2012年11月19日(月)収録
出演者:
工藤拓毅 氏(日本エネルギー経済研究所研究理事)
藤波匠 氏(日本総合研究所調査部主任研究員)
藤野純一 氏(国立環境研究所主任研究員)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
第2部:今後のエネルギー政策はどうあるべきか
「2030年代原発0」の意味
工藤:今日の議論は非常に難しいということがわかってきたのですが。とりあえず言論NPOはアンケートをとっているんですね、必ず。日本の有識者の人たちにアンケートをとるのですが、今日のアンケートは少し難しくて、今日の午後3時に出したんです。それでも90人近い人たちが回答してくれて、かなり書き込んでくれたんですね。それを見ると、9月の「革新的エネルギー環境戦略」で、日本のエネルギー政策の今後の道筋が示されたと思うか、ということなんです。
示されたと思ったのは4.5%、反対に示されていないと言い切っているのは49.4%、つまり半数ぐらいいっている。それから、どちらかといえば示されていないというのも18%いますから、基本的には約7割の人たちが、示されていないといっているわけです。
つまり、こういう状況になっているとすれば、野田政権としてこの原発、実際的に政治主導を含めて止まっているわけですよね。その状況の中で今の政権は原発問題をどういうふうに進めようとしたのか、ということがわかりにくいので、もう一度藤野さんにそこを解説していただけませんでしょうか。
藤野:これはパブリックコメントなどを通じて、国民の大多数の方向性として2030年代に原子力0を実現させるためには、どういう方向を示さないといけないのか、という大前提で書かれているものだと私は理解しています。
原子力については、三つの原則を掲げ、それを埋めるために2010年くらいに原子力による発電量が全体の30%ぐらいを占めていたわけですね。それをどうやって穴埋めするかというところで、今は省エネを一部やって、火力発電で代替していますけども、2030年代を見通したときに、例えば節電で10%を目指しましょうとか。また、再エネを今までの3倍以上目指そうとか、それで間を埋めていくというようなところと、それを実現させるための策は書いてあるのだけれども、ただ、省エネ10%、または最終エネルギー消費で19%削減するというけっこう大きな数字ですけども、これを具体的にどうやるんだというところについては、まだそこまで書き込まれていない。我々がシュミレーションした時はもっと具体的な数字をもっと踏み込んで書いてあるんですけども、そこまでこちらのほうでは、決めきれていないというところがあって、それをもって大多数の人は道筋とか言われてしまうと、これに頼っていって本当にそこにたどり着けるかどうかというところについては疑問視されたのかなと私の印象です。
工藤:工藤さん、今の話で基本的によろしいのでしょうか。そうしたら議論が次に進むのですが、つまり、2030年代には原発の基本的な依存が0になると。そこを原則に、それに向けての討議だったと。それに向けての具体的な施策とか、どういうようなことをパッケージでやるとかいろんなことに関してはまだ決めきれていないけど、その原則の中でこの方向が出されているという理解でよろしいんでしょうか。
工藤(拓):話をかき混ぜるわけではないですが、私自身、いま藤野さんの解説を受けて、それぞれに私の考えを述べるとすれば、一つは国民の意識はどこにあるのかと、三つのシナリオ選択の中で、パブリックコメントなどをやりましたと。ただ、この評価の仕方なり、何なりをひっくるめて、本当にクリアなんですか。どのシナリオをみんなどういう選択をした、その振る舞いとしてどういう流れをみんなが支持をしたのですか、ということが本当にクリアなったのかというと少しわかりにくい。
だから、先々に向けていまあるエネルギー基本計画で描いていたような原子力の拡大路線、これはないですね。おそらくこれは間違いない。問題は、どのくらいまで減らしていきますか、「脱」なのか「減」なのかいろんな言葉がありますが。それに対する国民の意見を聞くために、三つのシナリオが提示された。で、三つのシナリオを受けた結果はどうだったのですか、テクニカルな評価もひっくるめて、実は手法によってバラバラになっている。そういったものを彼らが結果として出してきたものなんですよ。
だから、少なくても方向性としては減らしていく。で、もともと民主党が目指していた2030年には0にしましょうという方向性はある程度やろうとしながらも、三つの選択肢のなんなりの整合性をもって示すということはできなかった。ということが私のイメージなんですね。
工藤:つまり、減らしていくというのは何となく合意のゾーンに来ていると。だけど、藤野さんが仰っているような形で、それを30年代になくすという方向までは、この議論もそこを前提にしたものではないというような理解ですか。
工藤(拓):まだ見えていない。僕は二つあると思うんですけども、一つは例えばいま出た省エネとか再生可能エネルギー目標とか、この数字で評価する前に既存のエネルギー基本計画の中に相当大きな目標値を設定していたんですね。そこからさらに踏み込みますよって体になっている。
だから、そこのところに関しても実現可能性ということをしっかりと見ないといけない。そういったものを何で評価しましょうかといった時には、一つはコストですねって話になった。だから、それぞれのシナリオを考える時に、コストを国民各層はちゃんと受け入れるんですかという話。
工藤:なるほど、今の話は政策としてはわかりました。僕は、方向に関してはどこまでのコンセンサスがあって、その中で政策を作ろうとしていたのか、その中にはたとえば整合性がないとか、そこまで描けていないという話はわかるのだけれども、基本的なところに対して、それに関しては0にするというところまでは決めきって動いたわけではないというふうな認識でいいわけですね。
工藤(拓):そういう議論があった中で、シナリオが提示されていますので、それで完全にみんな25%なりなんなりを誰も選択していませんというふうにはなっていないわけですよ。それにはそれなりの数の支持が入っているわけですよ。
工藤:そこは選び切って一つの方向を決めているわけではないということを言っているわけですよね。
工藤(拓):ただ、それと、その数字を受けて、例えばある割合が大きいと判断した政府がこういうふうにしましょうっていう絵を描いたということだと思います。
工藤:さっき、藤野さんね、基本的に30年代に0にするという大きな方向の中で議論が進んだりとか、言われた根拠はどこですか。
藤野:まずはそう書いてありますね。4ページ目のところに。
工藤:書いてある。
藤野:2030年代に原発稼働0を可能とするようあらゆる政策資源を投入すると、先ほどお話しておりましたけど、これを大前提にして、これをお書きになっているのかなと思っています。
工藤:確かに。
そこは一応、文章上ではそうなっていたということで良いですよね。
工藤(拓):そうです。文章上ではそうなった。だからそれが閣議決定の前の段階で色々と議論になったということです。
工藤:そっちの話になってしまうわけですね。
すみません、藤波さん、今のやり取りは、正直ベースでどう見ればいいんですか。つまり、2030年代に原発稼働0を可能とするための対策づくりに入ったという理解でよろしいですね。
藤波:良いと思いますよ、それで。
工藤:工藤さん、それはそれで良いんでしょ。
工藤(拓):この文章を作成した人はそうですね。
工藤:ただ、なんかそれがはっきりわからないようなところもあるじゃないですか、それを覆すようなコメントも中に入っていたり、あるわけでしょ。安全性が確認されたものに関しては、稼働するとか。
藤波:それについては、私はこのペーパー自体は比較的理解しやすいのかなと思っていますけども、これを打ち出す際の政府の動き方、国民世論の受け止め方ですとか、産業界からの圧力の受け方ですとか、その時にどういったレスポンスをしたのかというのがわかりにくかった、わかりにくさを生んでしまったと思っています。
工藤:すると、やはり結果として今の話を聞いていると、参考資料のままになってしまうというのもわかりますよね。つまり、曖昧なわけですね、政府のそれに対する、そのペーパーに関する姿勢が。
藤波:結局、閣議決定ができなかったという報道がされたということがそういったことの表れだと思う。
原発はやめるべきか、残すべきか
工藤:であれば、政策についてみなさんの意見を聞きたいと思っているんですね。
これに関しても聞いてみたんですよ。率直に前提に戻って。有識者の人に。
つまり、この原発がやめた方が良いのか、残した方が良いのかということを、本当にどういうふうに考えているのか聞いてみたんですね。
ただ、聞き方は、なるべく早くやめろ、目標年次を明示してからそれに向けてやめていくと、それから今後も継続した方が良いと、それから代替発電という再生可能エネルギーを含めて、そういったものの道筋が見えるまではある程度の一部稼働はやむを得ないだろうという話を組み合わせて、四つで聞いてみたらですね。
一番多かったのは、代替発電による道筋が見えるまでは一部継続するが36%でした。これは有識者の方なんですね。
今後も継続して運営していくというのが次に20.2%。なるべく早期にやめる19.1%、目標を明示してやめる16.9%ですから、だいたいやめると、はっきりやめる方向で動こうというので36%くらい。今後も継続していくと言い切った人が2割あって、結果としては減らしていくのだけれども、代替エネルギーの道筋と合わせながら原発の稼働状況を考えたらどうか、というのがだいたい3割あるという状況なんですが。
この結果はどう見ますか。
藤野:どなたが選択しているのかにもよるのですけども、先ほど言論NPOでお聞きになっている方というのは、経営者層だったり・・・
工藤:メディアの人とか、学者の人とか、専門家の人が多いですね。
藤野:それならばそういう判断もあるのかなというのが印象で、もしこれが福島の人たちに聞いたのならば結果は大きく変わるでしょうし、やはり対象によるのかなと思います。
工藤:いやいや、今回聞きたいのは、そういうことを聞きたいのではなくて、この結果を藤野さんはどう思いますか。つまり自分ならどうするべきだと思いますか。
藤野:私ですか。なかなか答えづらい。シナリオ屋としては複数のシナリオを作って、それで選択していただくものを作るので、非常に答えづらいところがあるのですけども、一つは安全性の基準というものがまだ確実に決めていないところで、いずれにしてもすぐに稼働できないという状況があるんですね、原子力を。
ひょっとしたらあと一年くらい稼働できないかもしれないという意味では、どちらにしても代替発電による道筋が見えるまで、一部継続するという選択肢についても、そんな猶予はないのかもしれないというところで、
工藤:猶予がないというのは一部継続するということは難しいのではないかということですか。
藤野:例えば、一年、二年はそのステージにいかないときに、どれだけのスピードでまた来年の夏も非常に厳しい夏を、とか、この冬もそうですが、そこを耐え忍んでいく中で、早いうちにそちらのほうにシフトできる可能性が見いだせるかどうかというのも非常に大事だろうなと思っている。
工藤:藤野さん自身は、原発はどうなんですか。原子力発電は最終的にはフェードアウトしていくという方向で考えていますか。
藤野:そうですね。私自身はやはり今回の事故を見た時に、これはある意味で国家観の問題かもしれませんけども、国の在り方としてどのような方向を目指していくかというのを考えた時に、確かに、技術としての原子力というのは魅力ではあるのですが、今後アジアの国々のために、まだ中国とか、インドとか、場合によってはバングラデッシュとか、そういう国は原子力を必要とするかもしれませんが、これだけ成熟した社会の中にある日本は、いずれにしても原子力のような人間がコントロールできるかどうかもわからない技術に頼るというところからはもう一つさらに一段階進んだほうが良いのではないかと個人的には思う。
エネルギーの安定供給はどうする
工藤:じゃあ、一言、いろんな人たちにいろいろな考え方を提供したいので、その場合にエネルギーの安定供給という視点で藤野さんはどういうふうに組み立てるのですか。
藤野:原子力は、徐々にフェードアウトというか、今はほとんどないんですけども、いま3割ですね、一次エネルギー供給でいうと、11%とか12%を占めていてわけです。なので、まずは省エネを徹底的にやらないといけないということと、一部化石燃料の高度利用は仕方がないかなと思います。
いま、3兆円追加でお金がかかっているというところですが、1㌔ワットアワーの電力を我々享受している中で、3円パー㌔ワットアワー価格が上がってしまうという現状がありますけども、再エネ、省エネに投資するということは国内に資産が残るということですから、そちらのほうにいち早く転換していくというのが、温暖化の側面で非常に言い辛いところもありますけども、そこのバランスかなと思います。
工藤:藤波さんはどうですか。藤波さんならこの選択肢では、どこに自分の考え方があって、安定供給という点ではどういうような・・・
藤波:私は逃げるわけではないですが、たぶんその他を選びます。原発をこれから0に近づけていくのか、あるいは積極的にこれからも活用していくのか、それぞれのシナリオが私は十分可能だと思っています。どちらも日本は取り得るのだと思っています。ただ、そのときには原発を早期に0にするとなった場合は、さらなる需要抑制というものをやらなければならないでしょうし、私はその技術もあると思っているんですね。能力があると思っている。逆に、原発をさらに作っていくということを考えたときに、より安全な原発を作らなければいけないというハードルがあると思うんですね。
ですから、それぞれのハードルを如何にクリアしていけるのか、どういったことをすればクリアできますよ、というような道筋を、少し先走ってしまいますけどもマニフェストに示して頂ければ、それに乗っかれるのかなと思っています。
工藤:どちらでもね。
藤波:ええ。個人的に原発はどうあるべきかということをあえて問われると、実は再稼働する、あるいは、新しい原発を作っていくときには、コストというものをもう少し厳密に考えた方が良いというふうに思っています。原発のコストは通常安いと産業界から望まれているわけですよね。実際にコスト等検証委員会という国の組織がありまして、そこでいろいろと議論していると、なかなかそうでもないのではないかという議論になっていて、化石燃料と遜色ないのではないか、あまり差がないのではないかという議論になっているんですね。
工藤:どうして。
藤波:事故処理対策ですとか、あるいはバックエンドと言われている再処理の話ですね、それから、地元対策費というこれは税金を使ってやっているわけですけども、こういったものもコストに反映されれば、あまり化石燃料と変わらないのではないかという議論もある。ですから、そういったものをしっかりコストに反映した上で、本当に競争力があるのかどうかということを議論して、あるいは見極めながら、原発政策というものは進めていくべきで、いまあまり政策的に何年に何%ということを言い切ってしまうのは、私としてはリスクがあるのではないかなと思っています。
工藤:今の話は、基本的には判断するための材料がそれぞれまだ足りないということを仰っているわけですよね。
藤波:今の段階では、いま決めてしまうのはちょっと怖いかな、と私は思っています。思っていますけども、ただある程度マニフェストで、投票対象選んでいく上では、分かり易い行動として何年何%というものは必要だと思います。
工藤:エネルギーの安定供給という点で原子力が持つ意味と、原子力が無くなった場合どうする、工藤さんの意見はどうなんですか。
工藤(拓):まさに回答の裏側が何というところの組み合わせで考えていかないとダメだと思うんですね。私は今、二つの視点で見ていて、一つは安全性の問題、そしてもう一つは時間軸の問題。
で、安全性の問題はやはり、3.11の事故で社会的な信頼性が問われているわけですから、私は原子力技術屋ではないので、どこまでやれば安全性を担保できるのか、判断できるか否かもここは真摯にやらざるを得ない、判断基準ができるまでは。
例えば再稼働の基準、それから40年廃炉などいろんなことが出てきているんだけど、全てベースにあるのは、おそらく安全性の評価で社会的なコンセンサスをちゃんと作れるかどうか、に他ならないので、それに対する信頼性を継続的にチェック&レビューできるようなプロセスを、ある程度社会的に作り上げていって、そういった不安なり、何なりを解消していく。その解として、やはり技術的には難しいというのがあるかもしれないし、ちゃんと日本としては長期的に見ていきましょうというのがあるかもしれない。ベースとなるもののファンダメンタルをまずちゃんと作るということが大事だと思います。
そういった意味で、もう一つの時間軸の話なんですけど、やはりエネルギー。特にこの発電なりなんなりのエネルギーインフラというのは、1年、5年とか、そのくらいで変化していく世界ではないので、原子力なり、それ以外の燃料の構成というものがこのように推移してきたという過去の流れと、それを今後どういうふうに変えるかということの連続性というものをちゃんと考えないといけない。だから、原子力も例えば、短期的な視点で見れば、供給力をどうするかいうのが当然あるし、そして、もし再エネなりなんなりを導入かけたりするということになれば、さきほどの化石燃料も含めて、少なくても短期から中期的には価格があがるんですよ、コストがと。すなわち、社会的な負担というものをたとえば国民経済的に見て、それからまさに産業界として製造上維持しうるのかどうかということ、これはどちらかというと短期的から中期的に資金の問題ですよ。それに対する解をまず出さないといけない、長期的にはといったら、先ほど言っているような話も当然。
ただし、技術をどのように見ていくかという話は、既にこれだけ動かしているものに対する最終処分の問題、技術的な維持の問題、そういったことを総合的に考えざるを得ないですから。そういうような観点も含めた時間軸、短期的なインパクトと長期的なそういった考え方、その中には国際的なって先ほど藤野さんが仰っていましたけども、今後アジアなりなんなりの原子力を平和利用的に使いたいというリスクに関して日本は貢献しようとしている、安全なりなんなりやろうといっている。それをどうやって維持して行くんですかというのはある意味1つのキーワードで・・・
工藤:それは日本の技術力の問題をいっているわけですね。
工藤(拓):そうです。それを維持しなければいけない環境が必要になるわけですよね。そういうようなものを、どういうふうにやるんですかっていうことがいろんなカードとして問われている、というのがあるんです。
そういう意味では、代替電源の話がちゃんと充実したら、一つの要素として大きなポイントになりますけども。今、言っているのは様々な今までの長期的に形作られてきたものの中で、どういう形で経済が様々なエネルギー需給構造上考えていくのか。という結構複雑な判断材料ですから。