原発再稼働を含めた日本のエネルギー政策を考える

2015年4月03日

2015年4月3日(金)
出演者:
橘川武郎(東京理科大学教授)
澤昭裕(21世紀政策研究所研究主幹)
山地憲治(地球環境産業技術研究機構研究所長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 4月3日放送の言論スタジオでは、「原発再稼働を含めた日本のエネルギー政策を考える」と題して、山地憲治氏(地球環境産業技術研究機構研究所長)、橘川武郎氏(東京理科大学教授)、そして澤昭裕氏(21世紀政策研究所研究主幹)をゲストにお迎えして議論を行いました。


エネルギー基本計画で数値目標が欠けた理由は、政治的な配慮が働いたため

工藤泰志 議論の冒頭、まず、代表の工藤から、「自民党は2014年のマニフェストで、『エネルギーミックスの将来像を速やかに示す』と書かれていたが、震災から4年経過しており、非常に遅れているという印象を受ける」と語り、今になってまだ議論が取りまとめられていない理由について尋ねました。

 山地氏は、民主党から自民党への政権交代、2014年の東京都知事選の際に細川護熙元首相が原子力即時ゼロを掲げて候補となった影響などにより、閣議決定が遅れていたことを指摘。その後、2014年4月に新しいエネルギー基本計画が閣議決定されたものの、エネルギーミックスに関する数量的目標や見通しがないものだった、とこれまでの状況を説明しました。続いて橘川氏は「基本計画に数字が入らなかった最大の原因は、選挙である」と説明し、「原子力に対する世論が厳しいことから、自民党が可能な限り議席を獲得するために原発の比率を具体的に発言したくなかったのではないか」と主張しました。

 澤氏も橘川氏の意見に賛同した上で、「エネルギーミックスの話をする場合は、中長期の話をする必要が出てくる。そうすると、原子力発電所についても新設するのか、建て替えるのかという判断が必要になる。しかし、投資主体である電力事業者が再稼働に手間取っていることもあり、中長期のことを考える余裕がなく、原子力の数値的な議論がなされなくても、ある意味、誰も困らなかった。その結果、今になって数字だけが決まらないという状況に直面しており、みなの関心が数字のみに向かい、あまり良くない方向に行っている」と説明し、「数字だけ決めてもエネルギー政策を決めたことにはならない」と指摘しました。


冷静な議論ができ始めた審議会

 続いて工藤が、2012年の民主党政権下の「基本問題委員会」で、ある程度のミックスのイメージが出ていたことを指摘し、自民党がそれをベースにして、新しい政権が引き継いで議論することはできなかったのかと尋ねました。

 橘川氏は、「審議会のメンバーから原発依存度ゼロを主張する人が減り、再稼働派ばかりが入って来てしまった」と委員会の構成に問題が生じてきたことを指摘しました。山地氏は、「福島事故を目撃してから4年経ったとはいえ強烈な印象だったことから、心の底でみな不安を感じており、リスクを回避して原子力を削減したいというのは、ハートでは共通している」と指摘しました。その上で、「国のエネルギー政策をハートのレベルで議論していいかというと、もう少し頭で考える必要がある。審議会には反対派も入っているが、以前の会議に比べてハートに即した議論は減り、頭で考える人が増えて正常化しつつある」と語りました。


政策目標を定めた上で、エネルギーミックスの議論がなされるべき

 続いて、事前に実施された有識者アンケートの結果について工藤が説明を行い、将来的な日本のエネルギー政策について、「太陽光・風力発電など再生エネルギーに重点をおくべき」との回答が過半数を超えていたことについて紹介しました。

 これに対して山地氏は「太陽光や風力発電は自然変動しやすいというネックがあるため、既存の電力系統に組み込んで瞬時のバランスを取ることについては制約がある。ただ、その制約についても、広域で連携して調整したり、バッテリー・貯蔵装置を導入するなどして緩和できる。問題はコストがかかることから、太陽光や風力の最大限の導入と国民負担の抑制という兼ね合いが問題になる」と語りました。

 橘川氏はエネルギー政策の中核をなすのはどのようなシナリオをとっても火力発電であると語り、「最近の政策議論は『原発』と『再生エネルギー』に偏りすぎている。火力発電にともなう二酸化炭素排出量の削減方法、天然ガスの購入価格を減らすために、中韓との協力なども必要になるが、そうした議論がない」と現在の日本のエネルギー政策において、「火力」の議論が抜け落ちている点を指摘しました。

 澤氏は、現在、日本が依存している火力発電を構造的に継続していくと、エネルギーの安全保障という観点からすると脆弱になってしまうことを指摘しました。その上で、「エネルギーの安全保障という政策目的から考え、自給率は何%を目指すのか、コスト上昇をどこまでにとどめるのか、二酸化炭素の削減目標をどうするのか、という数値目標をそれぞれ立てる。そうしたことを考慮に入れてエネルギーミックスの議論をしなければならない」と述べ、電源構成の数値は手段であって目標ではないと語りました。加えて、ドイツやスペインでは再生可能エネルギーの比率が約25%となったことで、送電線のあらたな建設計画が進んでいなかったり、風力に頼るとしても風が吹かない時に必要な火力発電をどのように位置づけるかといったバックアップ電源について問題が生じていることを紹介した上で、「日本も同じ轍を踏まないために、どう対応するかについて定量的な議論が必要である」と問題点を指摘しました。


再生可能エネルギーの比率を30%まで増やすことはできるのか

 太陽光や風力発電を推進することで再生可能エネルギーの電源比率を30%まで増やせるという主張に対して山地氏は「資源量のポテンシャルは無限にあるので、技術的には可能。しかし、導入にはお金がかかるために、国民がどれだけのコスト負担を容認できるかだ」と指摘しました。橘川氏は「電力会社としては石油に代わって太陽光を導入した方がコストは下がる」ことから、まだ太陽光発電を導入する余力があると主張。

 一方で澤氏は、太陽光発電への依存が仮に高まった場合、「太陽光発電の発電は夕方までだが、電力需要は夕方から夜にかけて一気に増加する。その需要の増加に対応するために火力発電で本当に対応できるのか」といったシステムオペレーション上の問題を指摘し、「政策担当者は二酸化炭素削減目標の達成に向けて再生可能エネルギーの推進で動いているが、技術者はそれを不安視している」と政策担当者と発電を担う技術者の認識の乖離が広がっていることを指摘しました。


原発比率は抑えつつ、事故の危険性を減らすために施設の入れ替えも検討課題

 続いて言論NPOが行った有識者アンケートで「2030年の日本のエネルギー政策については、すべての原子力を廃炉とし、0%を目指すべきだと思う」との回答が30.1%で最も多かったことを工藤が紹介しました。

 これに対しては橘川氏が「原子力問題については世代的な意見の隔たりが大きく、例えば50代60代は原発ゼロ派が多いが、若い世代、特に男性では原発容認派の意見が多くなる」と原子力に関するアンケート調査の難しさを指摘しました。また自身は「原子力発電所のさらなる廃炉により、15%以下の比率を目指すべき」と回答すると述べた上で、「原発の比率は抑える一方で、事故の危険性を減らすために施設の入れ替えを行うべき」と主張しました。澤氏も橘川氏の意見に同意を示した上で、脱原発を決めたと報道されるドイツでは、大学での原子力人材の育成は引き続き行うつもりであることを指摘し、「原子力を利用し続けるフランスやイギリスも含めて、ヨーロッパ全体で原子力人材の技術や知識の維持を図ろうとしている。日本は原発を止めるとなると教育も含めて全部止めるし、原発維持となると全て維持する、という議論しかできていないが、何が必要で何が必要でないかといった取捨選択の議論もすべきではないか」と問題提起しました。
山地氏は、「原子力発電所は様々な設備を取り換えることで、より安全な設備へと新陳代謝していくことができる。その意味では40年廃炉基準そのものが非合理である」と述べた上で、「原発の新設には複雑な立地プロセスが必要なことから、時間はかかるし不確実性が高いからこそ、20年延長制度を有効利用して修理しつつ新基準対応を図っていくことが合理的な選択である」と主張しました。

 こうした議論を受けて工藤は、「真面目な議論を専門家だけに委ねるのではなく、理論的な話と技術的な話を含め、政治家自身が語っていかなければ国民には全くわからない。今回の議論をベースにして、国民自身が日本の将来のエネルギー政策を考えていかなければいけない」と語り、議論を締めくくりました。


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