2011年11月23日(水)
出演者:
蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)
高村ゆかり氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)
松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
11月23日の言論スタジオでは、蟹江憲史氏(東京工業大学大学院社会理工学研究科准教授)、高村ゆかり氏(名古屋大学大学院環境学研究科教授)、松下和夫氏(京都大学大学院地球環境学堂教授)をゲストに招き、「COP17で問われる課題とは何か」をテーマに議論が行われました。
冒頭で代表工藤は、「11月28日から南アフリカのダーバンで気候変動枠組条約の第17回締約国会議「COP17」」が開かれるが、言論NPOが事前に実施したアンケートでは、このCOP17自体をよく知らないという方が多い。改めて、この会議の行方を踏まえて、京都議定書以後の新しい枠組みと地球温暖化対策について話し合いたい」と述べ、①地球温暖化対策の現状とCOP17の位置づけ、②温暖化対策の今後の課題について議論が進められました。
第一の点について、まず、松下氏は地球温暖化をめぐる国際交渉を振り返り、「現在最大の問題は、京都議定書の第一約束期間が終了する2012年以降の国際的枠組みをどうするかということ」であり、「本来は2009年のCOP15において新しい枠組みが出来るはずだった」とその経緯を説明。「今回のCOP17でその新しい枠組みを合意できないと、2013年以降に空白期間ができてしまう」とし、また、高村氏も「今回のダーバンでの会議が京都議定書後の空白ができるかできないかの大きな分かれ目」と述べて、温暖化交渉においてCOP17が非常に大きな意味を持っていることを指摘しました。また、開催を直前に控えた各国の気運について、三氏は、京都議定書の延長や全ての主要国が入った新しい一つの枠組みづくりに向けた交渉とそれまでの間の京都議定書の暫定的な延長などの動きはあるものの、「新興国の台頭はもちろん、途上国の中でも意見が分かれるなど、国際的な政治力学が変化している」(高村氏)、「欧州経済危機や日本の震災復興に追われ、温暖化対策の政治的な位置づけが低下している」(蟹江氏)といった理由で、合意に向けた情勢は極めて厳しいとの見方を示しました。さらに、松下氏は環境政策についての日本のスタンスについて触れ、「民主党政権は、マニフェストで「2020年までに温室効果ガス排出量90年比25%減」という意欲的な目標を掲げたにも関わらず、それを裏付ける国内政策が実施されていないために、それが国際交渉の場で生かされていないのが現状」と問題点を指摘し、蟹江氏はさらに「外交交渉での政府の発言や対応も政権交代以後も変化はなく,環境重視という政府の立場は本音と建て前なのか国際交渉に連動していない」と語りました。
今後の課題については、蟹江氏は「近年注目を集める「グリーン・エコノミー」もそうだが、温暖化対策は、エネルギー政策と表裏一体。二つをもっとリンクさせながら考えていくべき」と指摘、高村氏も「新興国の中ではエネルギー効率を高めるための再生可能エネルギーの導入など、エネルギー問題に関心が高まっており、そこをいかに捉えて新興国をこうした取り組みにいざなうかが課題」としました。高村氏はまた、日本政府のエネルギー政策がたしかに原子力発電による電力供給を前提としていたとしつつも、「需要側の対応はまだまだ可能だ」と強調。「あたかもすべて一から考えなおそうというのではなく、再生可能エネルギーの拡大や省エネなど、私たちができることを積極的に実施すべき」と述べました。
最後に蟹江氏は、「温暖化はいま、私たちが直面している喫緊のアジェンダ。今対応しなければ大変な結果になることを再認識し、そのために何をしなければならないのかを改めて考えるべき」と述べ、三氏ともに、COP17の交渉において政府が合意のために巧みに落とし所を見つけることに期待感を示しました。