中国の海警法施行や日米豪印連携で日中が激しい議論
第3回日中安全保障会議報告

2021年2月03日

 言論NPOが2月2日、上海国際問題研究院との共催で行った第3回日中安全保障会議では、2月1日に施行された中国の海警法について日本側から、この地域の現状変更を加速させるもの、など厳しい批判があり、中国側は、中国は海洋や領土で平和的解決を求めており、武力での対応は考えていない、日米豪印連携が同盟化すれば対応することになる、と反論するなど厳しい議論となりました。

 新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、東京と上海をオンラインでつないで行われた今回の対話には、日本側からは、言論NPO代表の工藤泰志に加え、「アジア平和会議」から座長の宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)、座長代理の西正典氏(元防衛事務次官)をはじめとする7名が参加。中国側からは、陳東暁氏(上海国際問題研究院長)や張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)など計8名が参加しました。


 今回の対話は、緊張が高まっている北東アジアの紛争回避と将来の平和構築に向けての作業の一環で行われたもので、緊張が高まる北東アジアの安全保障のリスクについて話し合うと同時に、この地域の紛争回避や将来の平和構築に向けた課題まで3つのセッションで議論を行いました。

 この中では日本側から緊張を強める安全保障問題を語らず、日中関係の今後を語ることは難しいという認識が出され、中国側からは日米豪印のインド太平洋における連携を軍事同盟化させるべきではないとの懸念が出され、この地域の紛争回避や事故防止に向けた幅広い対話を継続させると同時に、この地域の将来の平和に向けた取り組みを民間主導で先行させることなどが合意されました。


対中国で、安全保障の議論をなくして関係を語ることはできない

c1.png 開会の挨拶の中で陳東暁氏は、現在の世界は100年に一度ともいうべき大きな変革を迎えようとしていると指摘。とりわけ北東アジア地域は、米中対立の激化に伴い、陣取りゲームのような様相を呈してきていると懸念を示しました。その上で、こうした状況の中では「この地域はもっと包摂的で協力的なものを求めている。それも一国的なものではなくて、多国的な安全保障メカニズムを求めている」と指摘。こうした安全保障メカニズムのあるべき構想について、居並ぶ両国のパネリストの知恵に期待を寄せました。

miyamoro.png 日本側からも宮本氏が、これまでは日本も世界も中国との関係については、「経済関係さえ上手くいけばそれでよい」といった態度であったものの、米中関係では「安全保障問題が正面に来ている」し、米国の同盟国であり、尖閣問題を抱える日本にとってもそれは同様であると指摘。もはや安全保障問題の議論なくして中国との関係を語ることはできないし、地域や世界の平和も繁栄もないと喝破し、本格的な議論がスタートしました。


日中両国から15名の安全保障の専門家が参加し、
5時間にわたり白熱した議論が繰り広げられた

 「北東アジアの2021年の安全保障リスクの総点検」をテーマとした第1セッションでは、台湾や朝鮮半島、東シナ海をはじめとする地域のリスク要因についての議論が展開されました。ここでは日本側から、昨日2月1日から施行されたばかりの、「海警法」について、「一方的な現状変更を計画的に進めようとしているのではないか」といった懸念が寄せられるとともに、中国側からはバイデン米新政権によって進むとみられる同盟の再構築、さらには日米豪印のインド太平洋における連携推進こそが、リスク要因だと日本側に見解を求める意見が相次ぎました。

 第2セッションでは、「日中関係における矛盾と回避の方策」をテーマとし、軍事力の透明性を向上し、客観的な評価を可能とするための相互情報提供の必要性や、リスク回避のための目標を具体的に設定することなどの提言が寄せられました。一方で、中国側からはここでも日米豪印のインド太平洋連携を、日中関係発展の矛盾要因と捉え、これに対する懸念が寄せられましたが、日本側からはこれは軍事的色彩が乏しいことや、一帯一路と互いに排除し合う性質のものではない、といった説明がなされました。

 一方、日本側からはここでも海警法を懸念する意見が相次ぎましたが、中国側は同法は2018年から予定していたものであり、既存の方針の再確認に過ぎないと回答。施行がこのタイミングになったことに特段の戦略的意味はないと理解を求めました。

 こうした議論を踏まえて最後の第3セッションでは、「北東アジアにおける安全保障のメカニズムの構築」について議論が行われました。

 ここでは、これまで言論NPOが推進してきた北東アジアの平和に向けたトラック2外交に強い期待が示されたほか、中国側から日米豪印の動きを軍事同盟化すべきではなく、むしろ中露も参加し、イデオロギー中立性を高めていくことなど、様々な提案が多く寄せられました。

 また、中国が「力による現状変更の方が手っ取り早い」と思わせないように、伝統的な勢力均衡も維持すると同時に、新しいルールづくりや危機管理制度の構築を中国と共に行うことで、秩序の「正当性をアップデート」し、より強固なものにすべきとの意見が見られました。さらに、「単一のメカニズムではすべての問題に対応できない」ために様々なものを構築すべきといった意見や、ホットラインのようにすでに合意しているのにまだ運用されていないものもあると両国の本気度を問う指摘も寄せられました。


 議論を受けて最後に工藤は、さらなる対話と具体的作業をトラック2で先行させる意気込みを語り、5時間にも及ぶ白熱した議論を締めくくりました。


【日本側参加者】
工藤泰志(言論NPO代表)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元在中国日本大使)
香田洋二(元自衛艦隊司令官(海将))
増田雅之(防衛研究所地域研究部中国研究室主任研究官)
西正典(元防衛事務次官)
小野田治(元航空自衛隊教育集団司令官(空将))
神保謙(慶應義塾大学総合政策学部教授)

【中国側参加者】
陳東暁氏(上海国際問題研究院長)
張沱生(中国国際戦略研究基金会主任)
陳小工(国家イノベーションと発展戦略研究会高級顧問、元空軍中将)
姚雲竹(元中国人民解放軍軍事科学院中米防衛関係研究センター主任、元陸軍少将)
朱成虎(元国防大学国際戦略研究所所長、元陸軍少将)
呉懐中(中国社会科学院日本研究所副所長、教授)
呉寄南(上海国際問題研究院諮問委員会副主任、元上海市日本学会会長、教授)
蔡 亮(上海国際問題研究院中日関係研究センター事務局長、上海市日本学会副会長兼事務局長、教授)
陳友駿(上海国際問題研究院アジア太平洋研究センター、教授)