2021年、北東アジアの平和への最大のリスクは「北朝鮮の核問題」と「米中対立」
言論NPOは2021年2月24日の「アジア平和会議」に合わせて、日本、米国、中国、韓国の外交や安全保障の専門家195人の採点によって、4カ国の専門家が判断する2021年の「北東アジアの平和を脅かす10のリスク」を明らかにしました。
その結果、2021年にこの北東アジア地域の平和を脅かす最も高いリスクとして「北朝鮮が核保有国として存在すること」がトップとなり、以下、「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」、「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」が続き、中国の行動やそれに伴う米国との対立が上位に並びました。
北東アジアの平和を脅かす10のリスク | 点数 (6点満点) |
|
1 |
米朝非核化交渉の展開と、核保有国・北朝鮮の行動 |
4.17 |
2 |
米中対立や、デジタル分野における覇権争い |
3.88 |
3 |
南シナ海における領土・領海をめぐる対立 |
3.70 |
4 |
アジアにおける中国の影響力がさらに拡大すること |
3.53
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5 |
台湾海峡での衝突や偶発的事故の発生 |
3.30
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6 |
中国の海警法の適用の在り方と、現状変更に向けた行動 |
3.23 |
7 |
サイバーや宇宙等の新領域における大国間対立 |
3.19 |
8 |
新型コロナウイルスが、アジア各国の経済や財政に大きなダメージを与えること |
3.16 |
9 |
インド太平洋における日米豪印などの連携と中国の対立 |
3.07 |
10 |
新型コロナウイルスのパンデミックが終息しないこと |
2.94 |
(次点) |
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11 |
異常気象と地球温暖化 |
2.91 |
この採点は、言論NPOの活動に参加する有識者2000人を対象にアンケート調査を実施し、回答者115氏のアンケート結果から、2021年に北東アジアが直面する平和への脅威として19項目を抽出した上で、各項目について、日米中韓の外交・安全保障の専門家195氏に、「北東アジアの平和に及ぼす影響と深刻さ(3点満点)」、「この地域の平和に対して、実際に2021年に困難や障害となる可能性(3点満点)」の2つの軸で採点を直接依頼し、その結果を集計したものです(合計6点満点)。
日本では、言論NPOが日本国内の安全保障と外交の専門家55氏に直接採点を依頼し、中国は言論NPOと「東京-北京フォーラム」の開催で連携する中国国際出版集団が中国の安全・外交問題の専門家50氏に採点を依頼しました。また韓国の外交、安全保障の専門家55氏の採点はアサン研究所が協力、米国ではパシフィックフォーラムとカーネギー国際平和基金が協力し、米国の安全保障・外交専門家35氏が採点を行いました。
評価の手順と採点基準は以下の通りです。
評価方法①:日本の有識者アンケートで項目を抽出
まず調査の第1段階として、言論NPOの活動に参加する有識者2000人を対象にアンケート調査を実施し、回答を得た115人の調査結果を集計しました。
この中で最も多い回答は、「台湾海峡での衝突や偶発的事故の発生」でした。47.8%と半数近くの有識者がこれを選択しており、この海峡をめぐる情勢に対して、日本の有識者は特に強い懸念を抱いていることが明らかになりました。
以下、「中国の海警法の適用のあり方と、現状変更に向けた行動」(29.6%)、「米中対立の深刻化」(28.7%)、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(27.8%)、「尖閣諸島周辺での偶発的事故の発生」が約3割で続くという結果になっています。
この有識者アンケートの結果から、第2段階目の評価となる専門家による採点の対象とする19のリスク項目を決定しました。
評価方法②:日米中韓の4カ国の外交・安全保障の専門家に2つの採点基準で採点を依頼。4カ国の専門家195氏が協力しました。
次に、日米中韓4カ国の外交・安全保障の専門家195氏に、有識者アンケートで浮かび上がってきた19のリスク項目に対して、各リスクが①北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ、②北東アジアの平和に対して、実際に2021年に困難や障害となる可能性、の2つの軸から採点していただきました。
基準1:北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ
まず、各リスクが、「北東アジアの平和に及ぼす影響とその深刻さ」を3点満点で採点していただいたところ、最も大きな影響を北東アジアに与えるリスクは「台湾海峡での衝突や偶発的事故の発生」(平均:2.21点)と「北朝鮮が核保有国として存在すること」(平均:2.20点)が並んでいます。この2つだけが、2点を上回っており、台湾海峡と北朝鮮は「北東アジアの緊張感を高め、危機管理を必要とする局面」だと4カ国の専門家は判断していることになります。
それに続くのが、「南シナ海における領土・領海を巡る対立」の1.88点、「米中対立やデジタル分野での覇権争い」の1.86点で、2点台に迫っています。
基準2:2021年に北東アジアの平和に対して実際に困難や障害となる可能性
続いて、2021年に北東アジアの平和に対して、実際に困難や障害となる可能性について、各項目を3点満点で採点評価してもらったところ、最も高い得点は「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(平均2.03点)で、「アジアにおける中国の影響力がさらに拡大すること」(平均2.02点)、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(平均:1.97点)となり、専門家間ではこの3つが「2021年内に困難や障害が表面化する可能性が高い」リスクと考えられています。「南シナ海における領土・領海を巡る対立」が1.82点、「新型コロナの経済財政への影響」が1.80点でそれに続いています。
この基準1、基準2の点数を合計して、2021年の「北東アジアの平和を脅かす
10のリスク」が決定されました。1位になったのは、「北朝鮮の核保有」でしたが、これは核兵器が実際に使用された場合、その被害が甚大かつ広範囲に及ぶため、「影響と深刻さ」に関する基準1で2.20点と高い得点になったことが大きな要因となったものとみられます。
一方、第二位となった「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」は、すでに対立が深刻化していることから、「実際に2021年に困難や障害となる可能性」に関する基準2で2.03点と高得点になったことが順位を押し上げる要因となりました。
第三位の「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」は、すでに中国と、米国・ASEAN諸国などとの間に対立が顕在化していること、事態がエスカレートした場合の影響が深刻であることなどから、基準1(1.88点)、基準2(1.82点)のいずれもが高い得点水準となっています。
外交・安全保障専門家の国別採点結果
2021年の「北東アジアの平和を脅かす10のリスク」をこの採点に協力した各国の専門家はそれぞれどのように判断したのでしょうか。ここでは専門家の国別の採点結果を公表します。
【日本の専門家】
日本では外交と安全保障の専門家55氏が採点に協力しました。日本の専門家では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(4.27点)、「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(4.12点)、「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」(3.98点)の3つが4点前後で並んでいます。
他の3カ国と異なる傾向がみられるのは、「中国の海警法の執行と、現状変更に向けた行動」で、3.85点と4番目に多い結果となっているなど関心が高まっています。
【米国の専門家】
米国では採点に、外交、安全保障の専門家35氏が協力しました。米国の専門家では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」(4.63点)が最も多く、次いで「南シナ海における領土・領海をめぐる対立」(4.20点)となり、ここまでが4点を大きく超えています。他の3カ国とは異なり、「ミャンマーのクーデターを始めアジアにおける民主主義が後退すること」が3.57点で7位に入っています。
【中国の専門家】
中国の外交・安全保障の専門家は50氏が採点に協力しました。専門家の評価は、全体的に日米韓とは異なる傾向をみせており、「新型コロナウイルスが、アジア各国の経済や財政にさらに大きなダメージを与えること」(3.52点)で最も多い結果となりました。これに「米中対立や、デジタル分野における覇権争い」(3.46点)、「バイデン米新政権のアジア政策の方向性」(3.44点)、「インド太平洋における日米豪印などの連携と中国の対立」(3.42点)が同水準で並び、米国の行動に中国の専門家の関心が高まっています。4点を超える項目はありませんでした。
【韓国の専門家】
韓国では、「北朝鮮が核保有国として存在すること」が突出しており、4.91点と5点近くになっているなど、「北朝鮮」に専門家の強い懸念が表れています。また、「日韓対立」をリスクと見る専門家の採点は3.15点と9位に入っており、「台湾海峡での衝突や偶発事故」を上回っています。