震災から半年、被災地に問われている課題は何か ―相馬市の立谷市長に聞く

2011年8月28日

2011年8月26(金)収録
出演者:
立谷秀清氏(福島県相馬市長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


第三部 国や県でもない、基礎自治体が地方政府の覚悟で

工藤:議論を再開します。最後のセッションなので、課題をもうちょっと伺っていきたいと思います。1つはこういう場合の震災の被災地の中で対応するというのが、市町村、一番住民に近いところがかなり機能したという事例になっているのですが、国は一方で復興案をつくるということがあり、県庁という問題がある。基本的にこういう地方分権の本質そのものなのですが、今回の被災に対する取り組みが何かの1つの大きな問題提起をしているような気がするのです。そういう点から見てどうですか。


震災対応は基本的に基礎自治体の責任

立谷:僕は大いにあると思います。大いにあると思いますけど、僕は被災地のまっただ中にいますから、日本のためにこの際、地方分権とか何とかというほど余裕はありません。そのことをひとつ理解していただきたい。ただ、我々は地方政府です。ですから、地方分権とか何とかという意味ではなくて、これは地方政府として、そういう気持ちを持ってやっていかないと駄目です。というのは、孤立している方がいる。その方々を避難所に入れて、避難所をどうやってマネジメントしていくかというようなことは、もう全部我々がやらないといけないのです。国が何かやってくれるとか、県が何かやってくれるとか、待っていられません。ですから、我々の責任でやらなくてはいけない。例えば原発の風評被害で薬が入ってこないので、トラックを用意して我々が取りに行きました。ガソリンが入ってこない。相馬市が、相馬市内のタンクローリー屋さんをキープして、取りに行きました。それは、入ってこないのは、誰が悪いとかいっても仕方がない。悪い奴はいるのですよ、東京電力かもしれないけど、東京電力に文句を言ったって何もならない。どうにもならんのです。ここにガソリンが必要な人達がいるわけです、救急車もガソリンが必要ですから。あるいは食料だって必要なのだし、病院は医薬品が必要なのです。人工透析の薬が無くなったら死んでしまうわけです。ですから、避難させるよりも何よりも、今日、明日に人工透析をやる人、その人たちの健康を我々が責任を持って維持しなくてはいけない。それは国でもない、県でもない、とにかく自分らでやらないといけないのです。

避難民にご飯を食べさせるということを、我々がやらなくてはいけない。水も我々がやらなくてはいけないのです。それを県から届かないという文句を言うこと自体に意味はないです。ですから、あらゆる判断は自分たちの責任で、あるいは物資の調達も自分たちの責任でやるべきなのです。国から県から何かが来るのかといっても、来ないわけです。後から来ましたけど。ですから、一番ありがたかったのは自分の友達の市長に電話をかけて、米を持ってきてくれとか、給水車を持ってきてくれとか、自分の知り合いの医者たちに電話をかけて、手伝いよこしてくれとか、全部我々の責任でやらないといけないわけです。 

今後、地域をつくっていくとか、あるいは地域再生、新生ということについて、やはり相馬市の財政力だけでは無理ですから、国の力、県の力ということになってきます。ですから、そういう大きなビジョンの中で、国とか県とかの力を引っ張り出して、どうやってやらなくてはいけないかという立場が出て行きますけど、やはり震災対応は基本的には基礎自治体の責任です。やはり地方政府だという気持ちを持ってやらないと駄目です。


国や県がボランティアに横やりという話も

工藤:今の話は非常にピンと来たというか、この前この言論スタジオでも、お医者さんたちと議論したのですが、やはりみんな自分なのです。何か、厚労省とか政府とかではなくて、自分の友達に頼んでバスを手配したりするわけです。政治家も行っていましたね、もう個人でやるしかなくなっていると。多分それに近い感じのような気がします。そのときに、みなさんがいっていたのは、国とか、都道府県が何か、逆に邪魔をしていたと言っていました。何か色々なことをやると、色々な文句を言われたと。

立谷:そういうところも若干ありました。
工藤:それはどういうところなのですか。

立谷:ボランティアで来てくれた人がクレーム付けられたみたいなことがありました。飯館村の村長さんから、住民が不安がっているから、詳細な健康診断をやってくれということを頼まれまして、上先生たちにお願いしました。ところが、ボランティアで来た先生に、そういうことをすると地域が混乱するではないかというようなことを、言われたという話がありました。

工藤:それは、勝手にやるなという話ですよね。

立谷:相馬市の場合も、玉野地区というところの健康診断をやりました。ここは相馬市でも飯館村に近いところで、飯館村ほどではないのですが、若干、放射線量が高いところです。そこでは、やはり住民は不安がります。そこの詳細な健康診断をやりました。私も医師として10年ぶりに参加しました。健康診断は数字だけですけど、その際に避難民の話をよく聞くのです。色々な不安に対して1人30分くらい話を聞くというところから始めました。そこに参加してくれたドクターに文句が来たのです。要するに、そういうことをやると、住民の負担が増えるから、そういうことをやるのは適切でないと。私、よく分からなかったですね。希望しない住民はやらなかったのですから。

工藤:一言だけでこの問題に移りたいのだけど、この前国会で市長の発言を見ていたら、地方分権の議論で、国の出先機関を廃止しろという議論があるのだけれど、今回の震災ではそれが役に立ったと。だから、今までの設計の建て方をもう一回考えた方が良いのではないかという話がありました。

立谷:あれは中央政府廃止論でしかないのです。中央政府の縮小論でしかないのです。非常に無責任です。そういうと、話が通ると思って、現場を分からない連中がやるのです。例えば国道の補修だとか、あるいは国道の建設とか、今回道路がいかに大事かということについて、みなさんよく分かったと思いますけど、道路が無かったらみんな死んでいましたから。

工藤:津波も止めましたよね。

立谷:そうです。津波を止めるのと、「くしの歯」作戦というのがなかったら東京に医薬品を取りに行けませんでした。ですから、道路がいかに大事かというのは皆さんよく分かったと思うのですけど、この道路整備は国交相の東北地方整備局というのがやるのですが、こういう所は無駄だから、地方に任せろと。その地方はどこだと思います。

工藤:県ですね。

立谷:そうです。ただ、はっきり言いますけど、県にそんな能力はありません。今回よく分かりました。県にそんな能力ないですよ。県だって食中毒おこして、下痢で脱水になってしまうだけですから。これは、そうやって地方分権だ、地域主権だという方向にいこうと思ったら、大きな間違いです。やはり国のやること、それから我々のような基礎自治体がやることをちゃんと明確にしなくてはいけない。その中間にある県がどういう役割を果たすのかということも明確でなくてはいけない。そこで、県に国の出先を全部押しつけたら、これは機能しません。今回、私はハードの面については、東北地方整備局の局長と2人でずっとやってきました。これは非常に役に立ちました。

工藤:僕たちも現場とか市町村がやはり中心となるべきだと思っています。僕たちは政府や政策の評価をやっているNPOでもあるのです。そういう主張をやっていたので、非常にその発言にピンと来ました。

立谷:だから、地方の出先機関を廃止しろというのは、現場を知らない格好付けだけだと思います。はなはだ無責任だと思います。

工藤:あと、もう1つ、ここは別の問題があるのですけれども、市民の参加の問題です。つまり、今回みたいな相馬市の場合は市長をベースにして非常にビジョンやアジェンダ設定がきちんとしています。そこに全国の支援が入るわけですよね。この融合をどう考えればよいかという問題があったのですが。


行政がテーマを絞って市民参画のNPOづくりに

立谷:市民参画といいますね。市民参画というのを、烏合の衆の参画にしては駄目なのです。テーマを決めてやらないと駄目です。市民参画、例えば、ゴミを少なくしようとか、衛生状態を良くしようとか、これは立派な市民参画です。それから、地域防災の組織をつくって、いざというときの体制をつくっておきましょうというのも立派な市民参画ですが、あまり注目されません。ボランティアみたいな市民参画の方が注目されるけど、ボランティアというのは一歩間違うと烏合の衆なのです。今回で言えば、「炊き出し」。おにぎりの炊き出し、おにぎり握りなどは、市民の力が大きく発揮されました。彼らがいなかったらできませんでしたから、そういう点では市民の力は非常に大きかった。それから、被災直後に市民から、寒かったから毛布などを色々募ったのですけど、そういうところでの市民の気持ちというのは、ありがたかったです。今、市民参画というのはある程度テーマを絞ってやっています。相馬市はこれまで行政でNPOをずいぶんつくってきました。こっちが主導して、できたら市民の人に任せる。その地区のおじさんたちに、NPOをつくってこのことをみんなでやってくれと言うわけです。その方が予算も決断もちゃんとして良いのだと。場合によっては、市の委託も一部お願いするからと。そうしないと、彼らに全部やれと言ったって無理です。ですから、こっちである程度NPOとして認可を受けるまではお手伝いするのです。例えば、全国最大級のパークゴルフ場があるのですが、これはNPOが運営しています。そういうものが相馬市ではいっぱいあります。今回も「はらがま朝市」というNPOをつくりました。これは被災した仲買業者の方々によるものですが、これがとても大きな力を果たしています。今、相馬市が行政支援員として、リヤカー部隊をつくりました。16人のリヤカー引きのおばさんたちを雇って、仮設住宅の一棟一棟の間を声かけながら歩くのです。そうすると買い物弱者対策になるし、孤独死対策にもなります。

工藤:そうですね。コミュニケーションもできますもんね。


被災した子供たちの学力向上を図る

立谷:これはとても良かったなと思っています。彼らが持ってくる食材をどうするのと。この「はらがま朝市」というNPOがバックアップしている。食材だけではなくて、歯ブラシが欲しいから今度持ってきてよと言われたら、えらいですよ、スーパーまで買いに行くのですから。儲けゼロですが、そういうことをしなくてはいけない。仮設住宅の被災者に生活物資を配給する、本当は魚が今捕れないから、魚を食べさせたいとかから始まったのだけれども、どんどんテーマが、需要が出てくるわけです。それにフレキシブルに答えているわけですね。それから、PTSD対策も臨床心理士とか、色々なところから集めて、NPOをつくってやっています。これについては、仕事が増えてきたら、多分市民の力も必要となってくると思います。というのは、今PTSD対策ですけど、これを話すと長くなりますが、被災者の子供たちの支援として、もう1つ考えて行かなくてはいけないのが、学力向上です。その他にも学力向上のために色々なアイデアがあるのですけれども、一番は被災した子供たちの学力をどうやって向上させるかということについては、今、宮城教育大学の学生たちが勉強を教えに来ています。

工藤:これは自発的に来ているのですか、それとも頼んだのですか。

立谷:頼みました。やはり市内のインテリジェンスの高い人達が家庭教師をやってくれるとか、そういう風なことも将来的には視野に入れなくてはいけないなとは思っています。

工藤:今の話は、課題設定とかをきちんと理解した上でボランティアがやってくれないと、機能しないという状況があります。ので、行政がそれを提案している、と。そういう問題はあるのだけれど、将来的な日本の先で見ると、市民がある程度、課題設定を自分でちゃんと自己認識して、協力し合うような状況になる社会がいいと思っているのです。そこまではまだ遠い感じがしますか。率直に言って。


ボランティア活動の継続にはNPO化がいい

立谷:人口3万8000人ですから。そんなに人はいないですね。人がいない割には相馬いっぱいNPOありますよ。それは、そういうボランティア的な活動をしたいという方々に行政としては支援をしたい訳です。例えば公園を管理するNPOなんてあります。そういうところに行政が支援をするに当たって、やはり継続性が問題なのです。継続性を確保するには、NPOが一番いいのです。例えば、集落の独居老人の所に若い老人たちが声かけして歩くというNPOがあるのです。私は相馬に住んでいる限り、孤独死はなくそうと思って、ずっとやってきましたから、それを仮設住宅にその考え方を持って行っているだけなのですけど、そういう声かけNPOがあるのです。この声かけのようなことをしたいという人はたくさんいるのです。

ただ、一人のボランティアが色々なところの老人の集落を毎日回った場合、仮にその人が死んでしまったらどうするのですかという問題が出てくる。だから、そういうことをやるにはやはり継続性が一番大事なのです。継続性を確保するにはやはり集団で、1つの理念をみんなで共有してやるべきなのです。行政も絡まってバックアップするべきだと思うのです。だから、継続性を保てなくなるようなときは、行政の方から色々と、人集めも含めた支援をしないといけないと思います。ですから、公益的なNPOというのは、私はある程度行政と連携してやった方がよいと思うし、その方がリスクが少ないということが言えると思います。

工藤:はい。ありがとうございました。聞きたい論点はかなり話していただいて助かりました。本当は相馬市のビジョンとか、これからのことを聞きたかったのですが、時間がなくなりまして。これからのことについて一言どうぞ。


被災地を公用地化して、ソーラーパネルをしきたい

立谷:みなさん整然と暮らしていらっしゃるし、今、相馬市はある程度落ち着いてはいます。一応、これからのビジョンを持っているのですが、このビジョンが実現するかどうかというのは、国の対応待ちなのです。恐らく他の被災地も、みんな同様のテーマを持ってくるようになると思います。相馬は仮設住宅が早くできたりした分だけ、先を見ようとするところがあります。例えば被災地を公用地化して、どのように利用するのか。ソーラーパネルをしきたいと思っています。だけど、今は個人のものなのです。被災地の買い取りをやって、公用地として使わないと、次にいけないですよ。その枠組みというか、その方程式は未だできていない。それはいずれ作らざるを得ないでしょう。ですから、もうちょっと他の所も備わってきたら、よその市町村にも声をかけて、連携してやりたいと思っています。

工藤:なるほど。今の話僕も、ちょっとこの前、釜石市とかをずっと回ってきたら、同じ話をやはり、土地の問題ですね。されている方が多くいました。僕たちがこの3.11にこの言論スタジオを立ち上げていますので、ずっと継続的に議論をしていきたいと思います。私たちは、3.11のときからも言っていたのですが、復興は被災地主体、つまり地元が主体でやるべきで、僕たちはそれを何かの形でサポートするためにも、色々な形の認識を共有しようというところでこの議論が始まっています。そういう意味で、今日は被災地の現状、課題について、僕たち側で考える点はあったなと思っております。今日は相馬市長に出席していただきました。ありがとうございました。

立谷:ありがとうございました。

 1  


8月26日、福島県相馬市長の立谷秀清氏をお迎えし、被災地にとわれている現状、課題は何かについて議論しました。

1 2 3 4