第5話:世界は今後どうなっていくのか
工藤:これまで国際秩序の不安定化している要因なり、今後の課題を明らかにしてきました。では、世界は今後どのようになっていくのか、について話を移したいと思います。これについてもアンケートを有識者に行いました。今後の世界がどうなっていくかの問いに、最も多かったのは、アメリカを軸とした秩序は維持されるが、体は後退して世界的な秩序はさらに不安定化に向かうという回答が、48.5%と半数近くとなりました。よく「G0」とか、G2というような議論が見られますが、そうした回答を選んだ人はあまり多くはありませんでした。
今後の世界に関して、みなさんはどう考えているかお聞きしたいと思います。
3つのアイデアを組み合わせることで、国際秩序は安定する
細谷:今、なぜ世界が不安定化していると多くの人が考えているかということとも関連するのですが、私が『国際秩序』という本の中で、結論として書いたのが国際秩序で3つのアイデアを組み合わせることで一番安定的な秩序ができるということです。それは勢力均衡と主要国家間の国際協調と国際共同体をつくるでした。私の中で、歴史上一番安定していた秩序というのがウィーン体制であって、これはバランスオブパワー、勢力均衡と大国間協調が機能していたわけです。ベルサイユ体制はその両方ともなかったわけです。冷戦時代は少なくとも勢力均衡があったということで、一定程度の安定があった。ところが、いま、新興国が台頭して勢力均衡が大きく崩れ、主要国家間の協調もできそうでできない。つまり、G8からロシアを排除し、中国も入った形での協議はうまくすすまない。さらには、国際共同体、国連などもそうですが、そうした機関による問題解決も難しい。
この3つが同時に機能していないのが今の世界の問題だと思います。ですから、この3つをいかにして、勢力均衡というものを回復して、新興国の台頭に対して既存の大国もまた、一定程度経済成長をする、十分な同盟関係を強化する、さらには小国間、中国やロシアを含めた協議の場をきちんと機能させるようにする。そして、やはり多くの国が共有できる規範、国連でもそうですが、そういったところで作っていくことがこれからの課題だと思います。ただ、考えようによっては、果てしなく遠いゴールだと思うので、相当な時間をかけなければ安定化ということは難しいのだと思います。
工藤:その場合の勢力均衡というのは地域的な、エリア的な勢力均衡なのでしょうか。それとも全体の勢力均衡なのでしょうか。
細谷:ウィーン体制はヨーロッパの地域だったわけですが、20世紀になるとグローバルになる。グローバルということは地域とグローバルレベルの連立方程式になるので、はるかに勢力均衡が難しい時代だと思います。
今後の国際情勢を見通すことは非常に難しい
藤崎:国際情勢を見通すのが難しいのは、今までもソ連の崩壊であれ、天安門事件であれ、ほとんど何も見通せないまま、わっと事件が起きて、あとからみんなが理屈付けをしていく、というものですから、これからどうなっていくか、ということをいうのはさらに難しい。今の流れが大体続いていったらどう考えていけばいいのか、何かもう少しベターにしていくためにはどうすればいいのか。今のシステムが崩れないようにしながら、補強しながら、みんなで協力しながらやっていこうじゃないか、というようなことであって、どこから綻びが出てくるか、それを見通すのは、まさにアラブの春もそうでしたし、そういうものは少し難しいと思います。特に、中近東がわからなくなってきたことが、非常に心配です。
工藤:大統領選挙の結果によって、アメリカはもう一回、頑張ろうということになるのでしょうか。
藤崎:それはなる可能性があります。大統領選挙がどうなるかはわかりませんが、一番大事なことは何かというと、ああいう人だったら大変だとか、ああいう人だったらどうだ、ということを言わないことです。よそ様の国のことですから、みんなで冷静に見ていき、きちんとそれに対応して行くことが重要だと思います。相撲の取り組みを見ているように、あっちはがんばれ、こっちもがんばれ、ということではないだろうな、という風に見ています。
秩序を安定化させるためには、外交の力を磨いていくしかない
古城:本当に難しい問題ですが、秩序という意味を考えると、やはり国際社会の構成員が適切だと思われる行動で、ある程度合意ができていることが秩序だと思います。今、それが不安定化しているということは、これまで欧米や日本が、やってきた先進国主体の原則や価値が新興国の台頭などで影響力のある構成員が多様化してきたことによって、それがある程度批判というか、挑戦を受けているような段階だと思っています。
今、世界は非常に不安定化していますから、秩序を安定化させるためには、少なくともそこのところで、どこまで合意できるか、ということを探っていくしかかいのではないでしょうか。それがたぶん、外交の力によることが多いので、その外交の力を、どんどん磨いていくしか、私が言った意味での秩序というものをある程度、安定化させるというのは難しいと思います。
工藤:お互いに歩み寄っていく、ということですね。欧米も欧米で、これまでのやり方を少し柔軟にするとか、中国側もそうするとか、そういう流れが始まることが大切だと。
古城:私は、そうしたことを外交で積み上げていくしか、ある程度適切な行為に対する合意というのは取れていかないのではないかと思います。
開発目標・気候変動について、中露も含めた大枠の合意ができた2015年
田中:超楽観的な言い方を仮にすると、昨年、国際社会は2030年に向けた開発目標、気候変動に関する合意のどちらとも、すべての国の同意によって合意を行いました。開発目標ということでいえば、新しい持続可能な目標というものを17の目標、169のターゲットというものが、国連総会において全会一致で合意しました。それから、COP21は義務的なものは作れませんでしたが、アメリカも中国も入って、少なくとも自分たちはこういうことをしますよ、という合意には至ったわけです。
ですから、開発と気候変動というかなり大きな問題については、かなり広範な合意がなされました。かつての時代だと、開発途上国と先進国というのは、こうしたテーマにおいてはことごとく対立してきました。しかし今回、開発途上国は全て先進国の責任だ、ということをいわないで、自分たちも努力をするということになった。そして、先進国も開発途上国のためにやる、ということで合意ができました。ですから、国際秩序の中で、ある種の方向性について、合意ができるという大まかな可能性ができている、ですから、2015年、2016年はそんなに悪い年ではなかったということです。
ただ問題は、非常に危険になりうるところ、つまり、安保理の常任理事国の5つの国の仲が非常に不安定で、その点についてはコンサートがうまくできず、バランス・オブ・パワーができないことが、私たちを大変不安にさせる。ただ、先程から話に出ている、国際秩序のコンテンツについてどうですかというと、国際秩序のコンテンツについては、非常に大まかな合意が中国も含めてロシアも含めてあります。だから、これをどうやってうまくマネージしていくか、ということが課題だと思います。
報告
第1話:現在の世界秩序をどう考えればいいのか
第2話:アメリカの力の現状
第3話:中国の台頭と中国経済への期待
第4話:グローバルガバナンスの在り方
第5話:世界は今後どうなっていくのか
第6話:2016年、日本に求められるリーダーシップ