米中専門家インタビュー:アメリカ大統領選と米中新冷戦【外交・安保編】アジアで米中が軍事衝突するリスクはあるのか

2020年10月23日

 アメリカ大統領選投票日まであと一週間。言論NPOは、11月の大統領選挙に向け、9月~10月の間に「アメリカ大統領選と米中新冷戦」と題して、米中両国の経済・通商分野、外交・安全保障分野の専門家の専門家7氏にインタビューを行った。

 第2弾は、外交・安全保障編である。本年7月、マイク・ポンペオ国務長官が行った「共産主義の中国と自由世界の未来」と題した演説は、イデオロギー面でも中国との違いを強調するなど対決姿勢を鮮明にしている。その後、中国は南シナ海に中距離弾道ミサイル4発を発射するなど、今や米中対立は貿易摩擦を越え、安全保障も含めた全面対決へとエスカレートしている。今回は、米中の政府をはじめ、長年、米国と中国の外交・安全保障政策に実際に関わってきた、米中の外交・安全保障専門家4氏に現在の米中関係、そして安全保障面でのリスクについてインタビューを行った。

 インタビューに応じたのは、中国政治協商会議全国委員会常務委員・外事委員の賈慶国氏、中国人民解放軍のシンクタンクである中国国際戦略研究基金会にて学術委員会主任を務めた張沱生氏。そして、トランプ政権で国家安全保障会議(NSC)上級部長を務めたティム・モリソン氏、アメリカ上院軍事委員会にて政策ディレクターを務めた、マーク・モンゴメリ氏の4氏である。

 ここ数か月の米中両政府の動きから、「米中新冷戦」の色がより濃くなっているが、世界の二大大国は今、「冷戦」にあるのか。私たちはまず、その核心から迫った。

記事はこちら


米中関係は『新冷戦』に極めて近い状況

 「米中は『冷戦関係』に極めて近いところに来ている」-米中の専門家4氏が一致した点だ。そして、アジア太平洋地域での偶発的な事故が米中間の軍事衝突につながる危険性を厳しく指摘する。

 中国の専門家は、米中は冷戦まで至っていないが、特に南シナ海や台湾海峡で偶発的な事故が軍事衝突につながる危険性に懸念を示した。c1_s.png中国人民解放軍のシンクタンクである中国国際戦略研究基金会にて学術委員会主任を務めた張沱生氏は、アメリカ現政権は、特に2020年に入ってから新型コロナ対策の失敗と大統領選挙対策、さらには、中国の台頭を恐れ、中国の問題点を誇張し、イデオロギー面での差異を過度に強調するなど危ない手段に出ている挙げ、「米中がこのような道を進めば最終的には全面対立になる」と警告した。


tim_s.png アメリカ側も同様に厳しい認識を示した。トランプ政権で国家安全保障会議(NSC)の上級部長を務めたティム・モリソン氏は、「中国は少なくとも2012年から西側に政治的、経済的な戦争を仕掛けている」と指摘する。モリソン氏は、中国が米国やインドなどの周辺国、また香港・台湾への強硬的対応を挙げ、「中国は多くの問題を引き起こしており、どれも危険な段階へとエスカレートする可能性がある」と強調した。


mmongomery_s.png また、アメリカ上院軍事委員会にて政策ディレクターを務めた、マーク・モンゴメリ氏は、米中は未だ「競争関係」としながらも、中国が内政的に圧力を受け、強硬姿勢に傾けば、米中冷戦を引き起こす可能性を指摘。加えて、米国民の多くが対中関与政策は失敗との認識を持っている点を伝え、関与することで米中が同じ政治・社会制度を持ち、似たようなイデオロギー的立場になるという考えは放棄すべきだと断言した。


中国の近年の強硬的な行動をどう見るか

 次に論点になったのは、中国の近年の強硬的な行動である。南シナ海での軍事活動の活発化、香港、ウイグルでの人権問題、そして戦狼外交など、中国政府の行動はより挑発的、高圧的に見える。この行動をどう見るべきか、米中両専門家に問いただした。

jia_s.png これについて、中国側の専門家はあくまでもアメリカの強硬姿勢への反発に過ぎないと話す。中国政治協商会議全国委員会常務委員・外事委員の賈慶国氏は、アメリカが中国についての間違った情報を流し、厳しい手段を取っており、これに対しての中国国内の反発とアメリカへの怒りを受け、米政府に対して強気の外交手段に出ていると述べる。

 軍事を専門とする張沱生氏も同様の点を指摘する。張氏は、トランプ政権が経済、社会、科学技術の面で中国とのデカップリングを進めていること、過度に政治制度やイデオロギー面での違いを強調すること、そして南シナ海や台湾で軍事的緊張を高めていることを挙げ、「中国はこれらのアメリカの行動に対応しなければならない」と主張した。

 しかし、これについて真正面から反発したのは、トランプ政権で国家安全保障会議(NSC)上級部長を務めたティム・モリソン氏である。「南シナ海の軍事化、香港国家安全維持法、ウイグルやチベットでの人権問題は、すべて中国が自ら行ってきたことであり、様々な問題を作ってきたのは、中国である」と断言した。そして、巨大市場をてこに他国への影響力を強める中国に対し、どの国も警告してこなかった問題点を指摘し、「今こそ米国、日印豪、欧州が協力し、中国の問題行動に明確なレッドラインを突きつけるべきである」と述べた。


南シナ海と台湾海峡での緊張をどう和らげるか

 4氏の専門家のインタビューの中で、もう一つ全員が一致したことは南シナ海と台湾海峡で米中軍事衝突のリスクが高まっている点である。

 中国の軍事専門家・張沱生氏は、南シナ海で米国が航行の自由作戦や偵察を常態化させていること、軍艦や飛行機が多数通過していること、周辺国の基地に米軍が寄港していることを挙げ、「これらは、中国側からすれば、アメリカによる軍事化そのものに見える」と主張した。

 また、張氏がより軍事衝突のリスクを強調したのは、台湾海峡である。張氏によれば、台湾海峡の場合、軍事的緊張の高まりだけではなく、台湾独立派やアメリカの一部の勢力が中国を挑発し、中国が行動に出ざるを得ない状況になることを指摘。そうなれば不測の事態よりはるかに大きな衝突になると警告した。

 これに対し、アメリカ側の専門家も台湾問題が最も困難な問題であると認識している。しかし、考え方は、中国側とは異なり、米国の同盟関係を強化すること、また米国の同盟国が自国の国防に予算を投じ、責任を持つことで、中国の間違った行動をけん制できると話した。


米中対立下での日本の役割は

 米中対立が国際政治における中長期な基調になる中、日本の役割は何か―最後に4氏に尋ねた。

 中国側の専門家・賈慶国氏、張沱生氏が強調するのは、「日本は米国、或いは中国どちらの側にも付くべきではない」という点である。賈慶国氏は、「日本がどちらかの側に付けば、どちらかを敵に回すことになり、日本の利益にならない」と話す。さらに、「米中の懸け橋になるように心掛け、両国が対立するのではなく話し合いや交渉が行わるように努めるべきだ」と締めくくった。張沱生氏も、「中米関係が安定し、新しい冷戦を避けるためにも日本は積極的、建設的な役割を果たしてほしい」と語り、日本はその役割ができるはずだと付け加えた。

 他方、米国側の専門家の認識は異なり、日米をはじめ米国とその同盟国間での協力・連携を深めることが、中国がこの地域で誤った行動に出ないようにする抑止力になると主張する。

 モンゴメリ氏は、「米国は、中国にない同盟国というアセットを大事にして、米国を軸にした強い同盟関係を示すことで東アジア地域の平和と安定を維持することができる」と強調した。モリソン氏も同様に米国の同盟関係の重要さを指摘する。「米国の強みは同盟国である。中国共産党と同盟関係になりたい国はいない。それが中国の弱みだ」と話す。

 あと10日後には、アメリカ大統領選挙の投票日が迫っている。トランプ政権の4年間で米中二か国の大国間関係をはじめ、国際貿易からグローバル課題への国際協力の枠組み、アジア太平洋地域の安全保障は大きく変化した。米中関係のみならず、アジア地域や世界の将来に大きな影響力を持つ大統領をアメリカ国民は誰に選ぶのか。


nishimura.jpg

記事:
西村友穗(言論NPO国際部部長)
インタビュー編集アシスタント:
大橋美咲、竹鼻明(オックスフォード大学大学院)、畑仁美(国際教養大学4年)


1 2 3 4 5