COP17で問われる課題とは何か

2011年11月30日

第3部:フクシマを経て日本は環境、エネルギー政策をどう変える

工藤:最後のセッションを始めたいと思います。日本では3.11に震災があり、原発事故が深刻な事態になりました。原子力をベースにしたエネルギー政策そのものを見直そうという大きな転換点に来ているわけですね。

その転換の裏側にあるのは、エネルギーをどういう風にして供給していくのかということです。今までの地球温暖化に対する日本の考え方というのは、基本的に原子力発電を前提にしているような議論になっていました。この日本自体が、地球環境の問題、エネルギー政策をどうしていけばいいか、もう1回整理し直して、国民に提起しなければいけないと思います。それがないために、地球温暖化よりエネルギー供給を優先しなければいけない、その場合は化石燃料でも仕方ないし、地球温暖化対策が当面できなくてもやむを得ないのではないか、という議論が出てくる感じがあります。

実際、アンケートでも、半数の人が「震災復興とエネルギーの供給確保を優先すべきであり、その結果、京都議定書の目標が達成されなくても致し方ない」を選んでいます。¬このあたりをどう考えればいいか、うかがいたい。松下先生どうですか。

温暖化の危機に直面しているとの認識を持ちながらエネルギー政策を見直す

松下:確かに震災復興は、日本において、政治的にも社会的にも第一の課題だということは事実です。それが直ちに温暖化対策と矛盾するかというとそうでもないと思います。今年の夏、電力の供給がタイトになって多くの方が苦労して節電に努めました。これは強いられた節電だったのですが、相当程度、節電、省エネルギーができることがわかりました。これを今後、より社会的なシステムとして制度化していくことが必要ですし、一方で、自然エネルギーに対する拡大策も準備されてきて、そういうものに対する投資も増えています。短期的には不足した電力を、例えば液化天然ガスで補充する等、暫定的なプロセスはきちんと精査することが必要ですし、長期的には¬¬温暖化対策と、省エネルギー、代替エネルギーの拡大と、セットで取り組んでいけば、それによって地域の雇用、振興にもつながると思います。

工藤:確かにその通りなのですが、政府そのものはそこを整合的にプランニングする段階ではないですよね。前の菅政権は脱原発だし、野田政権は、安全性をベースにして稼働していくという話です。そこあたりも何だかよくわからない状況になっているのですが、どうでしょうか。

高村:エネルギー政策の見直しが原子力発電所事故後に行われていますが、やはりこれだか国民が原子力発電に不安を感じていて、タイミングはともかく、長期的には削減して依存度を¬減らしていこうという方向にある時に、なかなか具体的な案が出てきていません。それはおそらく、今の見直しの中で議論されて出てくることを期待するわけですが、その中でも、しばしば温暖化対策と矛盾するのではないか、という議論があります。

今回のアンケートでも、それを懸念する声があったかと思います。先程、松下先生もおっしゃいましたが、確かに、原発9基建設を前提としたCO2削減25%の20年目標だったと思いますけれど、しかし、需要側の対策はなおできるはずです。しかも、今の電力不足に対応する、あるいは電力価格が上がることに対応する、つまり省エネや節電、あるいは需要側ではありませんが、再生可能エネルギーの拡大というものを、もっと積極的に打ち出すということは、供給側の対策を考えているときでも、なおできるはずです。なのに、あたかも全部温暖化目標も全て含めて、1から考えましょうというような雰囲気を、今の議論からは感じます。しかし、それはまた1年遅らせることになりますから、そこはやはりできる事をもっと積極的にやってもいいのではないか、という風に思っています。

工藤:蟹江さんは、今の点についてどうでしょうか。

蟹江:お2人がおっしゃったことは、まさにその通りだと思います。やはり、震災でもう1つ明らかになったことというのは、中央集権型の電力供給システムの限界といいますか、安全面を考えたときの危険性ということだと思います。やはり、再生可能エネルギーというのは、分散型の発電です。それは、考えてみると、発展途上国などで本当に生きてくるのだと思います。太陽光パネルを1つ付ければ、電線が通っていないところでも、ある程度の電力供給ができるようになります。そういった点というのも考えて、日本が売れる産業の1つになっていくとすれば、それを育てていくということが、大事なのではないかと思います。今、なぜ石油・石炭が安いかと言うと、大量の補助金が入っているからです。その補助金の在り方、それは言ってみれば我々の税金から出ているものですので、そういったお金の振り分け方から、やはり議論して変えていかないといけないと思います。その結果として、温暖化対策をしなければいいのではないか、ということには逆にならなくて、もしそうしていていると、逆に影響が強くなります。

タイの状況は温暖化との因果関係を精査する必要がありますが、ただ、もし、ああいう状況になった場合に、その対策費用というのは、またバカにならない金額になると思います。なので、本当に我々が温暖化の危機に直面しているという認識を持ちながら、温暖化とエネルギーの関係というのは、その制約のもとで考えていく必要があるのではないかな、と思います。

工藤:確かに、お話しを聞いていて、日本の政府は腰が入っていないというか、どちらを向いているのかよくわからない。だから、僕たちが議論をしていても、歯がゆいですよね。政治が今の原発問題、震災、日本のエネルギーの安全保障の問題、それから、温暖化という問題をやはり考えて、国民に説明して動かないといけない、という話ですね。

世界ではグリーン経済が中心的なテーマだが、日本ではどう具体化するか

松下:先程、蟹江先生が、リオ+20、来年の6月に予定されている会議に向けて、グリーン経済が中心的なテーマとして議論されているということを紹介されました。これは、国際レベルではそういう議論がされています。しかし、日本ではあまり議論がされていません。これは、まさに震災復興だとか、地域の活性化だとか、限界集落をどのように活かしていくか、里山をどう活用していくか、そういうことに全部かかっています。人々がより安心して、真っ当に地域の資源を活かして、雇用を増やして、安心できるという社会をどのようにしてつくるかということです。ですから、貧困を減らしながら、安全で安心な社会をつくっていく。それが、再生可能エネルギーを増やしたり、温暖化対策をしたり、環境対策をやったりすることと一体となって考えて行くべきだと思います。日本には優れたレベルの技術もあるし、風力、太陽光、地熱、小水力など、色々な資源があるわけですから、この機会に再度見直して、それを逆に国際的な場で提供していく、ということで、リオ+20なり、あるいは今度のCOPの会議に臨んでいく。そういう風に考えていく機会だと思います。

工藤:今まで、日本の政治は、内容は別にして世界的には環境を"売り"にしていました。つまり、日本の課題解決能力を世界的に提起するという点で、環境は強みでしたが、今はそれを戦略化できなくなっている。
蟹江:本音と建て前が違うというのが、今の状況ではないかと思います。
工藤:初めから本気ではなかったということですか。

蟹江:ある程度本気の時期はあったと思いますが、本音のところに触れようとすると、どうしても反発が強いので、建前をキャッチアップするような本音になっていない、ということだと思います。少なくとも、今の状況はそうだと思います。ただ、松下先生がおっしゃったように、2つは全く別のことではなくて、まさに、震災の復興などはグリーン経済の話なのですね。そういったことを結びつける。それは、我々のように言葉を仕事にしている人間の役割かもしれませんが、一見違うような事柄を結び付けていくようなことが大事なのではないでしょうか。

工藤:高村さん、今もやはり地球環境という問題、それから、エネルギーの在り方の抜本的な見直しとか、再生可能エネルギーを中心にしたものというのは、世界的なアジェンダとしても非常に意味のある、流れなのですか。

環境と再生可能エネルギーの潮流に日本は置いていかれるのではないか

高村:正直なところ、先程、腰が入っていないとおっしゃいましたけど、このまま行くと、日本は置いていかれるのではないかという気持ちがあります。先程からいくつか出ておりましたけど、例えば、中国は沢山エネルギーを使い、二酸化炭素を排出している国ではありますが、再生可能エネルギーの導入量というのは、非常に大きいのです。風力に関して言うと、昨年度は世界一の導入量です。そこには、単なるエネルギー需要だけではなく、やはり、自国の産業の振興、例えば、再生可能エネルギーのソーラーパネル技術ですとか、風力技術の振興と、合わせてやっているわけです。これは、アメリカも同様の状況ですし、もちろんEUは先だってやっているわけです。むしろ、再生可能エネルギーの将来的な拡大を見越して、むしろ、貿易戦争の状態が生じていると思います。そういう意味では、こうした世界の動きの中で、本来、日本はソーラーパネルでも非常に強い技術力を持っていたはずだと思うのですが、国内市場がなかなか拡大しない中で、そのシェアが随分落ちてきているのを見ると、どういう風に経済と環境と、安心・安全といった社会のビジョン、戦略を日本がどのようにつくっていくのか、ということが大きな課題になっているのではないか、と思っています。


工藤:今回のテーマについてのアンケートに、沢山意見が来ています。2つ、3つ紹介させてもらいます。今日の議論にも出たのですが、「世界的に経済が危機的状況にある中で、本当にCOP17という展開を続けるべきなのかも含めて、どう考えればいいか、判断がつきかねています」という意見でした。確かに、地球環境の問題はあるのですが、至るところで経済が厳しい状況にあるという問題がある。だから、「今更蒸し返してもしょうがないけれど、温暖化の科学的根拠をもう少し出すべきじゃないか」とか、これが正直な感想だと思います。

一方で、「3.11の震災と原発事故以降、マスコミ報道も含めて、自然エネルギーなどがまともに取り上げられていない」と。「切羽詰まった状況にもかかわらず、地球温暖化対策の基本である京都議定書のことが完全に忘れ去られている現状に危機感を覚える。だから、エネルギーの恩恵を我々はいかに受けるべきか、ということも含めて、抜本的な議論をしていかないと、まずいのではないか」という意見でした。それから、「日本はこの問題についてリーダーシップをとるために、何を説明していくべきなのか。だけど、今の民主党政権にはそういうテーマについて、リードする人はいないのではないか。少なくとも他党でもいいから、そういうことを考える人を南アフリカに送ってほしい」という声もありました。かなり重要な問題にもかかわらず、何かの形で思考が止まっている。それが、さっきの本音と建前なのかもしれないし、そういう要素もあったと思いますが、その中で、COP17が行われるわけですよね。これに対する日本政府の対応、日本の交渉当事者として、何を期待するかということについて、皆さんに答えていただければと思います。

松下:色々と問題提起されて、全てにお答えはできないのですが、1つは国全体の方向がきちんと出ていないということがあります。日本でも各自治体で色々と新しい取り組みが始まっています。震災が1つの契機になったということはあると思います。再生可能エネルギーを中心とした取り組みを始めているところもあります。例えば、長野県の飯田市がよく取り上げられますが、ここはいわば、NPOが中心となった会社をつくって、そこが、現在0円で太陽光電池を設置しましょうということになっています。0円というのは、初期費用を0にする、いわゆる一種の融資をするわけです。それで、売電によって初期投資を回収する、一種の地域の資金や技術を使って、金融をうまく絡めて広げていく、という仕組みをつくっています。それから、メガソーラーもあるわけです。メガソーラーと言っても、外から持ってきたメガソーラーではなくて、地元の企業が関わって、地元で電気が扱えるようにする。そういった地域との関わりで、その地域に根付いた温暖化対策、再生可能エネルギー、産業興し、地域興しが起こってくる。

工藤:この流れは止められないということですね。

松下:それは、みんな学習していますから、そういう経験を海外の事例なども交えつつお互いに勉強し合って、広めていく。それから、今はまだ小さい事業者かもしれませんが、そういう事業者が、各地でどんどん起こってきています。1つは、民間のイニシアティブ、それから自治体のイニシアティブを、国としてはできるだけ後押しできるような制度をつくっていくことが必要だと思います。

工藤:高村さんと蟹江さんには、こういう風な環境を踏まえて、COP17で日本政府に何を期待していますか。

千載一遇のチャンスを日本政府は生かして新たな枠組みを

高村:ある意味で、日本政府も求めてきた米中など主要国が入った1つの枠組みの交渉を始める、非常に重要な、可能性は非常に低いかもしれませんが、ある意味では、千載一遇のチャンスであり、これをつかまえないと次にいつくるかわからない、そういうタイミングだと思っています。そういう意味では、単純延長ではなくて、むしろそういう合意ができることを条件にしたときに、京都議定書のもとで何らかの取り組みをする、一種の柔軟性をもって、交渉に当たっていただきたいと思いますし、それが日本の温暖化対策の足を止めないということに繋がるのだと思って、期待しています。

工藤:何が何でも、答えを出して帰ってきてほしいということですね。
高村:そうですね。
工藤:また決まらないで終わってしまったら、ガクッときちゃいますよね。

高村:これ、何も決まらないと、また交渉自体が延びていくだけですから、おっしゃる通りです。

蟹江:やはり、温暖化は僕たちが今直面している問題だと思います。我々、地震のリスクがあって、それはこの前明らかになったけれども、その前は、やはりこれほど大きな地震が来るとは思っていなかった。でも、リスクはあるとは分かっていたので、それなりの対策をそれなりにしてきたわけですよね。温暖化も同じで、リスク管理の問題だと思うのですね。なので、多くの学者は、温暖化は起こると言っている。そのために、今やらなければ、本当に取り返しのつかないことになってしまう。それを再認識して、そのためには何をやらなければいけないのか、ということを考えてもらいたいですね。実際の交渉自体に関しては、高村さんがおっしゃったように、日本政府にはうまい妥協をしてもらいたい、と思います。やはり妥協しないと、先には進めないと思います。COP6では、京都議定書を活かすために、アメリカが離脱した後、日本はうまく妥協しました。やはり、そのようなうまい落としどころを見つけて、妥協していくということが1つの日本の知恵ではないかと思います。その着陸点を見出していくということが大事だと思います。

工藤:確かに、政治がそういう風な形に強い意志を持って、交渉に臨むためには、有権者側も自分の問題として考えないと緊張感が出ないですよね。何かやっているねとか、こんなこと言っているの、というレベルではダメなので、私たちも地球環境、エネルギーの問題をきちんと継続的に議論をしたいと思っていますので、また、みなさんにもご参加いただければと思っています。

蟹江さんと高村さんは南アフリカに行かれるということで、またご報告いただければと思います。皆さん、今日はありがとうございました。


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