7月16日に開催されたアジア戦略会議では、ゲストスピーカーとして国際協力銀行総裁の田波耕治氏をお迎えし、資源エネルギー・環境分野を中心に、日本の「戦略」のあり方などを巡って活発な議論が行われました。
スピーカー:田波耕治氏(国際協力銀行総裁)
会議ではまず田波氏から、「最近の国際経済の潮流における国際協力銀行の取組み」をテーマに、特に資源エネルギーや地球温暖化の問題に、同銀行がどのような考え方で取り組んでいるかについて説明がありました。
第一に田波氏は、資源エネルギーの問題について、資源国、大量需要国ともに資源ナショナリズムの傾向がますます強まりつつある現状に言及し、「資源自給率が極めて低い日本が今後どのように資源確保を行っていくかはまさに死活問題である」と指摘しました。そのうえで田波氏は、日本が総力をあげて資源国との重層的な関係を構築することの重要性を強調し、資源分野での協力に加え、双方向の投資に向けた協力が必要であると述べ、その取り組みの例としてFTAの強化や本邦企業の海外進出支援などに触れました。さらに、経済・産業分野以外での関係強化も重要であるとし、重層的関係構築の例としてアブダビの政府系投資機関との業務協力協定等を挙げました。そして、日本政府と国際協力銀行の具体的取組みとして、ロシア、オーストラリア、イラク、アフリカ各国をはじめとした資源国との関係強化の動向を説明し、それらの重要性に言及しました。
田波氏が第二に取り上げた論点が、オイルマネーとアジアの持続的成長です。原油価格の高騰によって、中東諸国の経常収支黒字は急増しています。田波氏は、アジア各国が経済発展を続ける中で、オイルマネーがアジアに安定的に流れる仕組みをどう構築していくかが今後の課題であるとしました。
最後に田波氏は、環境(気候変動)問題への取り組みについて、気候変動対策において国際協力銀行が政府と一体になって行っている途上国支援として、「気候変動対策円借款」、「FACE(JBICアジア・環境ファシリティ)」や排出権取引への積極的関与にも言及し、民間セクターが主導する環境分野について、それをサポートする国際的なプラットフォームづくりが特に重要だとしました。
その後、田波氏と出席者との間で意見交換が行われました。出席者からは、「資源確保に向けた戦略的取り組みにおける『戦略』の意味は、長期安定供給の確保ということが軸になるだろうが、政府の政策と民間市場がどう役割分担を行っていけばいいのか」、「中国の台頭によって日本の購買力や資金力などにおける国際的地位が低下している中で、日本は資源国に対し何をアピールできるのか」などの問題提起が行われました。
田波氏は、資源国との間の重層的関係構築の重要性に改めて言及し、前者に関しては、「日本は民間中心の活動を国と公的機関が支援することがストラテジーの中に組み込まれているが、資源開発は民間企業にとってリスクが大きいため、将来の需給やリスクの状況など、企業の判断を支えるベースを戦略的に提供することが重要だ」と述べました。後者の問題に関しては参加者間で、「やはり日本の技術力が大きなアピールポイントになる」との見解で一致しました。
また、参加者からは「従来の日本のアイデンティティーのベースにあったのは『経済大国』という思いだったが、それに代わるものは何なのか」、「資源確保の問題が日本にとって弱みになりつつある中で、日本でこうした国家戦略を立案、遂行しているのはどこなのか」などの論点が出されました。田波氏は「資源エネルギーを必ずしも日本の弱さと捉えるべきではなく、技術力に加え、資源の安定的供給先という点でも日本にも強みがあり、それを戦略的に活かしていくことが重要」だとしました。
アジア戦略会議では今後も引き続き、アジアや世界の潮流の中で日本が問われる課題について、活発な議論を行っていきます。また、9月の「第4回 東京‐北京フォーラム」開催において中心的役割を担う会議として、フォーラム運営についての具体的議論も進めていく予定です。
文責:インターン 高田玲子
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今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)
福川 伸次 機械産業記念事業団会長 |
小島 明 日本経済研究センター特別顧問 |
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白石 隆 政策研究大学院大学副学長 |
進 和久 前ANA総合研究所顧問 |
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松田 学 財務省 |
工藤 泰志 認定NPO法人 言論NPO代表 |
7月16日に開催されたアジア戦略会議では、ゲストスピーカーとして国際協力銀行総裁の田波耕治氏をお迎えし、資源エネルギー・環境分野を中心に、日本の「戦略」のあり方などを巡って活発な議論が行われました。