【緊急座談会】焦点はこの談話をどう実行するか ―戦後70年の重みを再確認せざるを得なかった―

2015年8月24日

2015年8月25日(火)
出演者:
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部准教授)
高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)
山田孝男(毎日新聞政治部特別編集委員)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


今後、民間外交が果たすべき役割

工藤:政府間外交がリーダー間で動き始めている状況の中で、新しいアジアの平和的な環境づくりのために私たち民間は何を行うべきなのか、ということで今回の議論を締めくくりたいと思います。言論NPOは10月末に「第11回東京-北京フォーラム」を行いますが、私たちはこの談話を実行に移すために何をすればよいのでしょうか。

神保:一つは、分かりやすい日本の姿を言論として形成していくことがすごく大事だと思います。日本の安保法制は人気がありませんが、最大の理由は「分からない」ということだと思います。これを分かりやすくパッケージングして「なぜ今、これが必要なのか」と納得するところに、相手国の国民に強力な認識が生まれてきます。この強さがないところに、しっかりした安全保障政策は生まれないと思います。これは、歴史認識も対外関係も同じで、日本と中国がどのように付き合っていきたいと思っているのか、韓国に対してもどうしたいと思っているのか、分かりやすく言うチャンスだと思います。2年前に説明し得なかったことが、談話や法制度の積み重ねの中で、今日説明できるようになってきていると思います。それを分かりやすく言葉に変えていくというのが、言論NPOや有識者の大変重要な使命ではないかと思います。

工藤:つまり、今回の談話や安保法制も含めて、日本が考えていることをきちんと丁寧に、相手が理解できるように説明することを、民間レベルでもやることが必要なのではないかというお話ですね。山田さんは、いかがでしょうか。

山田:まさに、「日本人は何を考えているのか分からない」とか「いざとなったら何を出だすか分からない」という疑念を払拭するのは、政府ももちろんですが、民間レベルで皆が取り組んでいく必要があります。「過去をどう見ているのか」ということについて、安保法制は談話が言っていることと密接に関連していると思います。今の局面は、そんなにエキセントリックな意見が日本の巷にあるわけではない、ということを自覚的に整理して見せていく、また「我々自身もそこはちゃんと整理できていますよ」ということを学習し、確認していくプロセスではないかと思います。民間もそういう意識でいるのだ、ということを見てもらう、聞いてもらうことはとても大事だと思います。

工藤:確かに、安倍政権発足から談話までのリードタイムというか、談話をめぐる一つのプロセスは、私たち自身にとっても戦後を考える非常に重要な機会だったと思います。今日の議論も、談話の単なる評価ではなく、談話がアジアに対しても歴史に対してもきちんと向かい合っているということを議論しているわけです。こういうことがしっかりとアジアに伝わればいいなと思いました。高原先生、どうでしょうか。10月末の東京-北京フォーラムの役割をどうお考えですか。

高原:今年は戦後70年の対話ということで、今回の東京―北京フォーラムには特別な意味があると言えます。安倍談話で、私の当初の予想に比べてあまり言っていないと思うことは、戦後70年間の歴史についてです。それを補うようなかたちで、「我々は70年という長い歴史の中でどういう問題に行き当たり、どのように協力し、どのように交流して今日までやって来たのか」という部分を、ODAなどいろいろなことを織り交ぜるかたちで、中国の人に「ここの部分の歴史も忘れないでください」というのも、もう一つの大事なメッセージかなと思います。

工藤:分かりました。今日は、安倍談話を中心に、北東アジアの平和的な議論、そして、これを軸に、アジアの中で民間が今後何をしていけばいいのかということにも話が進みました。言論NPOは、韓国と中国の有識者も対象にして、今回の談話に関するアンケートを、行っています。皆さん、この作業には協力的だったのですが、お互いが対立するという感覚ではなく、対話ができるという環境が民間の中に着実に育っています。これはアジアにとって非常に大きな資源だと思うし、言論NPOは今後、こういう資源を活用しながら、一つの民間の対話をさらに飛躍させたいと思っております。
10月には北京で日中の本気の対話をやりますので、また報告させていただきます。皆さん、今日はどうもありがとうございました。



報告を読む / 議事録を読む      6

1 2 3 4 5 6 7