2011年12月15日(木)収録
出演者:
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授)
増田寛也氏(株式会社野村総合研究所顧問)
湯元健治氏(日本総合研究所理事)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
まず代表工藤は、この日の議論から言論NPOとして野田政権に対する評価作業を開始したいと語り、その上で、①現時点での野田政権に対する評価はどのようなものか、②野田政権は国民に何を約束する政権なのか、③マニフェスト型政治のあり方、そしてそれが機能するためには何が必要なのか、などについて3氏に回答を求めました。
ただ、増田氏は「これは合格点ではない」とし、その理由として、党内融和を優先するあまりに国民に目が向いていない、という民主党の党としての構造的な問題を指摘しました。湯元氏は、震災からの復旧・復興や未曾有の円高に対応する経済対策等の最優先課題に着手していることなどを評価したと説明し、土居氏は「今後は、本腰を入れて消費増税やTPP参加に着手していくだろうという期待を込めた」と述べました。
工藤は、この日の議論に先立ち有識者を対象に行ったアンケートで野田首相の100日時点での評価が、歴代の政権の100日と比べて相対的に高い反面、100日後に関しては期待できない、という有識者が6割いるとし、野田政権の先行きには厳しい評価があることを説明しました。その要因として工藤は、党内での対立を押さえながらこれからの政策運営をしなくてはならないという党内事情と同時に、「課題から逃げない、という姿勢は評価できるがそれ以上でもない」などと語り、そもそも消費税の増税も社会保障財源の穴埋めがそのほとんどで、これから本格的に始まる増税の全体像や覚悟を国民に問うたものではなく、急速に進む高齢化の中で、財政再建や社会保障の持続に答えを出すものではないと指摘、それに対する意見も3氏に求めました。
これに対して、増田氏は「消費増税をやろうとする政権というのは分かるが、それをもって社会をどのようにしていきたいのか。そのビジョンが欠けているのは事実だ」と呼応。湯元氏は、菅政権が6月にまとめた「社会保障・税一体改革成案」に触れ、「(増税による税収を)社会保障のために使うと言っているのに、実際には5%のうち社会保障に使われるのは1%。国民に対するメッセージと実際の中身にズレがあり、それが現時点では説明されていない」とし、土居氏もこの点に関連し、「消費増税をしようがしまいが、社会保障改革はやらなければならないのに、それをどのように変えていきたいかという説明が全く足りない」と指摘し、政権としての意思が国民に届いていないことに危惧を表明しました。
続いてマニフェスト政治についての現状の評価と、そうした国民に向かい合う政治をどう日本で実現するのか、に議論が進みました。
この中で工藤は、有識者のアンケートでは、すでに政権交代時の2009年のマニフェストも事実上、修正や断念に追い込まれているのに、国民に信を問うこともなく、党内で首相が選ばれることに、「有権者の代表としての正当性がない」、と認識している回答が7割を超えている反面、マニフェストは約8割が必要と答えていることを指摘し、政党自体が政策でまとまっていない現状で、どうマニフェストを機能させるのか、と問いました。
湯元氏は、「党内が政策軸をベースにまとまっていないことが、マニフェスト政治を実現できない、最大の理由」と強調。日本の抱えている課題を明らかにし、政党としての解決策を競い合うという競争が起こる必要があると述べました。土居氏は、英国の事例を引きながら、「マニフェストは細かいことを詰め、総花的なものではなくて、『どういった方向にこの国を動かしていくのか』を明らかにするものであるべき」と述べ、有権者側もそれを賢く判断していく必要性を訴えました。最後に増田氏は、民主党が明確なコミットメントを見せなかった2009年のマニフェストは「真のマニフェストではない」と指摘し、その後の政権運営を通じてマニフェストに対する国民の信頼を喪失させた民主党の罪は重いとしながら、「ムダの削減を言っていたのになぜ増税になったのか。民主主義のプロセスは時間がかかるしコストにもなるが、それを覚悟して説明を続けていかなければならない」と強く主張しました。