「言論NPO 第4回国際シンポジウム」を開催

2005年2月22日

050221_sympo2.jpg2005/2/21 (月)
言論NPO 第4回国際シンポジウム 報告
自民・民主・公明3党政調会長はじめ内外の著名パネリスト12人らが活発な議論

場所:経団連会館



言論NPO(代表・工藤泰志)は、2月21日(月)午後12時45分から午後6時15分まで、東京千代田区大手町の経団連会館14Fの経団連ホールに延べ330人の参加者の人達とともに、「2030年の将来に向けた日本の選択肢――アジアの中で日本は自らのアイデンティティーをどう描くのか」というテーマで、「第4回言論NPO国際シンポジウム」を開きました。

シンポジウムは、第1セッション「30年後の将来における日本の可能性」、第2セッション「政党が選択する日本の将来像」、第3セッション「日本に問われる将来の選択肢とアジアの中での役割」という重厚なテーマの3部構成で展開しました。「多くの課題を背負う日本の将来に対して、傍観者ではなく、課題解決に向けて答えを出すための議論を行いたい。今回のシンポジウムも、そのきっかけにしましょう」という工藤代表の開会あいさつで、シンポジウムはスタートしました。

3つのセッションの議論のポイントになる「2030年の日本の将来に向けた日本の選択肢」について、言論NPOの松田理事が言論NPOアジア戦略会議主査の立場で報告しました。報告内容は別添のとおりですが、松田理事は、この中で、日本の将来の選択肢を「世界の潮流」「日本に問われる課題」「パワーアセスメント」の3つの軸から導き出し、「アジア」「開かれた日本」「課題解決能力」がキーワードで示されるとしました。日本が目指すべきは世界のソウトリーダーであり、「知のプラットフォーム」だと語りました。

これを踏まえて、第1セッションでは、社会システムデザイナーの横山禎徳氏がコーディネーターとなって外交評論家の岡本行夫氏、日本学術会議会長の黒川清氏、国際通貨研究所長の行天豊雄氏、ベンチャーキャピタリストの原丈人氏のパネリスト4氏で30年後の日本についての議論を行いました。

岡本氏は、外交評論家の立場で、「30年前の1975年に今日を予測できなかったように、30年後の2030年を予測するのは難しい」としながらも、米国はいま以上に覇権主義色が強くなっている可能性が強いこと、そういった前提のもとに日米関係は、日本が武装中立を選択しない限り現行の日米安保体制が続いているとみられること、日中関係については、30年後も依然として大きな関係改善がみられない懸念があること、ただ中国自体は経済力をつけアジアの大国となっているであろう、といったことなどを指摘しました。

続いて、行天氏は、30年後の世界の状況について、米国経済は衰退しないが、頂点に達し守りの姿勢に入ること、ただ、人口が4億を超し中国、インドに続く人口大国となりマーケット経済を武器に力を発揮することに変わりがないこと、またアジアでは中国をトップに日本、インド、韓国の4強体制になり、その中で日本がどこまでリーダーシップをとれるかがカギであること、とくに日本はマーケットをオープンにすると同時に国際競争力や国際的なブランド力のある企業を輩出させる必要があること、アジア4強の1つ、中国とは敵対関係に陥るリスクだけは回避することが必要などを挙げました。

また黒川氏は、30年後を想定した場合、アジアに世界の人口の60%が集中し同時に日本のみならず中国などにも高齢化の波が押し寄せること、そうした中で環境、エネルギー、食料などの確保が大きな課題となり、日本を中心に新しいチャレンジが必要であり、日本にとっての課題が多いことを指摘しました。

原氏は、世界の経済を支える基幹産業の観点から30年後の経済社会について、問題提起をされました。具体的には、日本経済をみた場合、30年前は鉄鋼産業が、さらにその30年前は繊維産業が日本経済を支えていた。いまはコンピュータを軸にした情報通信産業に代わっているが、今後の30年を考えた場合には、コミュニケーション・アーキテクチャーといった新しい産業が台頭し経済社会の概念を変えていく可能性があり、日本は技術開発を活発に行うことが重要である、と述べました。

このあと、各パネリストは、さらに踏み込んで持論を披露しましたが、このうち、岡本氏は「日本は、ビジョンと戦略を持ち合わせていないことが決定的に弱みとなっている」とし、その一例として、日本が国連安保理事会の常任理事国入りをめざしていることを挙げ、「それ自体、必要な政策判断と認める。だが、日本にはそのための戦略がないことが問題だ」と指摘しました。

また、行天氏は、「日本の将来を展望した場合、人口は減り、利子生活者が増える活力なき成熟国家になるリスクがある。緊張感、危機感をどう持つかが大事だが、次代を担う人達を育てる教育が重要だ。それに、有能で、若若しい政治リーダーが出てきて、将来を展望しながら、みんなに号令をかかける、ということが必要だ」と述べました。


続く第2セッションでは、工藤言論NPO代表をコーディネーターに、自民党の与謝野馨氏、民主党の仙谷由人氏、公明党の井上義久氏の3党政調会長が「政党が選択する日本の将来像は何か」をテーマに議論しました。
3氏が最初に、アジアのダイナミズムが世界の大きな潮流となる中で、日本が果たすべき役割がどういったものになるか、という点について、考え方を述べました。

そのあと、工藤氏が、問題提起をする形で、「今後は、経済社会の枠組み変えていく1つのポイントとして格差を認めるかどうか、という点があります。端的には、所得、地方、受益などについて、政治は格差というものを容認するのかどうか、という点が1つ。また高齢化社会のもとで活力を維持するために、外国人労働力の受け入れを認めるかどうかという点が2つめ。いま、政治はこれらの問題にどう対応するか、お聞きしたい」と質問を投げかけました。

これに対して、与謝野氏は「社会の活力を維持するためには、ある程度の格差は必要だが、日本は、これまで、所得税による所得再配分機能を活用し、貧富の差を是正し平準化を図り、それによって社会の安定が図ってきた。米国のように、勝者、敗者がはっきりする社会の考え方、また市場原理主義者が言っているような考え方もあるが、私は、政治が軸になって格差を是正し公平な社会をめざすことが重要だと思う」と述べ、格差社会自体については、とるべき選択肢でない、との考えを示しました。
また、与謝野氏は、外国人労働力の受け入れについても「政治家として、賛成できない」と述べました。与謝野氏によると、辛い仕事を外国人に委ねたりするということ自体が日本人の精神の退廃につながることだ、との判断で、「ドイツの場合も、トルコ人移民を受け入れたが、短期的にはプラスの面もあった。しかし中長期的には高い社会的なコストの支払いを招いている。それが正しい政策選択かどうか、よく考える必要がある」と述べました。

この格差を認めるかどうかについて、仙谷氏は「いま、希望格差社会が日本に生まれそうだ、という話を聞く」と述べたあと、与謝野氏とは逆に、「2:6:2という社会の人口分布のもとで、6割の中間層が勤勉さ、モラルの高さでこの国を維持してきた。しかし、資産などのストック・ベースでの格差を認めるというのは論外として、今後は、所得のフロー・ベースで、たとえば2億円の年収を得る企業トップ階層と、200万円の年収の生活保護世帯の格差については、認めるべきかもしれない」と述べました。

また、井上氏は、日本が一気に競争型の格差を容認する社会に行くのは現実的でない、としたうえで、「社会保障がどこまでしっかり担保されているかがポイントで、社会にはある意味でセーフティネットが必要だ」と述べました。
外国人労働力の受け入れに関しては、井上氏は、現時点では「極めて慎重な立場にならざるを得ない」との考えを示しました。
また工藤氏の質問に答える形で、3氏は、財政再建問題についても、それぞれ見解を述べました。

与謝野氏は、「不況になると、鉛筆を節約するとかいった企業内でのリストラがあるが、財政は異なる。財政再建にあたっては、大きな支出項目を削らざるを得ないだろう。ただ、国債費だけは過去の借金なので、そういうふうにはいかない」と述べると同時に、今後、税制改革の最終段階で、財政再建のからみで、消費税率の引き上げなども考えざるを得ない、との見方を示しました。

これに対して、仙谷氏は「民主党が政権をとったら、財政再建の問題に真剣に対応せざるを得ないが、その対応は、頭の痛い問題だ」としながらも、与謝野氏と同様、歳出カットをする同時に、どこかのタイミングで消費税率の引き上げという形での増税を選択せざるを得ない、との判断を示しました。

井上氏は、医療、介護、年金の社会保障制度改革に関連して財源確保策をどうするかという重い問題に政治が取り組まざるを得ない、としたうえで、「与野党の3党協議の枠組みを活用して、資産課税と消費税率とのバランスの問題をどうするかということも議論していかねばならない」と述べました。


最後の第3セッションは、「日本に問われる将来の選択肢とアジアの中での日本の役割」というテーマで、国分良成慶應大教授をコーディネーターに、加藤紘一衆議院議員、韓国国立KDI経営大学院教授のジ・ホン・キム氏、在日フィリピン大使のドミンゴ・エル・シアゾン氏、前駐日インド大使のアフターブ・セット氏、中国臨時代理大使兼公使の程永華氏のパネリストが参加しました。
国分氏は、「このセッションでは、アジアの国々が、日本をどうみているか、日本の課題は何か、さらに魅力があるとしたら、それは何かを率直に議論したい」と述べました。

これを受けて、まず、加藤氏は「この1、2年、日本は日本探しの年になるだろう」と述べ、日本のアイデンティティーがポイントになることを指摘しました。

キム氏は、中国が経済成長のスピードをあげ、2025年ごろには日本のGDP(国内総生産)を超えるであろうこと、その場合、日本は中国と共同のリーダーとして共存することがアジアにとって重要になる、その場合、日本がどういったリーダーシップを発揮するかがアジアの国々の関心事である、と述べました。

また、シアゾン氏は、日中関係に言及し「いまが最悪で、政治的な津波が起きているといっていい。日本自身が、もっと政治的なリーダーシップを発揮すべきだ」と述べました。ただ、その際、シアゾン氏は、「領土問題など偶発的な問題で、日本と中国との間で、戦争が起きることも想定する必要がある」と述べ、会場に緊張感を与えました。

セット氏は、かつて19世紀に中国とインドが世界のGDPの48%を占めていたという事実を紹介したあと、「米証券会社の予測によれば、2050年までに中国、インド、それに日本の3カ国のGDPを合わせると世界で大きな比重を占める、ということだ。中国とインドは19世紀の時代と同じ状況に戻る可能性がある」と述べました。

その際、日本については、セット氏は「日本は、人口が減少し高齢化が進み、難しい状況に陥る。移民にも対応しなくてはならないだろう」と述べ、むしろ、勢いのある中国やインドと日本がどういった連携がとれるかが課題だとの見方を示しました。

程氏は、日中関係については「いずれも重要な国であり、アジアにとっても、日中双方が安定の軌道に戻れるようにしなくてはならない」と述べました。
また、程氏は、「日中は、基本的には(経済力などから見て)相互補完関係にある」と述べ、日中関係、とくに経済関係の将来について、協調関係が選択肢としてあることを強調しました。
しかし、程氏は「中国はアジアの一員だが、日本はアジアの一員と言えるものの、メディアは西側の一員と見ている」と述べました。これに対して、国分氏が「中国が、アジアの一員という意識を持ったのは最近のことでないか」と反論する一幕もみられました。

ただ、第3セッションでは、アジアのダイナミズムが大きな潮流となっていく中で、とくに経済的に中国、さらにインドが台頭していく中で、日本がどういった役割を果たすのかがポイントである、という点では議論は一致していました。
また、キム氏が、「日中はライバル意識があるのだろうが、韓国がその間に入って、和平中継が出来る」と述べると同時に、これらの国々が中核になって経済統合に向けた動きをしていくことが重要と述べたことも印象的でした。


第4回国際シンポジウムでの言論NPOの提案 「2030年に向けた日本の選択肢」
各セッションのパネリストご紹介

 言論NPO(代表・工藤泰志)は、2月21日(月)午後12時45分から午後6時15分まで、東京千代田区大手町の経団連会館14Fの経団連ホールに延べ330人の参加者の人達とともに、「2030年の将来に向けた日本の選択肢――アジアの中で日本は自らのアイデンティティーをどう描く