今回のアジア戦略会議では、「米国の朝鮮半島政策転換と日本への含意」をテーマに取り上げ、「追い詰められる安倍外交」について議論が行われました。ここでも政権評価と選択肢の提示に向けた議論形成を開始しました。
ゲストスピーカー:倉田秀也氏(杏林大学総合政策学部教授)
アジア戦略会議では2月には日本の外交政策全体のあり方を巡って議論を行い、3月には日中関係について総括的な展望を行うなど、このところ、日本の外交政策を中心に議論を進めてきています。4月20日の今回の会合では、まさに現在動いている時事的な問題として北朝鮮情勢を取り上げつつ、今の安倍政権の外交政策について議論を行いました。
昨年末に言論NPOが実施した「安倍政権の100日」についてのアンケート調査では、安倍政権の評価は内政面では低いものとなったのに対し、外交・安全保障面については総じて高い評価が得られました。しかし、現在までの展開をみると、その安倍外交も様々な面で行き詰まりの懸念が見え始めていることが、今回の議論でも明らかになりました。この点については、言論NPOが現在開始している安倍政権の評価の過程で再度、議論を深めていくこととしています。
今回の会議では、いずれも当会議のメンバーである、杏林大学教授の倉田秀也氏と、早稲田大学政治経済学部教授の深川由紀子氏がスピーカーとなり、それぞれ『「北京合意」後の朝鮮半島情勢と日本』、『自由貿易協定(FTA):意図と懸案、当面の展望』というテーマでプレゼンテーションが行われました。
まず倉田教授は、核実験後の朝鮮半島情勢について、「北朝鮮に対し、金融制裁を加えながらも、融和的措置をとるという、アクロバティックな状況」との認識を示し、米国内の選挙の影響などを背景に、米国が対北朝鮮政策の原則から大きく乖離していること、6者会談の2つの効用(集団的圧力と集団的支援)のうち、今やこの場が専ら集団的支援の場と化したことなどを指摘しました。
昨年の北京合意は、北朝鮮が望む朝鮮半島情勢をつくることで非核化進展の流れをつくるもので、そこには6者会談各国それぞれの思惑が絡み合っており、日本としては、特に米朝関係がテロ支援国指定解除を目指すものへと変化していることも踏まえ、拉致問題一辺倒ではない対応が求められることなどが強調されました。
次に深川教授は、基本的にはFTAが政経分離で進められるのに対し、米韓FTAについては非常に政治的色彩が強く、対北朝鮮融和、日中とのバランサー、また閉塞する経済の突破口としての位置づけを期待する韓国と、自国抜きでの東アジア地域主義を牽制する米国の意図が絡み合って交渉が進められているとの認識を示しました。
深川教授は、この米韓FTAについては、今年12月の韓国大統領選挙や韓国国内の反発といった不安定要素も多く、北ばかりを見て外交・経済政策を組み立ててきた韓国の政策のアンバランスさが明らかになったものとしました。そして、外交的には拉致問題のみを押し出し、経済的にはアジア・ゲートウェイによりアジアと足並みを揃えようとしているという、バランスを欠いた安倍政権の下では、日本のFTA交渉も進まず、とりわけ中韓FTAができればその日本へのインパクトは極めて大きいと指摘しました。
その後、自由討議に移り、その中で添谷教授からは、安倍政権の外交政策が体系性を欠いていることが、壁にぶつかった際の処方箋を難しくしているとし、北朝鮮情勢が急速に進展し日本の孤立の構造も出始めた中で、体系性の欠如から拉致問題の「解決」の定義もできないでいること、拉致問題の次に何をするのかを出していかなければ日本の立場は説得力を持たないことなどについての指摘がありました。
その他、北朝鮮問題に加え、来る日米首脳会談、日豪安全保障協定、アジア・ゲートウェイ構想など様々な論点に関して安倍政権の外交についての議論が行われ、安倍政権が「美しい国」にこだわるだけでなく、北朝鮮が実際に核実験をしたという事実や、アジア情勢、米国の政策の変化などを見据えた戦略的な外交をどう描くべきかについて、活発な議論が出されました。
今回の会議では、安倍政権を評価する上での様々な視点が提示されることになりましたが、それらについては言論NPOのマニフェスト評価にも反映させるとともに、来る参院選に向けた日本の選択肢の議論にも盛り込む形で公開していくこととしています。
今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)
倉田秀也(杏林大学総合政策学部教授)
安斎隆(セブン銀行社長 元日銀理事)
添谷芳秀(慶應義塾大学法学部教授)
深川由起子(早稲田大学政治経済学部・国際政治経済学科教授)
松田学(財務省〔東京医科歯科大学教授〕、言論NPO理事)
工藤泰志(言論NPO代表)
今回のアジア戦略会議では、「米国の朝鮮半島政策転換と日本への含意」をテーマに取り上げ、「追い詰められる安倍外交」について議論が行われました。ここでも政権評価と選択肢の提示に向けた議論形成を開始しました。