米中対立を考える第3話(全4話)米中対立における経済のデカップリングは避けられないのか

2020年11月13日

 言論NPOが行っている特別企画「米中対立の行方」の第四弾では、米中対立によって、世界経済はデカップリングを避けられないのか、と題して議論を行いました。

 議論には、渡辺哲也・経済産業研究所副所長、菅原淳一・みずほ総合研究所主席研究員、河合正弘・東京大学名誉教授、猪俣哲史・ジェトロ・アジア経済研究所上席主任調査研究員の4氏が参加しました。司会は言論NPO代表の工藤泰志です。


既にハイテク技術等の分野では米中間のデカップリングは起こっているものの、
全面的なデカップリングはアメリカ自身も考えていないとの認識で一致

 まず、4氏は米中対立の問題について、コロナの影響で促進された面はあるものの、そもそも構造的な変化であり、アメリカで政権が替わっても基本的には変わらないとの見方を示し、現在の状態を「新常態」とみなして、それに対応していく必要があるとの見方で一致しました。

 その上で、ハイテク技術や機微技術の分野では、米中間で既にデカップリングが起こっており、今後も進んでいくこと、一方で、世界中が中国の供給力に依存するとともに、中国市場を手放すことは企業の死活問題にも直結するため、経済的な観点では米中の完全なデカップリングは不可能であり、アメリカ自身もそうした考え方はないとの認識でも一致しました。


米中対立は構造的な問題であり、「新常態」として対応していく必要

Kawai.jpg 現在の米中対立の状況につて河合氏は米中対立による貿易量の縮小や、貿易障壁の拡大、さらに米中間のサプライチェーンの分断をもたらしており、アメリカの世界経済に占める経済的なプレゼンスの低下、中国の台頭などから、米中対立の影響は構造的なものだと語りました。

Sugahara.jpg 菅原氏は、こうした構造は、リーマンショック辺りから始まっており、トランプ大統領の誕生により自国第一主義や保護主義が加速し、コロナが顕在化させたとの見方を示しました。その上で、こうした構造的な問題や大きな流れは、アメリカの大統領が替わっても変化はなく、我々としては現在の状態を「新常態」とみなし、それに対応していくことが必要だと強調しました。


中国を完全に切り離すというデカップリングは不可能

200910_kudo.png これに対して工藤から、今後「新常態」が続くとして、中国を完全に切り離すことは可能なのか、との疑問が投げかけられました。

 菅原氏は、完全に中国を切り離すことは現実的に不可能であり、アメリカ自身も中国にアメリカ製品や農産物を買ってくれと言っており、中国を切り離すという全面的な分断は誰も考えていないのではないかと語りました。

Inomata.jpg 猪俣氏も菅原氏と同様の見方を示した上で、米中対立は米ソ冷戦時代に比べて、グローバル・バリュー・チェーンの発展によって互いの経済依存関係が深まり、技術革新によって経済がデジタル化し、エコノミック・ステートクラフト(経済をテコに地政学的国益を追究する手段)の破壊力とスピードが、米ソ冷戦時代とは格段に増していると指摘し、米中の巨大大国がベストの距離感を探っている試行錯誤の段階にあると説明しました。そして、両国の偶発的な衝突の可能性を低めるためにも、管理されたデカップリングを積極的に推進すべきではないかと提案しました。

 河合氏はコロナの拡大によって、世界中が中国の供給力に依存し、最終消費財の生産だけではなく、中間財の分野でも重要な役割を果たしていることが明らかになり、中国の国内経済の拡大に伴い、世界中の企業にとって中国市場が重要になっている現在においては、全面的なデカップリングというのは経済コストの点、経済的なメリットの点から見ても考えにくいと語りました。


日本は、米中に対して国際協調体制への回帰を求めることが重要

 最後に工藤は、これまでの自由貿易の仕組みや、多国間の国際貿易、自由秩序を再構築することは、将来的に可能なのかと問いかけました。

 菅原氏は、国際協調体制の再構築を図っていくことについて大きな異論はないとしながらも、望ましい姿と、今後歩むべき可能な道というものの間に乖離があるとし、米中対立が激化する中で、安全保障、人権や民主主義といったイデオロギーまで対立が及んでいる状況では、国際協調体制を再構築するかという問題は非常に難しいと指摘。それでも、日本としては同士国を増やしていって、米中に対して国際協調体制への回帰を求めることが重要だと語りました。

Watanabe.png 渡辺氏も米中を国際協調にどのように組み込んでいくかが重要である、と菅原氏の見解に同意しました。さらに渡辺氏は、日本はグローバルな社会で生きていくしかなく、グローバル社会でのルールや秩序をどうやって守って進化させていくか、ということは日本自身の課題でもあると強調。そのために、世界各地のインテリジェンス、経済の情報を集めてリスクはどこにあるかを分析する、ということを日本が能動的にやっていく必要がある、と強調しました。

 猪俣氏は、米中間の偶発的な衝突の可能性を低めるためにも、管理されたデカップリングが重要であり、それを管理する国際協調という枠組みが必要になるのではないか、との見方を示しました。

 河合氏は、アメリカにとっての同盟国、あるいは友好国との間での国際協調を取り戻すということが重要だと指摘。こうした国際協調ができれば、中国に対して、WTO改革等を含んだかなり有効なプレッシャーをかけていくことができると語り、4氏は今後も国際協調が何らかの形で重要になってくるとの認識でも一致しました。

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