金融緩和から2年、出口戦略をどう考えるか

2015年5月01日

2015年5月1日(金)
出演者:
加藤出(東短リサーチ代表取締役社長チーフエコノミスト)
鈴木準(大和総研主席研究員)
早川英男(富士通総研エグゼクティブ・フェロー、元日銀理事)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

 5月1日放送の言論スタジオでは、「金融緩和から2年、出口戦略をどう考えるか」と題して、早川英男氏(富士通総研エグゼクティブ・フェロー、元日本銀行理事)、加藤出氏(東短リサーチ代表取締役社長チーフエコノミスト)、鈴木準氏(大和総研主席研究員)をゲストにお迎えして議論を行いました。


一定の成果はあったものの、「結果論」の側面もあった2年間

工藤泰志 まず、司会の工藤が、今回の議論に先立ち行われた有識者アンケートでは、この2年間の日銀の金融政策運営に対して、6割を超える有識者が「評価している(『とても』と『やや』の合計)」という結果を紹介しました。
 この結果を受けて、早川氏はまず、「いわゆる異次元緩和が円安、株高をもたらした」と一定の評価をしました。一方で、「経済成長は不十分で、人手不足など成長天井の低さが目立った」とした上で、物価に関しても「一応、『デフレではない状態』にはなってきているが、原油安の影響もあって物価上昇率が鈍化している」と課題も指摘しました。そして、今後については、「(異次元緩和は)元々実験的な政策なので、結果をしっかりと分析した上で、今後の政策対応を考えていくべき」と語りました。

 鈴木氏は、早川氏と同様の認識を示し、特にデフレマインドが払拭されてきていることについて高く評価をしました。しかし、「これはあくまでも『結果的にそうなった』というものであり、日銀の当初の目論見通りに行ったと言えるのかは疑問がある。特に、中長期的に期待インフレ率が上がっていくかどうかはまだ不透明」と述べました。さらに、他の問題として、「巨額の国債購入は国債市場の流動性を低下させたなど副作用も大きいし、民間銀行の貸出促進を狙っているものの、国内設備投資などを見るとその効果も限定的だ」と指摘しました。さらに鈴木氏は、日銀の説明責任についても、「経済成長の伸び悩みの理由付けに原油安を持ち出してくるなど、説得力に欠けるところがある」と批判しました。

 加藤氏は、この2年間について「確かに結果は出ている」と一定の評価をしつつ、それは「アメリカ経済の上向き基調など、外的要因に助けられたという幸運な面もあった」と分析。仮に異次元緩和をしなくてもある程度の結果を出せていたと指摘しました。


「2年で2%」目標は、無理に達成すべきではない

 続いて、「2年程度で2%の物価上昇」という日銀が掲げていた目標が、4月30日の金融政策決定会合では、「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半頃」に後倒しされるなど、事実上達成不可能となったことについて議論が移りました。
 この点について、加藤氏は、「追加緩和をせず、さらに目標達成期限も延長となったが、これでは日銀の『本気度』が問われることになるのではないか」と指摘しました。

 早川氏は、この目標について、「賃金を見てみると上昇傾向にあるので、いずれは達成できる」との見方を示した上で、「加藤氏が指摘した通り、日銀の本気度が問われているが、本気になるかは不透明だ」と語りました。

 鈴木氏は、「民間エコノミストの間では、この『2年で2%』という目標を達成できないと見る向きが多かったが、今回の金融政策決定会合では、追加緩和の議論をしていないところを見ると、日銀自身も達成できないと考えていたのではないか」と分析しました。その上で、「達成するための鍵となるのは、成長戦略を進め、賃金増につなげること」と指摘しましたが、「そのためには名目賃金が3%~4%上がらなければならず、現時点ではその見通しは立っていない」と指摘しました。

 これを受けて加藤氏は、「経済の実力ベースで見ると、2016年度前半でも厳しい。日銀のボードメンバー内でも意見が分かれているし、そもそも『2%』という数字に固執する必要はない」と主張しました。さらに加藤氏は、「無理に達成しようとすると為替しかチャネルがないが、年金暮らしの高齢者が多い日本では、これ以上の円安は国民生活に対する打撃が大きい。成長戦略にじっくりと取り組みながらゆっくりと物価を上昇させていくしかない」と述べました。

 これらの議論を受けて、工藤が「日銀は現状をどう分析しているのか。まったくメッセージが出てきていない」と問いかけると、早川氏は、「確かに、この2年間で何ができて、何ができなかったのか、そしてその理由は何か、ということについてしっかりとした総括をして、説明をすべき」と答えました。ただ、それができていない理由については、加藤氏が指摘した通り、日銀のボードメンバーが一枚岩になっていないことがあると指摘した上で、「総括しようにもそれができなかった、というのが現実ではないか」と分析しました。


綻びが見え始めた政府と日銀の連携

 続いて議論は、この2年間の金融政策運営において、日銀と政府が歩調の取れた連携をしてきたかに移りました。

 鈴木氏はまず、「国民生活への影響を考えると、政府もこれ以上の円安には慎重であるし、物価目標についても1月以降の月例経済報告では『できるだけ早期に』という言葉が削除されており、達成への期待がかつてほど強いわけではない」と述べました。他方、日銀から見ると、「異次元緩和の前提には政府が財政再建や成長戦略を着実に進めることがあったにもかかわらず、政府がそれをしっかりやっていないことに対する日銀の不満は大きいだろう」と分析し、政府と日銀の間に相互不信が芽生え始めている可能性を指摘しました。

 加藤氏は、「共同声明では『2年』という縛りはなく、後の黒田総裁が独断で言い始めたことなので、政府からすれば元々期待もしておらず、目標未達でも特に日銀に対する不満が高まってくるというわけではないのではないか」と分析。その一方で、「問題なのは、『金利が低いのだから』ということで、政府のプライマリーバランス改善に向けたモチベーションが上がらないことではないか」と指摘しました。


不明確な為替介入と量的緩和の違い

 続いて、工藤が異次元緩和と円安の関係性について尋ねました。

 早川氏は、「2012年の秋頃からヨーロッパ情勢が落ち着き、円高が是正され始めていた。その流れがあったので放っておいても、ある程度は円安になっていただろう。ただ、異次元緩和がそれを加速させたことは間違いない」と説明しました。

 その上で早川氏は、「1930年代の教訓として、競争的なリバリュエーションはやってはいけない、という国際合意ができていた。リーマンショックの後、アメリカが量的緩和を行いドル安になり、それによってアメリカ経済が回復した、ということがあったが、それはあくまでも結果論と解釈されていた。しかし、その後、日本や欧州も大規模緩和をするようになると、『これは本当に競争的ではないのか。同じ効果が出るのになぜ介入は駄目で緩和はよいのか』と問われると答えるのは確かに難しい。為替市場に直接手を入れるのは駄目だ、というのは政府間同士では納得できる説明になるが、TPPなど通商政策にも絡んでくるとなると、議会や国民の納得を得るのは難しい」と解説しました。

 鈴木氏も、「確かに、異次元緩和は為替目的ではない、ということは国際的にも認められていることだ。ただ、アメリカ経済が思ったよりも回復していないことの一因としてドル高があるので、今後はどのような議論になるのか分からない」と述べました。

 こうした発言を受けて加藤氏は、「確かに、アメリカの企業からは不満が続出しているし、TPPにおいても為替操作の禁止に関する条項を盛り込むことが議会で議論されている。円安誘導目的ではないと言っても結果としてそうなる以上、これ以上の金融緩和はやりにくくなるのではないか」と分析しました。


「出口」に向かうためには財政再建が不可欠

 最後に議論では、この異次元緩和の出口戦略について話が移りました。

 早川氏は、「日銀は出口戦略について議論するのは『時期尚早』としているが、出口戦略の不可欠の前提となる財政健全化は何年もかかるものであるから、今から明確に意識しなければならないので、『時期尚早』ということはない」と述べました。

 鈴木氏は、「金融政策というのは短期の政策であるから、中長期の政策を同時にしっかりとやっておく必要がある。それは何かというとまさに成長戦略。そして、実体経済を改善し、実質賃金を上げることによって名目賃金を上げ、それで初めて安定的な物価上昇が実現する。したがって、成長戦略をしっかりと実行することが、出口戦略においてまず必要となる」と述べました。鈴木氏はさらに、「国債購入を減らしていくためには、市場金利が上昇しないような状況をマーケットでつくっておかなければならない。そのためには中長期の財政再建の計画が不可欠なのであり、その意味で今夏に出すことを予定している2020年までにプライマリーバランスを黒字化するための計画を、マーケットの信認を得られるようなものにしていかなければならない」と主張しました。

 加藤氏は、「日銀が国債を買い続けると、ますます政府の財政規律は緩むことになる。そうするとますます出口が遠くなるので、先行きを恐れずに議論をしていく必要がある。イギリスのキャメロン政権のように、政府が大胆な緊縮策を取りながら、中央銀行が国債を買い取っていくというのであればうまくバランスは取れるが、今の日本のように政府が日銀に『甘えている』ような構造が続くと難しくなる」と指摘しました。

 議論を受けて、工藤は「政府の財政再建に向けた取り組みを注意深く見守っていく必要がある」と総括し、白熱した議論は終了しました。


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