2012年 世界の変化の中で、日本は何を考えればいいのか

2012年1月31日

2012年1月31日(火)収録
出演者:
田中明彦氏(東京大学副総長)
深川由起子氏(早稲田大学政治経済学部教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 1月31日の言論スタジオでは、田中明彦(東京大学副総長)、深川由起子(早稲田大学政治経済学部教授)をゲストにお迎えし、「2012年世界の変化の中で、日本に何が問われているのか」をテーマに議論が行われました。

 まず代表工藤は、「2012年はEU財政危機への対応に加え、アメリカの大統領選挙や中国の権力交代など、世界が大きく変化する時期。その中で日本に何が問われているのかを考えたい」と述べ、今回は、①世界の変化が日本にどんな影響をもたらすのか、②民主主義は行きすぎた資本主義やグローバル化に対応できるのか、③日本の政治が課題解決に向かうために何が必要なのか、の三つの論点で議論が行われました。


 冒頭では、今回の議論に先だって行われたアンケートの結果を踏まえ、現状分析も含めた議論なされました。田中氏はまず、日本に影響を与える変化として回答が多かった「EUの財政危機」や「アメリカの大統領選挙」、「中国の権力交代」については「妥当な判断」としつつ、イランのホルムズ海峡封鎖に向けた動きについては、「国際社会が困難な状況に陥る可能性はある」とやや悲観的な見方を表明。その上で、「これらがバラバラに存在しているわけではなく、それぞれがどう関係してくるかが重要」としました。深川氏もこれについて、「グローバル化の中でそれぞれが共鳴するシナリオが描き切れていないことが不安定の大きな要因」と述べるとともに、欧州財政危機の日本への影響については、「貿易収支の赤字が継続してトータルでの経常収支が赤字になった際に、いよいよ日本の財政問題が顕在化するだろう」と述べ、マーケットもそれを意識し始めていると指摘しました。

 そして、グローバル化する世界における民主主義の対応については、深川氏は、「「金融イノベーション」が生み出した極端な格差を財政がカバーするのはほとんど不可能になっている」と現状を説明し、本来はマーケットとは別の仕組みとして存在すべき民主主義における財政の再分配機能が弱体化していることを指摘しました。田中氏は、民主主義のそもそもの成り立ちについて、「民主主義は何事かを効率的に成し遂げる制度というよりは、極端な大失敗を防ぐための制度として存在してきた」と述べながらも、「圧倒的な早さで情報が流通するマーケットの仕組みと統治の仕組みが十分マッチしていないという問題は出てきている」とその課題を指摘。ただ一方で、その中で権威主義的な体制の効率性を評価する声が出てきているとしても、「いまの民主主義体制まで壊して新しいものをつくるべきというところまでいかないのではないか」と繰り返し述べ、それこそが「民主主義の強さだ」と強調しました。

 最後に、日本の政治に求められていることについては、田中氏は、「いま現実にやらなければならない課題に答えないで大きな夢を語っても、あまり信頼性がない」とした上で、消費増税やTPPといった喫緊の課題について、「これを解決したら、次に日本社会は世界の中でどうなっていくことができるのか、政治家は展望を語る必要がある」と強調しました。深川氏もその点に賛意を示し、「政治家はバランスを取りながら大きなビジョンと個別政策を語り、有権者を説得しなければならない」と述べ、その際に、課題解決の裏付けとなるプロフェッショナルな知識層を機能させることが必要だと強調しました。そしてまた、原発事故を最大の教訓として「制約を想定して最悪の状況に備えることが必要」を強調しながら、一方で、「最善を尽くして何を実現するか」という問いにも答えを出していかなければならないと語りました。

議論の全容をテキストで読む    

放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。
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