G7サミットは大事なのだけれど、やはりメッセージという意味合いではまだ力不足だと感じざるを得ない」。

 これに対して山﨑氏が「それはまさに重要なポイントです」と賛同し、次のように述べました。以下、議論のキャッチボールをまとめます。

山﨑:今回のG7サミットの特徴は市民宣言的なことです。過去に比べて圧倒的にコミュニケも短くしている。私などは実際に携わっていて、どうしても各国の役人が成果を寄せ集め、冗長で自己満足的なもの出来上がってしまう、ということを見てきました。しかし、それでは一般の人はおろかマスコミでも取り上げてくれない。それでは意味がないし、今回の議長国であるイタリアが取り上げたのは、やはりポピュリズムとその背景にある世界の格差ですね。グローバリゼーションの結果として生じた格差にどう対処するのか。そういうことが書き込んである。

工藤:ということは、この首脳会議(G7サミット)は、そこで大きな協議をするだけではなく、多くの市民に色々な課題を理解してもらう、ということも一つの課題になってきているのではないか。

田所:日本人が意識していないグローバルな課題も書かれていることが多い、ということも、日本人はこういう機会に勉強すべきだと思います。とりわけ、シチリア島で開催したというのは、明らかに難民や移民の問題を意識しているわけです。難民、移民問題は、日本を除くG6では、おそらくトップ3に入る政治アジェンダです。我々自身もG7をソーシャライズ(社会化)する機会にする必要があると思います

工藤:コミュニケをよく読むと、間違いなくグローバリゼーションと格差、市民など多くのことに意識を向けようという意欲はありますね。そう考えると今回のG7は非常に大きな問題を提起している。しかし、その課題が外からははっきり見えないという気がするのです。

実:確かに、新しい課題に一つの答えを出しているとは言えないかもしれないけれど、一応そこにフォーカスしていこう、というサミットにはなったと思います。基本的に、市民目線、普通の人の目線で、問題を理解します、ということを示すことはできた。もしかしたら、そこではトランプ大統領の存在がポジティブな役割を果たしたのかもしれない。

 最後に工藤がグローバリゼーションと民主主義、そして市民のニーズを、共通利益としてどう考えていけばいいのか。「まさに自由主義先進国は、そこに対する大きな責任を担わなければならない時期に来ている。その大きな課題が明らかとなったサミットになった」、と総括して、議論を終えました。

(*)サミットの準備は「シェルパ」と呼ばれる首脳の補佐役が、首脳の指示を受けて緊密に連絡を取り合って行われる。

※ 議事録は後日公開させていただきます。

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