このプロジェクトは、市民社会の論壇をつくり上げることを目的とし、各分野の研究者やNPO・NGO関係者などの参加を得ながら、今後「強い市民社会をつくる」ための議論を広範に行っていくというものです。
本編集委員会は、議論づくりに際して問題提起を行い、議論を社会に広く発信していくという役割を担っており、田中弥生氏(大学評価・学位授与機構准教授)を主査として、現在計9名の委員で構成されています。
言論NPOでは編集委員会で出された意見や提案をもとに、「市民を強くする言論」プロジェクトとして様々な活動を進めていきます。今後はNPO・NGO関係者による座談会や、市民社会で活躍されている方々との対談、新たなメールマガジンの配信などを行っていく予定です。
編集委員コメント/プロフィール
政権交代という大きな節目を迎えましたが、その後の様々な展開をみるにつけ、これほど有権者の言動が問われている時はないと実感しています。政権を交代させたのは有権者ですが、その後の議会や政府の行動様式も有権者が織り成す世論に大きく左右されると思うからです。しかし、そのためには、私たち一人ひとりが自らの生活だけでなく他者や社会にも思いを馳せて事物を冷静かつ知的に捉えてゆく力を備えてゆく必要があると思います。民間非営利組織は、ボランティアや寄付などの参加機会を通じて、人々に社会をみる眼や力を養う重要な場を提供しています。「市民を強くする言論」を通じて、エクセレントな非営利組織と各界の識者をつなぐことに寄与できればと思っています。
国際公共政策博士、専門は非営利組織論、評価論。政府系金融機関、東京大学で客員准教授を経て現職。P.F.ドラッカーのもとで非営利組織の経営・評価について学び、同氏の著書を翻訳。東南アジア、南部アフリカなどのNPO、NGOの支援・研究に着手。著書に「NPO新時代 市民性創造のために」(明石書店)、「NPOと社会をつなぐ」東京大学出版会、「NPOが自立する日 行政の下請け化に未来はない」日本評論社など。
「強い市民社会を築いていくには」と真正面から議論しようとすると、一人一人の市民が受け止めて行くには、あまりに重い問題なのかもしれません。私は、そうした一般論はいくら展開してもあまり意味がなく、個人が個人が直面する個々の問題を解決しようとする意思の集積が、強い市民社会の礎(いしずえ)だと信じています。一人一人の市民が具体的な課題や問題から逃げずに、悲観することもなく、楽観することもなく、粘り強く解決していくことを継続していくしか、埒があかないのだと思っています。
1960年生まれ。京都大学経済学部を卒業し、住友信託銀行に勤務後、スタンフォード大学経済学部客員研究員を務める。92年にマサチューセッツ工科大学経済学部博士課程を修了、 Ph. D.を取得。その後はブリティッシュ・コロンビア大学経済学部助教授、京都大学経済学部助教授、大阪大学大学院経済学研究科助教授を経て、01年より現職。日経図書文化賞、日本経済学会石川賞、エコノミスト賞を受賞。著書に『成長信仰の桎梏:消費重視のマクロ経済学』(勁草書房)、『資産価格とマクロ経済』(日本経済新聞出版社)など。
日本経済史という専攻分野を拠点にして、企業とは何か、営利と非営利との区別はどのような意味を持つのか、経済発展とは何か、経済成長率は何を表現し、何を表現していないのかなどの問題を、生きた現実に即して考えていきたいと思っています。
理論という道具に振り回されないこと、流行りに逆らうことを信条にしているへそ曲がりですが、誰もが自らの意思で自らの進路を選択することができる社会という夢を実現するための条件が何かを探しています。
1949年、東京に生まれる。東京大学経済学部、同大学院経済学研究科博士課程を中退。1979年東京大学社会科学研究所助手、1981年同経済学部助教授、1991年同教授 現在に至る。
「市民社会が強い」とは、社会を構成する市民のひとりひとりが強いということだと思います。私の専門分野である防災において、「強い市民」とは、災害について理解し、事前、最中(直後)、事後の各フェーズに、適切な「自助」対策を講じることのできる人だと言えます。そしてこのような人々が多く住む社会が、災害に対して強い社会となるのです。危機管理力や防災力向上のためには、個々人が当事者意識をもって、災害状況を考える習慣を身につけることが重要となりますが、このときのポイントは、「他人事(ひとごと)」意識をいかにして「自分事(わがこと)」に変えられるか、ということだと思います。このように、防災に強い社会を考えることを通じて、「強い市民社会」とは何か、それはどのように実現可能なのか、ということを考えていきたいと思っています。
専門は都市震災軽減工学。東京大学大学院修了。日本学術振興会特別研究員、東京大学助手、助教授を経て、2004年より教授、07年より所属センター長。研究テーマは、構造物の破壊シミュレーションから防災の制度設計まで広範囲に及ぶ。中央防災会議専門委員ほか、多数の省庁や自治体、ライフライン企業等の防災委員を務める。書籍に『被害から学ぶ地震工学』、『東京直下大地震生き残り地図』、『じしんのえほん(絵本)』、『間違いだらけの地震対策』など。受賞に日刊工業新聞技術・科学文化図書賞(大賞)、土木学会国際活動奨励賞など。
私は市民社会や市民運動の政治学を志して学者となりました。私は日本の学術が、市民や市民社会の現実に正面から向き合わず、独りよがりの観念論や経験的な印象論、理論の輸入学から論を組み立てることを残念に思ってきました。また世界の、特に非西洋の社会への視点も希薄で、事実を知ろうとする態度そのものを欠いています。メディアの世界でも、偏見や思い込みからの論調が幅をきかせています。議論の原点としての事実認識に関して確かなものを提供し、どっしりとした骨太の議論ができる基礎を作りたいと思います。私自身、市民社会について、この10年余りで13カ国、5.5万件の組織資料を収集し、日本社会を相対化するとともに総体として捉える準備がようやく整ったところです。学者のための研究でなく、市民を強くするための研究にむけて、言論NPOから発信していきたいと思います。
1954年生まれ。大阪大学法学部卒業。大阪大学大学院法学研究科博士課程単位取得退学。法学博士(京都大学)。北九州大学助教授、コーネル大学客員研究員等を経て現職。利益団体・江京政策・市民社会を研究するとともに、日本政治学会理事を務める。主著に『現代日本の自治会・町内会』、『現代日本の市民社会・利益団体』(木鐸社)、『日本の政治』(有斐閣)など。
鳩山政権が掲げる「新しい公共」が絵に描いた餅にならないよう、市民社会セクターを巻き込んで、市民社会強化のための具体的な政策を立案し、実施しなければならない。ヒトとカネが必要であることは論を待たない。ヒトについては、企業や官庁で働く社員・職員が、夜間や休日にNPO/NGOで有給で働けるよう兼業規制を緩和することが有効だと思う。カネの面では、税額控除など強力なインセンティヴ効果を持つ寄付促進税制が必要だと考える。
1955年生まれ。大阪大学経済学部卒、M. Sc.(英London School of Economics)。博士(大阪大学)。経済企画庁(現内閣府)エコノミスト、大阪大学経済学部助教授などを経て現職。日本NPO学会の創設に参加し、06年度からは会長を務める。著書に『ノンプロフィット・エコノミー』(日本評論社)など多数。